アニメ映画『ALL YOU NEED IS KILL』のキャラデザはなぜこうなった? 敬遠するのはあまりにもったいない理由

公開前にキャラクターデザインへネガティブな声があったアニメ映画『ALL YOU NEED IS KILL』。本編を見れば「納得できる」どころか、「これが良いんだ」と思える理由があったのです。(画像は筆者撮影)

批判の声に納得できる理由もある

その上で、今回の『ALL YOU NEED IS KILL』のキャラクターデザインに(および後述するメカニックデザインにも)批判の声が届くのも致し方がない、と思う部分もあります。何しろ、原作の文庫版での安倍吉俊によるイラスト、コミカライズ版での小畑健による作画も、「硬派かつリアルでスタイリッシュ」なものだったからです。
原作が小説ということは、本来はビジュアルは固定化されていない、媒体によって流動的に変えていっても良いはずなのですが、今回は先に確立した「絵」が存在しているのですから、ファンからの「イメージと違う」という意見は正当なものだと思うのです

何より、キャラクターデザインそのもののクセがあまりに強く、近年のかわいらしさやカッコよさを追求した、多くの観客から受け入れられやすいものとは、あまりに対照的です。「リタ」の「つり目の上に目が離れている」ルックスや、もう1人の主人公の「ケイジ」の「下がり眉で冴えない印象」などを、パッと見て拒否反応を覚えてしまう心情も、理解できるのです。
思えば、STUDIO4℃の作品『マインド・ゲーム』や『鉄コン筋クリート』も個性的なキャラクターデザインでしたが、そちらは原作漫画から独特の絵柄であり、「アニメで再現するならこれがベスト」と思える納得感がありました。今回の『ALL YOU NEED IS KILL』の作り手がそれらの作品を意識したかどうかは定かではありませんが、第三者としては「過去の作品に引っ張られている」印象も持ってしまっていました。

性格にも物語にもマッチしたデザインだった

しかしながら、実際に映画本編を見ればこそ、この独特のキャラクターデザインに慣れてくるばかりか、必然性のあるものだと納得できました。それどころか「このキャラデザこそが良いんだ」と思えてくるのです。

例えば、劇場パンフレットで秋本賢一郎監督は「『並んだ時に一目でそれぞれの個性が分かるシルエット』を基本のコンセプトにキャラクターデザインしていただきました」と前置きをした上で、以下のように主人公2人の見た目を解説しています。

リタ
(前略)何気ない仕草でも格好良く決まるシルエットと、媚びず、簡単には笑顔を見せない、それでも愛される魅力的な表情が見事にデザインされています。リタのキャラクターデザインは本作の原点であり背骨。彼女の表情や仕草から、こんな時彼女なら何と言うか、どう行動するかということを皆が考えながらこの映画ができていきました。

ケイジ
人の顔色を窺いながらヘラヘラとしている冴えない男でありながら、優しさと芯の強さが、表情に込められています。リタと同じく、立ち姿やふとした時のシルエットがとてもスマートで格好良く見えるように、逆に慌てたり照れたり誤魔化したりする時の仕草はコミカルに見えるように、表情とポーズを描いていただきました。(後略)

なるほど、リタの「シルエットの格好良さ」「簡単には笑顔を見せない」様や、ケイジの「ヘラヘラとしている印象」「それと相反する優しさや芯の強さ」という、それぞれの性格を反映したキャラクターデザインは、劇中の物語を追ってみてこそ、確かに魅力的に映ったのです。

さらに、CGWORLD.jpの秋本監督へのインタビュー記事では、村上泉によるキャラクターデザインについて、「最初はもっとリアルな路線だった」「かなりの量のスケッチ、習作を経て、簡単に媚びた笑顔は見せないけど、愛らしいリタという主人公を表情集やポーズ集、イメージボードとして描き起こしていただきました」「描き上げてもらったものからインスピレーションを受けて、『リタだったらこういう行動をとるだろう』と、脚本の木戸雄一郎さんとともに様々な展開を考えていきました」などとつづられています。

やはり、誰かの独断やSTUDIO4℃の「らしさ」というよりも、物語やキャラクターの個性を鑑みての、スタッフの「三位一体」でこそ構築されたデザインであることが分かります。

メカニックデザインも「ボランティアスタッフらしさ」を反映していた

また、キャラクターデザインだけでなくメカニックデザインにも批判の声が寄せられていますが、そちらも意図的に「差別化」が図られたものでした。

実は、原作やハリウッド実写映画で主人公たちは兵士だったのですが、アニメ映画では「国内外から無作為に選出された、復興作業にあたっているボランティアスタッフ」になっているという、設定の大胆なアレンジがあります。それに沿うように、劇中のスーツは「戦闘用のメカメカしさ」よりも、「復興作業用の丸っこい親しみやすさ」を感じさせるデザインになっているのです。

実際にメカニックデザインを担当した出雲重機は、劇場パンフレットで「ガジェットやビークル類は、原作とは異なる非ミリタリー設定に基づき、工業製品感を重視しています」「原作はすでに様々な形でビジュアル化されていたので、それらの印象を一旦手放す必要がありました」などと語っています。

その上で、「ボランティアスタッフのジャケット」は「アクションが映えるようなシルエットと、(モーションによって)観る人の運動共感を刺激できる形を理想」としてデザイン。さらに「強化ジャケット」は秋本監督発の案を元に「ループする1日の中の短い時間で応急的に改造したような構造」にした上で、「シルエットの効果に加え、キャラクターの頭が見えていることで相対的な巨大感を強調した」のだそうです。
まさにその言葉通りで、現実ではあり得なさそうなスーツのシルエットも、激しいバトルシーンでは動きをよりダイナミックに感じさせる効果を生んでいました。危険な異星生物が襲いかかる「禍々しい」舞台の過酷さには、親しみやすさのあるスーツは、そのギャップも含めて「映えて」いたと言えるでしょう。
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大胆なアレンジにも確かな意義がある
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