「日本死ね」から約10年。幼稚園の廃園ラッシュ時代に、親が持つべき“園を見極める力”とは

少子化が加速する中、ひところは入園のための対策で保護者が走り回るほどだった私立幼稚園が、園児不足で次々と姿を消しています。いま、教育の現場で一体何が起きているのでしょうか。(画像出典:PIXTA)

私立幼稚園が淘汰の時代を迎えている
私立幼稚園が淘汰(とうた)の時代を迎えている(画像出典:PIXTA)

かつての常識が通用しない今、幼稚園選びは保護者の「見極め力」が問われる時代に突入しました。

文部科学省の「幼児教育の現状」調査が示すように、ここ数年で私立幼稚園の廃園や認定こども園への移行が顕著になっています。この厳しい現実の最前線にいるのが、東京都内の私立幼稚園で園長を務める山崎明さん(仮名)です。

山崎さんは「私自身は正確な数字を把握しているわけではありませんが、肌感覚として廃園が増えていることを実感しています」と語ります。その背景には、少子化という大きな波だけでなく、幼稚園側の“姿勢”が大きく影響していると言います。

「専業主婦が当たり前」だった時代の終焉

廃園の要因は多岐にわたりますが、最大の要因は急速な少子化です。そのため私立幼稚園だけでなく、公立幼稚園や保育園も減少傾向にあります。そうした中で廃園に追い込まれる私立幼稚園が増えているのは仕方ないのではなく、「ニーズに応えようとしなかったことが大きな理由です」と山崎さんは指摘します。

1950年代半ばからの高度成長期に、幼稚園の数は都市部を中心に増えてきました。夫が働き妻が家事などを行う専業主婦の家庭が増え、就学前の教育に対するニーズが高まったためです。専業主婦は家にいる時間も長いので、長時間預ける必要性は高くありませんでした。

一方で、仕事をする母親や共働き世帯のために、預かり時間の長い保育園がありました。保育園は福祉の意味合いが強かったため、厚生労働省が管轄しています。対して幼稚園は、保育よりも教育に重点があるという位置づけで、文部科学省の管轄です。

激変する社会と女性就業率の向上

しかし、こうした環境が大きく変わってきました。2013年6月、当時の安倍晋三内閣は「日本再興戦略」を閣議決定し、その中で労働力不足に対応するため「2020年度末までに女性就業率73%の達成」という目標を掲げています。

生産年齢人口と呼ばれる15歳から65歳までの女性の就業率は2013年には62.4%でしたが、これを一気に引き上げ、労働力不足解消につなげようとしたわけです。

新型コロナウイルスの影響で2020年には目標には届きませんでしたが、70.6%に達しました。2024年には74.1%と過去最高を記録し、増加傾向は確実です。

これを支えたのが、保育環境の整備でした。夫婦と子どもだけの核家族化が進む中で、特に都市部では祖父母などに子どもを安心して預けられない世帯が多く、この問題の解決なしには女性就業率は向上しませんでした。

夫婦ともに働くためには長時間子どもを預かってくれる場所が必要で、存在感を増したのが保育園でした。ただし、急激に進む女性の社会進出によるニーズを満たすキャパシティーを、保育園だけで補うことは不可能でした。

入園の順番待ちをする「待機児童」が増え、なかなか順番が回ってこない事態が続きます。政府としては女性を働かせたいし、働きたい女性も増えているにもかかわらず、子どもを預けられないために、働きたくても働けない女性が増えるという状況が生まれました。

この事態に不満の声も高まっていき、2016年2月には「保育園落ちた日本死ね!!!」というブログが大注目されることになります。

こうした保護者のニーズに応えようと、通常より保育時間を延長する「預かり保育」を始める幼稚園が増えていきます。9時ごろから14時ごろまでが一般的だった時間を、朝7時半ごろから午後6時ごろまでと保育園並にしていったのです。

「ただ、全部の幼稚園が預かり保育を実施したわけではありません。時代のニーズに応えていかないと園児が減って経営難になるといわれていたにもかかわらず、『従来の幼稚園のままでいく』という経営者が少なからずいました。これほど少子化が進み、園児確保の競争が激化するとは想像していなかったのかもしれません。想像力が欠けていたわけです」と、山崎さんは言います。
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廃園に追い込まれる幼稚園と、生き残る園の決定的な違い
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