昭和の笑い話と思われがちですが、令和の今なお日本経済を陰で動かしているのが「三菱・三井・住友」の3大グループです。取引、就活、転職、投資において、彼らの“作法”を知らないことは大きな損失になりかねません。
なぜビールの銘柄1つで評価が変わるのか? 東洋経済新報社記者の山川清弘氏の著書『教養としての三菱・三井・住友』(飛鳥新社)から、ビジネスパーソンが知っておくべき“不文律”の裏側を解説します。
※本記事で紹介している商品の購入やサービスの利用により、売上の一部がオールアバウトに還元されることがあります。
ビジネスの現場に潜む「見えない地雷」
「住友系の企業の接待で、うっかりキリンビールを注文してしまい、場の空気が一瞬で“やらかした”感じに変わった」そんな失敗談を、みなさんは耳にしたことはあるでしょうか。もしかしたら、ご自身が冷や汗をかいた経験があるかもしれません。
たかがビール、されどビール。日本のビジネス界には、いまだにこうした「知らなかったでは済まされない不文律」が厳然として存在しています。
なぜ、住友の席でキリンビールがいけないのでしょうか。
それは、キリンビール(キリンホールディングス)が三菱グループの「食の顔」であり、グループの結束を象徴する企業だからです。
三菱グループの会合や贈答品ではキリン製品が選ばれるのが暗黙の了解であり、ライバルグループの席でそれを出すことは、相手の顔に泥を塗るような行為になりかねないのです。
では、住友グループの宴席での「正解」は何でしょうか。
一般的には「アサヒビール」とされています。
実はアサヒビール自体は住友グループの直系企業ではありません。しかし、かつて経営難に陥ったアサヒビールを、住友銀行(現・三井住友銀行)が中心となって再建したという歴史的経緯から、「住友=アサヒ」という強い絆が生まれたのです。
これらは決して、昭和時代の笑い話や都市伝説の類(たぐい)ではありません。
申し遅れましたが、私は東洋経済新報社で「株式ウイークリー」の編集長をしている山川清弘と申します。
経済メディアの記者として30年以上、さまざまな業界の裏側を取材してきました。放送やエンターテインメントに始まり、ゼネコン業界や銀行業界、コンビニ業界、旅行・ホテル業界……。
長いキャリアの中で担当する業界はさまざまでしたが、どの業界にも深く入り込んでいる巨大なグループがあるということは、経済メディアの記者であれば誰もが知っていることです。
それこそが、三菱、三井、住友。いわゆる旧3大財閥と呼ばれるグループです。
今回の企画の依頼を受けた際、「接待の時のビール会社の違いなんて、よく知らないですよ。うっかり間違えたら怖いです」と編集者に言われ、もしかしたら「記者ならば当然知っている」が、「一般的には知られておらず、知らないと損する」グループの不文律があるのではないか、と考えました。
まことしやかにささやかれる「財閥」の姿
——財閥。この言葉は、どこか都市伝説的な響きをもち、こうした不文律も「財閥だから」とささやかれることがありますが、実は現在の日本には「財閥」は存在しません。財閥とは、ある一族が支配する巨大企業グループのことです。
トップには持株会社という、他の会社の株を持つことでグループを支配する会社があり、その下に銀行・商社・メーカーなど様々な業種の企業がぶら下がっていました。一族が持株会社の株を握ることで、グループ全体をコントロールする仕組みです。
三菱・三井・住友などの旧3大財閥は、明治以降に急成長し、戦前の日本経済を支配しました。銀行でお金を集め、商社で海外ビジネスを展開し、メーカーでモノを作る。この総合力で、日本の産業発展を引っ張ったのです。
戦後、GHQ(連合国軍総司令部)によって財閥は解体され、持株会社も禁止されたため、厳密にいえば現在の日本では財閥は存在しません。
そもそも、幕末あるいはそれ以前から脈々と続くそれぞれの出自の異なる商売が、やがて3大財閥という巨大資本にまで成長する歴史物語があり、それが戦後の財閥解体で資本的なつながりがなくなったにもかかわらず、多くの企業が財閥名を社名に残したまま現代に至っている。
そして令和の現在もなお、どの業界でも「三菱的」「三井的」「住友的」といった共通の社風が見え隠れする、そんな企業グループは世界でも珍しい存在なのではないでしょうか。
令和の今でも脈々と受け継がれるグループの歴史、人格、関係性、ルール。日本社会に多大な影響を与え、“裏で操る”とも評されることもある旧3大財閥のそれらは「知っておいて損はない、大人のための教養」です。
これから就活をするという学生の方、転職を考える方、3グループと取引のある方、そして投資を考えている方は、この「教養」をぜひ知っておきましょう。 この記事の執筆者:山川清弘(東洋経済新報社 記者) プロフィール
1967年、東京都生まれ。東洋経済新報社に入社後、記者として放送、ゼネコン、銀行、コンビニ、旅行など担当。『会社四季報プロ500』編集長、『会社四季報』副編集長、『週刊東洋経済プラス』編集長などを経て『株式ウイークリー』編集長および「会社四季報オンライン」編集部編集委員。著書に『世界のメディア王 マードックの謎』(今井澂氏との共著、東洋経済新報社)、『ホテル御三家 帝国ホテル、オークラ、ニューオータニ』(幻冬舎新書)、『教養としての三菱・三井・住友』(飛鳥新社)など。



