ここがヘンだよ、ニッポン企業 第40回

ORANGE RANGE、ガンダム……平成・昭和を懐かしむ「ノスタルジアマーケティング」の大流行が示唆するヤバい未来

人々の「懐かしさ」を刺激する「ノスタルジアマーケティング」が大流行している。一時的にはよい策ともいえる方法だが、同時に未来への絶望を示唆しているともいえるかもしれない。(サムネイル画像出典:「ORANGE RANGE」)

「昭和レトロ」「エモい平成」など人々の「懐かしさ」を刺激することでビジネスの成功へつなげていこう、という「ノスタルジアマーケティング」が流行している。分かりやすいのは、ロックバンド・ORANGE RANGEのミュージックビデオの大バズりだ。
話題を集めているのは、2007年にリリースしたヒット曲『イケナイ太陽』の令和バージョンのミュージックビデオ。「平成あるある72連発」として、当時話題になったヒット商品やテレビCM、人気ドラマのパロディが随所にちりばめられている。平成に青春時代を送った人たちがそれらを探し当てるために繰り返し視聴していることもあり、公開から約1カ月でなんと1300万回以上の再生となっているのだ。

大ヒットの『ガンダム』映画。実は「ノスタルジアマーケティング」?

同じようにコンテンツの中に「懐かしさ」をちりばめることで大ヒットとなっているのが、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』である。日本アニメ界の金字塔である『機動戦士ガンダム』を世に送り出したアニメ制作会社「サンライズ」とエヴァンゲリオンシリーズを手掛ける「スタジオカラー」が初めて共同制作をした同作は、先行上映した劇場版は興行収入30億円超え、テレビ版も大好評でSNSも大バズりして「大成功」を収めた。

そんな『ジークアクス』も実はノスタルジアマーケティングをうまく活用した好例である。ネタバレになってしまうのであまり詳細を明かせないが、実はこの作品で描かれる世界というのは、ファンから「ファーストガンダム」と呼ばれている、1979年放映『機動戦士ガンダム』のパラレルワールド。そのため、作品中にファーストガンダムの登場人物や、関連するエピソードが随所にちりばめられている。それらを探し当てて、考察をするということも非常に盛り上がっているのだ。

筆者のように、ファーストガンダムをリアタイで見て、ガンプラを作っていた50代から、その時代のことを知識としてしか知らないミレニアル世代まで幅広い層に受けているほか、「謎解き要素」に惹かれ、これまでガンダム自体を観たことがなかったZ世代も新規獲得できているという。

短期的な成功の裏に、経済活動が萎縮する危険性も

さて、このようなノスタルジアマーケティングの活況を聞くと、「ウチも昭和レトロや平成あるあるを活用できないか」と考えるビジネスパーソンも多いだろう。確かにそれは悪くない判断と言える。昭和・平成に青春時代を過ごした世代は、人口減少が進む日本において「マスマーケット」だからだ。

国立社会保障・人口問題研究所の「人口ピラミッド」を見ると、日本の現役世代の中で最も人口が多いのは50歳あたりでそこを頂点にどんどん減っている。この50歳あたりというのはいわゆる「団塊ジュニア世代」で昭和に多感な10代を過ごし、平成に青春を謳歌(おうか)した人々だ。だから、ノスタルジアマーケティングで昭和や平成の懐かしさを訴求すると、このマスを取り込むことができるのだ。

ただ、ノスタルジアマーケティングは短期的にはそういう効果が得られるが、中長期的に見るとあまりよい策とは言えないかもしれない。過去を過剰に美化・執着するあまり、新しいものを生み出す力がなくなっていく恐れがあるからだ。「社会学の巨人」と呼ばれるジグムント・バウマンは、『退行の時代を生きる 人びとはなぜレトロトピアに魅せられるのか』(青土社)の中で、今の世界では「現在」に強い不安や不満を感じるがゆえに、「未来」に希望を持てず、輝いて見える「過去」へと現実逃避する風潮があると指摘。レトロ(懐古趣味)とユートピア(理想郷)を組み合わせた「レトロトピア」と呼んで警鐘を鳴らしている。

現実逃避というのは、目の前の困難、未来の課題と向き合わないということでもある。そういう人々が増えると、どうなるかというと社会に「無気力」や「絶望」がまん延して、経済活動も萎縮していくのだ。
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