ここがヘンだよ、ニッポン企業 第41回

なぜ「職場へのお土産」は禁止した方がいいのか。「親睦が深まる」よりも「しがらみ」 でチームの腐敗が進む?

近年では反対の声も目立つようになった、職場での「お土産文化」。そこには、ただ面倒という以上の、組織の腐敗へとつながる問題点が潜んでいる。公務員不祥事や、中国共産党の汚職問題を例として取り上げながら解説しよう。

「公務員不祥事」はお土産文化が引き起こした?

当たり前の話だが、職場の上司や同僚というのは「同じ趣味を持つ仲間」でも「仲良しサークル」でもない。もちろん、親しくなって個人的な相談をしてもいいし、休日に遊びに行く間柄になってもいいが、基本的には仕事を巡る「利害関係者」だ。例えば、部下が大きな仕事をまとめれば上司の評価につながるし、逆にミスをすれば上司が責任を問われる。同僚も同じで、誰かが足を引っ張れば迷惑は全体に及ぶ。

「だから、お土産が必要なんじゃないか」という声が聞こえてきそうだが、そうやって「仕事上の利害関係者」にお土産を配って「保険」にしておくことや「馴れ合い」になることから、仕事はうまく進まず「腐敗」が始まっていくということは歴史が証明している。その1つの例が「公務員不祥事」だ。
 
年配の人ならば分かると思うが、昭和の時代、民間企業が公務員に会う時に「お土産」は必需品だった。「いつもお世話になっています」「この前はいろいろご迷惑をおかけして」と訪問時のお茶菓子はもちろん、旅行に行った際のお土産、盆暮のお中元、お歳暮を渡した。このようなお土産が徐々に積み重なって「付け届け」という賄賂になった。平成12年に国家公務員倫理規定がつくられて「土産禁止」となるまで大きな社会問題だった。

つまり、仕事上の利害関係者へのお土産というのは「親睦」を深めるどころか「しがらみ」を生み出し、仕事の公正な判断を妨げることにしかならないのである。「話が飛躍し過ぎだ! 100円のお菓子をみんなに配ることが汚職につながるわけがない」と失笑する人もいるだろうが、お土産も賄賂も本質は変わらない。

中国共産党の汚職の背景にも……

元ベトナム・ベルギー国駐箚(ちゅうさつ)特命全権大使 坂場三男氏は「日本戦略研究フォーラム」の中で、日本を含むアジア圏には「伝統」ともいうべき贈収賄文化があり、そのルーツは庶民生活だと考察している。

「庶民のレベルにおける「付け届け文化」・「贈答文化」は何らかの権力(権限)を持っている相手方に対して「ひとつ宜しく」という贈り手の思いを伝える手段だが、この文化は我々の生活の隅々に行き渡っており、従って、政治レベルにまで容易に発展する性質を持っている」

「汚職腐敗の世界的3類型 ―賄賂要求型、労働対価型、贈賄側主導型―」日本戦略研究フォーラム

この「発展」が大きな問題になっているのが、お隣の中国だ。中国人とビジネスをした人は分かるだろうが、かの国は日本以上の「お土産文化」。かつて中国人観光客の「爆買」が話題になったが、あれも帰国後に友人や親戚の人々に配る土産物である。

では、そんな「贈答文化」が政治レベルでどう発展したのかというと「中国共産党の汚職」である。習近平政権が「反腐敗闘争」に力を入れているように、あちらの高官や公務員は「利害関係者」から高級車、高級ブランド品などをバンバン受け取っている。

マネジメント層に求められる「お土産文化」の見直し

「たかが旅行のお土産ぐらいで大騒ぎし過ぎだよ」と笑う人もいるだろうが、逆にお尋ねするが、あなたはなぜその「たかがお菓子」を配ることをやめられないのだろう。「モノによって感謝の気持ちを伝える」ということをやっておかないと、職場での自分自身の「立場」が揺らいでしまうことをよく分かっているからではないのか。

そういった「しがらみ」を気にせず、純粋に仕事だけが評価されるフラットな職場をつくるためにも、マネジメント層は「職場へのお土産」を見直すべきではないか。
窪田 順生
この記事の執筆者: 窪田 順生
ノンフィクションライター
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経てノンフィクションライター。また、報道対策アドバイザーとしても、これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行っている。 ...続きを読む
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【グラフ】職場でのお土産配り、「よくない」と思う人の割合は?
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