ヒナタカの雑食系映画論 第191回

映画『宝島』を見る前に知ってほしい3つのこと。妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝の「実在感」が成し得たものは

映画『宝島』は、「数字」で想像できるスケールを超えた、「戦後沖縄」を描ききった超大作でした。知ってほしいただ1つの言葉のほか、妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝が演じた「実在感」のあるキャラクターを紹介しましょう。(画像出典:(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会)

3:妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝の熱演

本作の見どころは豪華キャスト陣が、隅々まで当時の沖縄にタイムスリップしたような世界に「本当にいたんじゃないか」とさえ思える、実在感のあるキャラクターを熱演していること。それぞれが演じてきた役柄の、集大成とすら思えました。

妻夫木聡が演じるグスクが選んだ道は「刑事」。言動はかなり荒っぽいものの、その有能さのため米軍諜報部の高官から「友達」になることを提案されたり、ヤマコ(広瀬すず)と過ごすシーンでは穏やかな表情も見せたりもする、人間くささが目立つ人物です。
宝島
(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会
その苦悩や葛藤がやがて「コザ暴動」へと結びつく様、予告編でも見られる「なんくるない(なんとかなる)で済むかぁ! なんくるならんどぉ!」と叫ぶようになるまでの過程を見せきる、妻夫木聡の表現にも注目してほしいところです。

妻夫木聡は、19年前にコザを舞台にした映画『涙そうそう』をきっかけに地元の人々と交流を続けていたそうで、彼自身「今回の出演者の中でもコザに対しての思い入れはすごく深いのかもしれないですね」と語っています。劇中では攻撃的な印象が目立ちますが、一方で「うちなんちゅ(沖縄の人)」として溶け込むような、妻夫木聡の親しみやすい存在感にも注目してほしいです。
涙そうそう
涙そうそう
広瀬すずが演じるのは、小学校の先生という道を選んだヤマコ。大友監督から「太陽のような存在でいてほしい」と役を託された彼女は、恋人だったオンちゃん(永山瑛太)への想いを年齢とともに変化させていきます。
宝島
(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会
しかし、とある悲劇の場面では、その想いや人生までもが一変してしまいます。泣き崩れる広瀬すずの演技も圧巻ですが、その後はデモに参加するようになり、試練を乗り越える強さを手にしたようにも、危うい道を選んでしまったようにも見え、強く心が揺さぶられるのです。

広瀬すずは、9年前の映画『怒り』で性的暴行を受ける少女という、痛ましいという言葉では言い尽くせないほどの役を演じたこともありました。今回もまた沖縄という地で、決して消し去れない悲劇に見舞われる役であり、広瀬すず自身が「思い出すとその時の感情がよみがえってきて胸が苦しくなる」と振り返りつつも、「自分の中で何かひとつヤマコとしての軸を持ち、物語のなかでどんなことが起きてもブレずに、男たちに負けずに、沖縄に降りかかることに堪えることができたら、自然と太陽のような存在になれるのかなと思って演じました」と語っており、その言葉通りの「負けない」精神性も役柄から感じられます。
怒り
怒り
一方で、窪田正孝演じるレイが選んだ道はヤクザという、完全に「正しくない」道です。窪田正孝自身、「レイの最終的な行動が、言葉ではなく暴力に動いていってしまうことも、この物語としての役割のひとつ」だと考え、「アクセルを踏んだらどこまでも行ってしまう危うさ、ブレーキが効かない、そういうレイの葛藤や本心の部分をお芝居として見せていけたら」と、意識して撮影に臨んだのだそうです。
宝島
(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会
窪田正孝は善良な役を演じてきた一方で、直近の映画『悪い夏』では極端なサイコパス、また『Cloud クラウド』などでは「いつ暴走するのかわからない」危うさのある役も演じきっていました。今作で演じたレイは、簡単には感情移入することができない、非常に攻撃的な人物。非人間的な印象をまといながらも、偉大な兄貴分であるオンちゃんの存在に対するコンプレックスを抱えており、「もしかすると踏みとどまれるのではないか」と思わせる役柄なのです。
悪い夏
悪い夏
Cloud クラウド
Cloud クラウド
三者三様の生き方で、足並みがそろわずにバラバラだった3人が、永山瑛太演じるオンちゃんの「不在」をきっかけに、実は同じ思いを抱き、時にはそのことで「つながっていた」ことを示す物語だといえるでしょう。
宝島
(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会
3人が辿り着く結末は、妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝はもちろん、他キャスト陣も全力で「ぶつかり合った」ことが結実した、言語化できないほどの感動がありました。それぞれのファンはもちろん、日本映画の底力を知りたいという人、戦後沖縄の出来事を体感したいという人は、最優先で映画館に駆けつけてほしいです。
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ヒナタカ
この記事の執筆者: ヒナタカ
映画 ガイド
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。 ...続きを読む
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