
こう聞くと、多くの人が「SFCは面接重視の入試制度」「プレゼン能力が合格のカギ」と考えるのではないでしょうか。実際、受験業界でもそうした認識が根強く存在しています。
しかし、本当にそうなのでしょうか。世の中には、話すプロとして活躍しながらも専門知識が不足している人たちがいます。政治の世界を見ても、演説は上手なのに政策の詳細を理解していない政治家がいます。
果たして総合型選抜も、表面的な話のうまさや見た目の印象で合否が決まる仕組みなのか……。総合型選抜や公募制で行われる面接試験の真の意味を探ってみると、意外な実態が見えてきました。
※この記事は、『大学受験 活動実績はゼロでいい 推薦入試の合格法』(杉浦由美子 著)より一部抜粋したものです。
知識不足でも演説上手なら当選できる政治の世界
タレント出身のある女性政治家が炎上した騒動をご存じでしょうか。彼女は「日本の食料自給率を上げるべき」を訴えていました。ところが、あるネット番組で司会者に「食料自給率ってどういう意味の数字だか、ちょっと分かってないような気がしたので説明していただいていいですか?」と訊かれました。
食料自給率は、国内で食べられる食料のうち、どのくらいの割合を国の中で生産しているかを示す数字です。率が高いほど、輸入に頼らず、国内で食料をまかなえているので、供給の安定感が高まります。
戦争などの有事で食料が輸入できなくなる可能性もあるからです。そのため、食料自給率は上げた方がいいわけですが、日本は領土が狭い島国で農作物が大量にとれるわけではないのに人口が多いから食料自給率が高くないことが課題であります。
この女性政治家は「食料自給率」を説明できず、少しも意味を把握していなかったのです。
この件で「食料自給率すら分かってないのに議員になろうというのか」とSNSで大きく炎上していましたが、彼女は問題なく国会議員になりました。
なぜ、議員になれたかというと、彼女は毎日のように辻立ち、つまり、駅前などで演説をしていました。
この辻立ちの様子をYouTubeで見ることができますが、非常に演説がうまいです。明瞭な発声、落ちついた語り口、話し方が上手で実に聞きやすいです。さすが元タレントで、プレゼンの達人だということが分かります。
このYouTubeを見て、ある新聞記者の話を思い出しました。
その記者は地方自治体の選挙を継続的に取材をしていたのですが、こう話していました。
「一般の女性で人前で上手に話をすることができる人はそうそういません。そうなると女子アナや元タレントが選挙に担ぎ出されるのです。彼女たちは政策には詳しくないことも多々ありますが、人前に出て話すプロなので、プレゼン能力は高いですからね」
『たった1日で声まで良くなる話し方の教科書』(魚住りえ・東洋経済新報社)の中で英国首相のスピーチのコーチをしている人物の言葉を引用し、スピーチ(演説)においては「『どんなことを話すか』よりも『どんな話し方をするか』、それが最も大事だ」と書かれています。
「話し方」ではなく「話す内容」が問われる総合型選抜
政治家はまず選挙に勝つ必要があるから、演説をする技術やプレゼン能力が最優先されます。ゆえにプレゼンさえ上手ならば、食料自給率の意味を知らなくても選挙には通るのです。しかし、総合型選抜や公募制の志望理由書に「私は食料自給率を上げるための研究をしたい」と書いたら、食料自給率の意味はもちろん、具体的にどうしたら自給率が上がると考えているかを説明できないといけません。
つまり、「どんなことを話すか」が重要視されます。話し方ではなく、話の中身が評価の対象になります。
スピーチ(演説)は一人が大衆に向かって話をします。その場合、内容よりもプレゼン能力、話し方のうまさが重要になります。
選挙では、話の内容よりも、その候補者がいかに自分をよく見せるか否かで勝負は決まることが多いですよね。
総合型選抜や公募制の面接は大抵は手厳しいです。
面接官が「食料自給率を説明しなさい」と質問したら、意味をちゃんと説明しないといけませんし、「食料自給率の計算方法はいくつかあるけれど、どんな方法がある?」と突っ込まれたら、答えないといけません。
それに答えられるように準備するためには、志望理由書の内容についてきちんと調べて知識を蓄えていく必要があるでしょう。