(C)武田一義・白泉社/2025「ペリリュー ー楽園のゲルニカー」製作委員会
なぜなら、本作は『この世界の片隅に』に並ぶ戦争アニメ映画の金字塔だと断言できるからです。現時点で、シンエイ動画制作のアニメ映画は『窓ぎわのトットちゃん』『化け猫あんずちゃん』『トリツカレ男』に続いて「傑作しかない」とてつもない事態になっています。これからは、シンエイ動画制作のアニメ映画が公開されたらすぐに見に行くことを社会常識にするべきです。
この記事の執筆者:
ヒナタカ
映画 ガイド
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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注意点:かわいい絵柄ながらPG12指定。でも子どもにも見てほしい
本作の注意点は「軽微な殺傷流血・肉体損壊描写がみられる」という理由でPG12指定(12歳未満は保護者の助言・指導が必要)がされていること。かわいい絵柄でありながらも、戦争で無惨に人が死んでいく様を容赦なく描いているのです。 しかし、本作で訴えられている反戦のメッセージは、戦争を知らない世代、若い人にこそ見てほしいと思えますし、戦争の残酷さを包み隠さずに示すことそのものが重要な作品であると思えました。今のお子さんは、同じくPG12指定がされた劇場版『鬼滅の刃』で、ある程度の「耐性」はできていると思いますし、小学校高学年ごろからであれば、ぜひ鑑賞してほしいと願えるのです。
前置き:親しみやすく、予備知識を必要としない理由
なお、原作漫画の作者である武田一義は、「生っぽさのある内容とかわいらしいキャラクターのギャップ」の意図について、こう答えています(以下、武田一義の文言はプレス資料より引用)。この言葉通り、生々しい戦場のリアルを描きながらも、かわいいキャラが癒しにもなっているため、作品の間口はとても広いと言っていいでしょう。自分が意識していたのは、可愛いのはキャラクターのデザインまでということです。それ以外の戦場で実際に起こったことは、デフォルメしてごまかしたりするのではなくリアルに描写していこうと決めていました。逆にいえば、リアルに描写するぶん、読者の方々が「キャラクターが可愛いから、きつい現実の話でも読んでいける」と思えるような入り口や癒しになるように気を配りました。
しかも、実際の内容としても暗くて重いだけでなく、クスッと笑えるユーモアあり、ハラハラドキドキのサスペンスあり、束の間の平和を過ごす場面あり……と、とても親しみやすい、エンタメ性も存分にある内容なのです。
さらに、太平洋戦争の知識もまったくと言っていいほどに必要としません。最低限の情報はしっかり示されていますし、むしろ何も知らない状態でこそ、劇中の登場人物が「戦況をまったく把握できていない」気持ちとシンクロして、物語を追えるのかもしれません。
そういう意味で、本作は戦争映画の入門にもおすすめです。以下からは内容に踏み込みつつ、ここまでの傑作になった理由を解説しましょう。



