1週間の親子留学が教えてくれたこと
岡本さん親子が参加したのは、フィリピン・セブ島でQQEnglishが主催する1週間のファミリーキャンプ。
事前のレベル分けテストを経て、現地では毎日2コマのマンツーマンレッスンを受け、レッスン終了後は、ビーチやスクールのあるマクタンニュータウンで自由に過ごしました。
同じグループには年長から6年生までの子どもがいて、すぐに友達もできたし、スクールではお世話係の先生がついているので、お母さんも安心して過ごせたそうです。
今回は、初めての海外だったので1週間のトライでしたから、もちろん英語がペラペラになったわけではありませんが、「英語の発音がよくなり、買い物などで積極的に英語を使おうという姿勢が見られた」と岡本さん。
Hちゃんも帰国後「もっと英語を話せるようになりたい」という気持ちが増してきたそうで、「また行きたい!」と言っているそうです。
もう1つ留学してよかったことは、東南アジアの現状を実際に見たことで視野が広がり、同時に日本での暮らしを見直す機会になったことでした。
トイレや食事など、日本とは違う環境の中で生活することで、日本の当たり前が当たり前ではないことに気づいたのです。
また、トタン屋根のバラック小屋のような家が立ち並ぶスラム街に野良犬が歩き回る景色や、そこで土産物を売っている子どもを目にしたことで、自分がどれだけ恵まれていたのかということを実感する機会にもなりました。
Hちゃんは、小1のとき、KnK(国境なき子どもたち)の動画を見て、学校に行けない子どもたちのことを知り、自分には何ができるかを考えて、自作したブレスレットやレモネードをマルシェで販売し寄付する活動もしてきたのですが、動画の中の世界が、実際に存在するのだということ実感したことは衝撃だったそうです。
「経験に勝るものはなし」と言いますが、まさにその通り。岡本さん親子にとっては、中学受験から撤退したからこそ得られた学びだったのです。
QQEngkishでは、中学生からはスラム街でのボランティア活動などに参加するプログラムもあるので、来年以降はそんなプログラムに参加することも考えているそうです。
日本の中にいると、その中でよいとされる価値観に左右されますが、一歩外に出れば、全く違う価値観の世界が広がっていることに気づかされます。
グローバル教育への関心が高まっていますが、大人も海外に出て違う文化や環境、そして違う価値観を持つ人たちに触れる経験をすることは大切ですね。
壁にぶつかったら、「目的」を振り返るチャンス
このように中学受験で壁にぶつかったことで、本当にやりたいことは何かを深く考えた岡本さん親子の話を聞いて、筆者も改めて、時には立ち止まって考えること、そして親子で対話することの大切さを教えられました。
同じように、壁にぶつかっているかもしれない人には、そんなときこそ気づかぬふりをして走り続けるのではなく、あえていったん立ち止まり、何のために受験をするのかを考えてみてほしいと思います。
その結果、やはり受験をしようと思えたら、それでいいのです。その目的を達成するために、今は我慢して受験勉強に励む。その結果、得られることもたくさんあるでしょう。それも素晴らしいことです。
反対に、岡本さんのように、本当にやりたいことをするために、受験から撤退するという決断もまた素晴らしい。それが、筆者が説いている受験軸を持つということです。
今回お話を聞いた岡本さんは、日頃から「子どもひとりひとりの持つ無限の可能性や成長のプロセスを信じて見守る」という姿勢で子どもと向き合っていました。
そのため、わが子にとって今どのような決断をすることが大切かを考えて、積極的な撤退という道を選びましたが、多くの親御さんはなかなかできないことかもしれません。
でも筆者は、やはり時々振り返ることは大事だと思います。
受験生は、これから入試本番に向けて、いかにして合格を勝ち取るかという話を聞く機会が増えると思いますが、何のために受験をするのかという受験軸を持てたら、それが最強のモチベーションです。
夏の疲れも出る頃。ときにはおいしいお茶やお菓子を用意して、お子さんと向き合って対話の時間をとってみませんか。
拙著『中学受験 親子で勝ち取る最高の合格』(青春出版社)には、受験軸を作るための対話シートもついています。
この記事の執筆者:中曽根 陽子
数少ないお母さん目線に立つ教育ジャーナリストとして、紙媒体からWeb連載まで幅広く執筆。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエーティブな力を育てる探究型の学びへのシフトを提唱。お母さんが幸せな子育てを探究する学びの場「マザークエスト」も運営している。『<中学受験>親子で勝ちとる最高の合格』(青春出版社)、『1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)など著書多数。



