結論から申し上げれば、本作はめちゃくちゃ面白い! シリーズを知らなくても楽しめる万人向けのエンタメ性を備えながらも、「シリーズが年月を重ねていたから」こその感動は『トップガン マーヴェリック』を思わせます。ネタバレにならない範囲で魅力を記しておきましょう。
前置き:上映時間は94分!コンパクトでも満足度の高いエンタメに
本作の美点は、上映時間が94分とコンパクトで、後述する『ベスト・キッド』という作品の魅力がギュッと詰まっていることにあります。もちろん上映時間の長短だけで作品を評価するというのはナンセンスですし、『国宝』や『劇場版 鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来』など長尺だからこそ描ける内容もあります。その一方で、本作のようにテンポが良くて気楽に劇場で楽しめる、それでいて満足度も高いエンタメに仕上がっていることも、また素晴らしいと思うのです。
また、『ベスト・キッド』という作品の良さはプロットの分かりやすさとシンプルさにもあると思うので、それに対して上映時間が140分となった2010年のリメイク版は、個人的には冗長な印象がありました。今回のコンパクトさは『ベスト・キッド』という作品に「合ってる」と思うのです。
1:オリジナルとリメイクが「合流」!
1984年の(日本では1985年公開の)オリジナル版『ベスト・キッド』の物語は、いじめられっこの高校生が、空手の達人と出会い成長する、王道の「スポ根もの」かつ「師弟もの」です。続編映画は『4』まで作られ、2010年にはリメイク版も劇場公開され、さらに2018年からはオリジナル版の正当な続編であるNetflixのドラマ『コブラ会』も配信されました。 今回の『ベスト・キッド:レジェンズ』の大きな特徴は、1984年のオリジナル版と、2010年のリメイク版が「合流」すること。2010年当時はオリジナルとは「世界観が異なる」リメイクだったはずなのですが、今回はヒーロー映画のシリーズのように「同じ世界線で交わる」「ユニバース化した」、劇中のセリフで言うところの「2つの枝が1つの木になるような」最新作になっているのです。その「合流」は世界観だけでなく、キャラクターと演じる俳優も同様。オリジナル版で主人公の少年ダニエルを演じたラルフ・マッチオが、今回は空手の師匠としてスクリーンに復活し、リメイク版でカンフーの師匠を演じたジャッキー・チェンと初共演を果たすのです。シリーズファンには感慨深いものがあり、実際に感動のドラマにもなっているのですが、これが「ギャグ要素」としても機能しています。

なぜなら、今回の主人公である17歳の高校生のリーは、「空手」「カンフー」という、それぞれ異なる格闘技の師匠から学ぶことになり、おかげで「2人の師匠が違うことを言っていて、めちゃくちゃ面倒くさい」というシーンがあったりするからです。こうしたくだけたユーモア、もっといえば「師匠がカッコいいだけじゃない(むしろ表面的にはカッコ悪いほうが目立っている?)」様も『ベスト・キッド』らしいところですし、シリーズを知らない人もクスッと笑えてほっこりできるでしょう。
さらに『ベスト・キッド』シリーズでは、「ワックスがけ」に代表される動作が実はしっかりとトレーニングになっていて、その時点では「なぜこんなことを?」と思うような教え方や出来事が、後の試合でしっかりと生かされるというカタルシスもあります。
今回も「それが役に立つなんて!」という意外性も期待していいでしょう(良い意味で“露骨”とも言えるかもしれません)。 さらに、ユニバース化にはオリジナル版とリメイク版だけでなく、Netflixのドラマ『コブラ会』も確実に含まれています。実際に『コブラ会』の要素がどこにあるのかは秘密にしておきますが、そちらを少しだけ見ているだけでも、うれしいプレゼントが用意されていることに気付けるでしょう。



