AIに負けない子の育て方 第24回

「頑張って」と送り出した娘が、塾の前で動けなくなって…。親が下した「最高の選択」とは【中学受験】

受験者数・受験率ともに高止まりの様相が続いている中学受験。志望校合格への道の厳しさも、子どもたちへの負担も増しています。中学受験から積極的に撤退し、親子留学という選択をした親子を取材。そこから見えてきたことは……?(画像出典:PIXTA)

積極的撤退
子どもの笑顔が消えたら、立ち止まる勇気を(画像出典:PIXTA)
2025年の首都圏私立・国立中学受験者数は5万2300名と微減だったものの、受験率は過去2番目の高さ。受験者数・受験率共に高止まりの様相が続いていて、保護者の関心の高さが伺えます。

特に最近人気なのが、グローバル教育とSTEAM教育の充実です。しかし、人気が高まるということは、志望校合格への道は厳しさを増しているということ。それだけに子どもたちへの負担も大きくなっているわけです。

それでも、子どものためによりよい環境を与えたい。そんな思いから頑張っている親子はたくさんいると思います。


得たいものを得るためには、やりたくないことも我慢してやるべき。それも一理です。しかし、子どもがどこまでそれに耐えられるのかを見極めることも大事。

その結果、中学受験をしないという選択もあり得ます。つまり、「積極的撤退」です。

実際、英語が大好きで、英語教育が充実している中高一貫校への進学を希望して受験準備を始めたものの、中学受験からの撤退を決意。その代わり、親子留学を選択した親子がいます。

親子が受験からの撤退を決意した理由と、その代わりに得たものとは……。

中学受験、始めてみたら予想外の事態に……

今回話を聞いたのは、岡本麻友子さん。奈良県天理市で「森のようちえんウィズ・ナチュラ」を主催している方です。

森のようちえんとは、デンマーク発祥の自然の中で行われる保育。ヨーロッパを中心に広がり、日本でも300近い団体があります。

岡本さんの「森のようちえんウィズ・ナチュラ」では、「子どもひとりひとりの持つ無限の可能性や成長のプロセスを信じて見守る」という理念のもと日々活動をしています。

「子どもの力を信じて見守る」 森のようちえんで
「子どもの力を信じて見守る」という理念の、森のようちえんで

そんな岡本さんの一人娘のHちゃんは、小さい頃から自然の中でのびのびと育った好奇心旺盛な女の子。小学1年生から英語を学び始め、放課後は英語劇のサークルに所属し、英語に慣れ親しんできました。

そんなHちゃんが中学受験に関心を持ったのは、小学5年生のときでした。

英語の先生から奈良県立国際中学校・高等学校のことを勧められたお母さんが、Hちゃんにその話をしたところ、劇団の先輩も通学していたことから「受験したい!」ということになり、5年生の夏から受験準備を始めました。

奈良県立国際中学校・高等学校は、国際バカロレア(IB)プログラムの認定を受け、奈良県内公立校で初のIBワールドスクールとなった中高一貫校です。

それまで中学受験は全く考えていなかったのですが、その教育方針がHちゃんにも合っていると思った岡本さんは、中学受験を決意。まずは、個別指導塾で算数と国語の2教科だけで受験勉強を始めました。

それまで塾に行ったことがなかったHちゃんは、勉強のやり方を教えてもらったおかげで成績も上がり、勉強が楽しくなり、目標の学校も明確だったため、意欲的に頑張っていました。

そんな姿を見て、「うれしかったし、できるだけのことはしてあげようと思った」という岡本さん。

しかし、公立中高一貫校の受検は、4科目が融合された適性検査が課されるので、それ相応の対策が必要。そこで、小5の1月からスクール形式の塾に転塾し、4科目の勉強を始めたことから、状況が少しずつ変化していきました。

中学受験で必要とされるレベルは学校の授業とは桁違いなので、6年生になってから4科目の準備をして追いつくにはかなりハードルが高い。また、中学受験の塾では当たり前のように行われていることですが、授業時間は長時間に及びます。

それでも頑張っていましたが、特に丸1日教室に缶詰めになる春休みの春期講習を受けた辺りからだんだん笑顔がなくなっていきました。

そんなわが子の様子を見て心配しながらも、夢の実現のために頑張っている子どもを応援するのも親の務めと、送り迎えをしていた岡本さんでしたが、とうとう5月ころから行きしぶりが出始め、しんどくなってまでやることではないと考えて、話し合いの時間を持つことにしました。

「何のために受験をするのか」を見直す

もともと親子で対話をする時間を大切にしていた岡本さんは、何度も話し合いをしたそうです。

でもその度に「奈良国際中高には行きたい! だから頑張っている! でもしんどい。だけど受験は辞めたくない」と堂々巡りで埒(らち)が明かないまま塾通いが続きました。

しかし、とうとう塾の前で体が動かなくなってしまい、教室に入れなくなったのです。ストレスが体に出るのは最後の段階だと言いますが、Hちゃんの心が悲鳴をあげたのでしょう。

もう限界だと思った岡本さんは、もう一度真剣に話し合うことにしました。 

「そもそもどうして受験したいと思ったのか、その目的は?」

「奈良国際中学でやりたかったことは何だったのか?」

「どうありたいのか?」

そんな質問を投げ掛けながら、話をしていった結果、Hちゃんの夢は「英語で海外の人と喋れるようになりたい!」ということだという結論に行きつきました。
 
それなら、中学受験をしなくても別の方法があるのでは? と思った岡本さんは、公立の中学に行っても、奈良には外国人もたくさんいるから、英語を話す機会はあるし、留学するという方法もあると、さまざまな選択肢を提案しました。

その結果、いったん塾をお休みして、夏休みは思い切り英語に浸ってみようと、セブ島の親子留学への参加を決めたのです。

日に日に本来の元気なHちゃんに戻っていく様子を見て安心したという岡本さん。「対話をして、本当によかった」という笑顔が印象的でした。

お茶やお菓子も準備。話しやすい場を用意して対話する
お茶やお菓子も準備。話しやすい場を用意して対話する
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「受験」では得られなかった、親子の新しい選択
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