
こうした現実を前に、保護者はどのようにして子どもを守ればよいのでしょうか。
専門家は、「包括的性教育」を学び、「性的同意」について正しく理解することが、子どもの性被害を減らすことにつながると指摘しています。
その第一歩が「同意」という概念を、年齢に適した形で子どもに伝えることです。ここではその方法の1つとして、幼稚園教諭がおすすめするシャボン玉の比喩を使った分かりやすい説明の仕方や、日常の遊びの中で実践できる具体的なアプローチをご紹介します。
※この記事は、『子どもを守る新常識 性被害 セーフティガイド』(キンバリー・キング 著)を一部抜粋・編集しています。対象としているのは、自分でトイレができるようになる年頃から、二次性徴を含めた性教育が始まる前までの時期である3〜10歳のお子さんです
「同意」は性的な活動に限らない
「同意」は、最近の流行語であると同時に、論争の種ともなっている言葉です。多くの大人が、この言葉は性行為に関するもので、性的な活動に対して拒否または同意の意思を示す能力を指しているのだと思いこんでいます。しかし、「同意」の核にあるのは、子どもたちの多くが家庭や幼稚園で身につける習慣です。
そうなんです。落ち着いて聞いてください。皆さんも、おそらくすでに、知らないうちに、お子さんたちに「同意」について教えはじめているのです。
同意についての教育は、誰もがお互いにルールを守り、からだの境界線(自分のからだは自分のもの)を尊重し合うべきであるという考えが出発点になります。つまり、幼い子どもたちに「同意」を教える際に、性行為や性的な活動についての話を出す必要はありません。
そもそも、子どもには性的行為に対する同意能力がないので、その点にふれる必要がないのです。
それでも幼いころから「同意」について教えるのは、お互いの安全を保ちつつ仲良く過ごしていくためには、ルールを守り境界線を尊重するのが大切だということを学んでほしいからです。
その学びはやがて、性被害から身を守る力につながっていきます。「同意」に関する子どもとの対話は、その子の生涯にわたって意味を持ちつづけることになります。
現時点で、幼い子に対して「同意」という言葉を使うことに抵抗があるなら、別の言葉に置きかえても問題ありません。簡潔な言葉を、一貫性を持って使えれば、それで十分です。
たとえば、「許可」はどうでしょう。そしてのちに、親子双方の準備が整ったと感じるときが来たら、「許可」に加えて「同意」という言葉も使いはじめてみてください。
からだの境界線=シャボン玉の中のわたし
わたしが幼稚園で子どもたちに「同意」について教えるときは、自分のからだが大きなシャボン玉に包まれている様子を想像してもらうところから始めます。そして「お互いのからだを包むシャボン玉を大切にしましょう」と伝えます。シャボン玉の中は、その子だけの個人的な空間です。相手のからだを触るには、その子のシャボン玉に入れてもらわなくてはいけません。だから、「いいですか?」と聞かなくてはいけないのです。
同意なく触ろうとするのは、シャボン玉を割ろうとする行為です。シャボン玉が割られてしまったら、それはレッドフラッグ(※危険信号)だということです。「同意」が必要になる場面は、親子のふれ合いでも、友達との遊びの中でも、簡単に見つけることができます。
具体的な例で考えてみましょう。
たとえば、くすぐり遊び。最初は楽しくじゃれ合っていても、くすぐられた子が「やめて!」と言ったら、それは「同意しない」という意思表示です。相手はシャボン玉の外に出されます。それでもくすぐりつづけようとしたら、シャボン玉が割れます。
たとえば、お子さんが、年上のいとこたちとレスリングをして遊んでいたとしましょう。最初は楽しくじゃれ合っていても、からだに触られることが不快に思えたり、その遊びの乱暴さが嫌になってきたりしたら、お子さんはいつでも「やめて」あるいは「もうやりたくない」と言うことができます。
その意思を示した時点で、相手はシャボン玉の外に出されています。いとこたちはすぐに息子さんから手を離さなければなりません。そうでなければ、シャボン玉が割れます。