実際に、ある難関大学合格者の母親は「うちの子は人見知りしないし、話をするのが得意だから総合型選抜に向いている」と受験を勧めたと話していました。大手塾の講師も「真面目すぎる子は総合型選抜には合わない。コミュニケーション能力が高くて明るい性格の子に向いている」と断言します。
私自身も当初は同様の印象を抱いていました。メディアで活躍するAO入試組のコメンテーターたちの巧みな話術や自己アピール力を目の当たりにし、「やはり総合型選抜は面接重視でプレゼン能力が決め手なのだろう」と考えていたのです。
しかし、総合型選抜の実態を詳しく調べていくうちに、この認識が大きな誤解であることが分かってきました。『大学受験 活動実績はゼロでいい 推薦入試の合格法』(杉浦由美子 著)より一部抜粋し、なぜこのような誤解が広まってしまったのかを解説します。
早稲田の総合型選抜は面接がない
さて、なぜ、「しゃべるのが得意な陽キャが総合型選抜や公募制では有利」という誤解が生まれるのでしょう。まず、メディアに出ているAO入試組の影響があるでしょう。それに加えて、ネットで配信されている合格者のインタビュー動画には、快活に自分をアピールする学生が出てくるからではないでしょうか。
たとえば、早稲田大学が公開している地域探究・貢献入試の紹介のサイト。
ここで配信されているプロモーション動画でも、合格者たちは手慣れた感じで明るい表情かつ、よく通る声で受験体験を話し、「地方在住だったので早稲田に進学するなんて考えてもいなかった」「海外ボランティア経験をアピールしました」という旨を語ります。
これを見ると「面接でさぞ華麗に海外経験をアピールしたんだろうなあ」と想像しそうですが、実は地域探究・貢献入試には面接がありません。書類審査と、筆記試験共通テストの点数で合否は決まります。
つまり、彼らの志望理由書などの提出書類がよく書けていて、筆記試験と共通テストできちんと点数を取ったから合格したのです。教授陣は彼らと面識のない状態で合格を出しています。
地域探究・貢献入試の合格者に「動画に出てくれる人はいる?」と大学側が声をかけたところ、「はい、やります」と応じてくれたのは、人前で快活に話すのが得意な学生だったと推測できます。引っ込み思案の合格者は躊躇(ちゅうちょ)するでしょうから。
総合型選抜や公募制のメインは面接ではない
早稲田塾の執行役員、中川さんもこう話します。「もちろん、話し方がうまければコミュニケーションが円滑になりますから、面接ではそれはプラス材料になります。ただ、実際にはしゃべるのが苦手な子でもちゃんと話ができれば問題ないです」
早稲田塾は推薦対策塾の老舗かつ最大手で、首都圏の総合型選抜に関してはもっとも情報を持っている塾です。ナガセグループの傘下でもあり、大学とのつながりもあります。
その早稲田塾を今回、かなりしっかりと取材しましたが、話の大半は志望理由書に関することで面接の話はこちらから訊かないと出てこないくらいでした。
他の大手推薦塾に通って合格した学生たちも「面接の練習は一度だけ受講した」という程度で、特別に力を入れていなかったことが分かります。実は総合型選抜や公募制は、面接はメインではないのです。
先に早稲田大学の地域探究・貢献入試は面接がないと紹介しましたが、同じ早稲田大学の国際教養学部、そして、慶應義塾大学の文学部、東京科学大学(旧東京工業大学)の公募制の一部は面接がありません。
なぜ、面接がないのでしょう。
ある推薦塾の講師が慶應義塾大学文学部の総合型選抜についてこう話していて「なるほど」と思いました。
「面接がないということは、あまり書類を見ていないということです」
ここでいう書類とは志望理由書です。総合型選抜や公募制は志望理由書を重視するケースが多いのですが、早稲田の国際教養学部と慶應の文学部はペーパー試験を課し、一般選抜より難しい英語の問題を出します。早稲田の国際教養は英検1級がないと受からないという噂が流れていますが、実際には、準1級でも合格しています。
しかし、高度な文法力を求めるので、しっかりと勉強をしてきた生徒でないと受かりません。ペーパー試験の点数を重視するので、その分、志望理由書はあまり見ないのでしょう。



