サッカークラブは誰のもの? 横浜F・マリノスの「身売り話」を巡る混乱からクラブ経営の在り方を考える

日産自動車による横浜F・マリノス株売却報道が波紋を呼びました。「身売りか」と騒がれたこの問題は、「プロサッカークラブはいったい誰のものか?」という根源的な問いを突きつけます。(画像出典:PIXTA)

業績不振の日産自動車がサッカー・Jリーグの横浜F・マリノスの株式を売却すると複数メディアが報じ、「身売りか」と騒ぎになりました。日産は「筆頭株主であり続ける」と否定しましたが、プロのサッカークラブとは誰のものなのでしょう?

前身は日産自動車サッカー部

横浜F・マリノスの前身は、1972年創部の日産自動車サッカー部です。1993年発足のJリーグでは「オリジナル10」と呼ばれるスタート時の10クラブにも名を連ね、日本サッカーを代表する名門クラブといえます。

Jリーグ発足時の顔ぶれを見ると、▽鹿島アントラーズ(住友金属)▽ジェフユナイテッド市原(古河電工)▽浦和レッズ(三菱自動車工業)▽ヴェルディ川崎(読売クラブ)▽横浜マリノス(日産自動車)▽横浜フリューゲルス(全日空)▽ガンバ大阪(松下電器)▽名古屋グランパスエイト(トヨタ自動車)▽サンフレッチェ広島(マツダ)――などと企業が所有するサッカー部を母体とするクラブが大半を占めました(カッコ内は日本サッカーリーグ時代のチーム名)。唯一、地域密着型の市民クラブだったのは、清水エスパルスだけです。
 
プロリーグの発足に際し、Jリーグ側は企業名を名乗ることを認めず、親企業の多くは株主という形でクラブを支えることになりました。ただ、横浜フリューゲルスは出資企業の経営難から1999年に横浜マリノスに吸収合併され、「F・マリノス」となって今に至ります。

経営悪化が続く日産自動車

日産自動車は現在、横浜F・マリノスの運営会社の株式を約75%保有しています。ところが、日産の経営が悪化し、2025年3月期に最終損益6708億円と過去最大の赤字を計上。このため、世界で従業員2万人の削減と7工場の閉鎖といったリストラを発表しました。
日産スタジアム
横浜F・マリノスの本拠地である日産スタジアム(画像出典:PIXTA)
スポーツにおいてもコスト削減を進め、「日産スタジアム」の名称で親しまれてきた横浜国際総合競技場の命名権更新に際し、所有する横浜市に現状の半額以下となる年間5000万円での再契約を申し入れたほどです。

さらに、F・マリノスの株式を保有し、イングランドのマンチェスター・シティなどを傘下に持つ英国のシティ・フットボール・グループ(CFG)とのグローバル・パートナーシップ契約も終了しました。
 
日産によるF・マリノスの株式売却が伝えられる中、家電量販店の「ノジマ」が「正式な話があれば買収を検討する」というニュースも報じられました。

しかし、日産は「横浜F・マリノスの筆頭株主であり続けます」と身売りは否定。そのうえで「財務的な持続可能性を高めるため、長期的な戦略の一環として、株主構成の強化について積極的に検討しています」と株式の一部売却には含みを持たせました。
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企業スポーツの休廃部が続いたバブル崩壊期
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