BTSの気概とポジションを表す「アリラン」というテーマ
矢野:ところで、今回のアルバムタイトルにもなっている「ARIRANG(アリラン)」ってどういう意味でしょうか? 韓国の伝統的な歌だということはニュースを見て知りました。
ゆりこ:「アリラン」はユネスコの無形文化遺産にもなっている韓国の伝統的な民謡です。「アリラン」という曲名の意味についてはまだ分かっていません。韓国の知人たちに聞いて回ったのですが「誰も知らない」と。古くから口頭伝承で残されてきた曲なので、きちんとした記録がないそうなんですね。歌詞を要約すると「峠の向こう、はるか遠くにいる、かつて愛した人を想う」という内容なので、韓国語の「アリダ(痛む)」から来ているんじゃないかという話もあります。ただ、それも一説。
矢野:胸が痛む、切ない恋の歌という感じなのですね。そういう曲が民謡として広く知られているというのも面白いです。
ゆりこ:はい。一見すると失恋ソングです。一方で、幅広い捉え方ができる部分もあります。乗り越えてきた過去を振り返り、つらいことをバネにして前を向こうとするような意思を読み取ることもできますし、聞く人のタイミングや人生観によって解釈が変わる曲だと思います。これは韓国の友人たちの受け売りなのですけれど(笑)。
矢野:韓国の方は全員、この「アリラン」を知っているんですか? 日本の「さくら〜さくら〜」みたいに。
ゆりこ:小学校などで歌うので、ほとんどの人が知っているそうですよ。興味深かったのは、一般的に知られているアリランは「後発曲」だという話でした。アリランは地域ごとにメロディーやリズムの違った別バージョンがあるんですって。みんなが知っているのは「キョンギ アリラン」というもので、キョンギ道、つまり韓国のソウルを中心とした“首都圏”の民謡。BTSが2016年に一度ステージで歌っているのですが、それも「キョンギ アリラン」がベースとなっています。
矢野:元祖となる別バージョンが存在するってことですね?
ゆりこ:韓国観光公社によると、江原道(カンウォンド)の旌善(チョンソン)アリランが始源と言われているそうです。他にも珍島(チンド)アリラン、密陽(ミリャン)アリランが有名で、合わせて「3大アリラン」と呼ばれるとか。YouTubeで見てみたのですが、全部違う曲に聞こえるほど多種多様です。
矢野:先日3月17日に公開されたNetflixのドキュメンタリー映画『BTS: THE RETURN』のトレイラーでも「『アリラン』のテーマは切ない思い」というメッセージが入っていましたね。
ゆりこ:字幕の「切ない思い」という部分、実際には「恨(ハン)が込められた音楽」って言っているんです。漢字の通り「恨めしい」という意味ではなく、生きていく中で抱える不条理への悲哀、悔しさ、わだかまりなどを表します。字幕の通り「切ない思い」も含めた、複雑な感情です。日本語だと一言で表すのが難しいですね。
矢野:韓国的な情緒を大事にしながら、普遍的な人生の痛みを音楽に乗せて届けていく、そんなイメージでしょうか。さらに成熟した姿を見せてくれるんだろうな、という期待感があります。
ゆりこ:すでに韓国のポップカルチャーの象徴。世界中で聞かれるアーティストになったからこそ、今あえて自分たちのルーツである韓国の感性と文化を世界へ提示する。それは「どこまでも自分たちらしく、韓国発のアーティストとしての誇りを忘れない」という、彼らの意志の表れのようにも感じます。
矢野:僕は何より新譜、彼らの新しい音楽が楽しみです! メンバーが参加した曲も多いようですし、世界的なコンポーザー、プロデューサーたちが参加しているんですよね。
ゆりこ:Tame Impalaのメンバーや、ハリー・スタイルズの曲でおなじみタイラー・ジョンソンの名前もありました。すでに公開されている曲名とクレジットの一部だけでも、期待してしまいます。私は残念ながら光化門のチケットをゲットできませんでしたが、せめて現地の空気感だけでも味わおうと、ソウルに行ってきます!
矢野:次回は現地の感想とリポートをお願いします! 僕は日本で配信と音源で楽しもうと思います。
<参考>
・KOREA WAVE/AFPBB News「韓流BTS光化門公演の無料チケット高額転売横行…最大150万ウォンで出品、政府と警察が対策強化」(2026年3月17日)
・VISITKOREA「旌善アリラン祭り(정선아리랑제)」
【ゆるっとトークをお届けしたのは……】
K-POPゆりこ:音楽・エンタメライター。雑誌編集者を経た後、渡韓し1年半のソウル生活を送る。帰国後は、K-POPや韓国カルチャーについて書いたりしゃべったりする「韓国エンタメウオッチャー」として、雑誌やWebメディアなどでの執筆活動や、韓国エンタメ情報ラジオ番組『ぴあ presents K-Monday Spotlight』(TOKYO FM)でパーソナリティーを務めるなど幅広く活躍中。
編集担当・矢野:All Aboutでエンタメやビジネス記事を担当するZ世代の若手編集者。物心ついた頃からK-POPリスナーなONCE(TWICEファン)&MOA(TOMORROW X TOGETHERファン)。



