幼稚園も多機能化が必須に
また、預かり保育を導入した幼稚園も、それだけで保護者のニーズを完全に満たすことはできませんでした。共働きで働くために、出産後できるだけ早く職場に復帰したいと考える保護者が増えたからです。経済的な理由で長期の休業が難しいケースや、評価を得るにはフルタイム勤務が求められる職場も少なくありません。そこで、幼稚園の入園対象である3歳よりも早い時期から子どもを預けたいというニーズが高まっていたのです。
一方で、こうしたニーズに幼稚園が応えるための道も、すでに準備が進められていました。2006年10月に開始された「認定こども園制度」では、各都道府県の認可を得ることで、幼稚園と保育園の機能を併せ持つ施設(幼保連携型認定こども園)を運営することができるようになりました。
「しかし、移行を選ばなかった幼稚園もあります。そういうところはニーズを取り込めず、園児不足になっているところが多いのが現状です。それが廃園の要因にもなっています」と、山崎さん。
あえて幼稚園での運営を選んだというところもあったはずですが、移行したくても移行できなかった幼稚園もありました。ただ名称を幼保連携型認定こども園としただけでは、認可は下りないからです。
移行するとなると、園児の数も増えるので教室を増やさなければならないし、給食室も整備しなければなりません。それに伴い、職員を増やす必要も生じます。費用もかかるし、建物を増やすスペースも必要になります。もともと狭い土地しかなく拡張が難しい幼稚園では、移行が困難なわけです。
多様化するニーズと選ばれる幼稚園
とはいっても、幼保連携型認定こども園に移行せず、「幼稚園」のままで人気のところもあります。その理由を、山崎さんは次のように説明します。「人気の園の中には、送迎バスやプールの設置はもちろんのこと、預かり保育の延長、さらにはネイティブスピーカーによる本格的な英語レッスンを毎日実施している園もあります。サッカーやダンス、美術など多彩な課外プログラムを用意している園も少なくありません。保護者のニーズに合わせて多機能化を実現している園は、幼稚園のままでも経営的に成功しています」
幼保連携型認定こども園になれば、経営が安定するというわけではありません。ニーズに合わせた多機能化を図らなければ園児が集まらず、経営的に難しくなっているのが現状です。つまり、幼保連携型認定こども園への移行は、多機能化の1つでしかないということです。
世の中のニーズに対応できなければ生き残っていけない。これは他業種同様、幼稚園業界にも当てはまります。預かり保育や幼保連携型認定こども園への移行、そして多機能化といった流れに背を向けてきた幼稚園は、少子化が急激に進展し、子どもの獲得競争が激化している中で生き残ることが難しくなり、廃園に追い込まれていることになります。
「最近はM&Aの仲介業者が頻繁に幼稚園へアプローチしています。それくらい廃園を考えている私立幼稚園が多いということです。私たちの園は廃園を考えていませんが、大手のM&A仲介業者から何度も連絡がありました」と、山崎さんは苦笑します。
利用者のニーズを的確に把握し、適切に対応して業績向上につなげる経営は、どのような業界でも難しいものです。幼稚園の世界も同じで、それができなければ廃園するかM&Aの対象になるしかないのだと言えるでしょう。
保護者に求められる見極め力
そうした中で、中には実力を伴わない講師による英語授業など、園児を集めるためだけの見せかけの多機能化を打ち出す幼稚園が出てくる可能性もあります。これから園選びをする保護者には、その質を十分に吟味した上で、子どもを通わせる園を選択することが求められます。 この記事の執筆者:前屋 毅 プロフィール
1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。最新刊『学校が合わない子どもたち~それは本当に子ども自身や親の育て方の問題なのか』(青春新書)など著書多数。



