ヒナタカの雑食系映画論 第162回

Netflix『新幹線大爆破』が傑作である5つの理由。草なぎ剛の集大成&コナン映画ファンにもすすめたいワケ

樋口真嗣監督×草なぎ剛主演のNetflix配信映画『新幹線大爆破』が掛け値なしに傑作といえるクオリティーでした! その面白さやコナン映画ファンにもおすすめの理由を解説しましょう。(画像出典:『新幹線大爆破』2025年4月23日(水)よりNetflixにて世界独占配信)

新幹線大爆破
『新幹線大爆破』2025年4月23日(水)よりNetflixにて世界独占配信
2025年4月23日よりNetflixで『新幹線大爆破』が配信スタートとなりました。オリジナルとなるのは1975年公開の同名映画であり、それからなんと50年の時を経て生まれ変わったのです。

前置き:ネタバレ厳禁の「間違いない」エンタメに

結論から申し上げれば、本作はめちゃくちゃ面白い! 日本のサスペンス映画としても、乗り物パニック映画としても、これ以上の興奮はもう望めないと思うほど。後述するように賛否を呼ぶポイントはあるものの、それ以外の内容は誰にでも分かりやすく、予備知識もまったく必要としない、「徹頭徹尾面白い」「間違いない」エンターテインメントであるため、豪華キャスト陣のファンはもちろん、全ての世代におすすめできます。
 

注意点は「ネタバレ厳禁」だということ。とあるサプライズも含めてエンタメになっており、それが「つい言ってしまいたくなる」「ネタバレを踏みやすい」作品にもなっていると思うのです。SNSなどでネタバレを見かけてしまう前に、早めに鑑賞することを強くおすすめします。

そして、本作は『劇場版 名探偵コナン』シリーズが好きな人にも大いに推薦します。コナン映画を必ず映画館で毎年見ているという人に、似た魅力のある作品として真っ先におすすめできるのです。

その理由も含めて、決定的なネタバレを伏せつつ作品の魅力を紹介しましょう。それでも、1975年版と変わったポイントなど一部内容には触れていますので、予備知識ゼロで見たいという人は、先に再生ボタンを押すことをおすすめします。

1:シンプルかつロジックのあるタイムリミットサスペンス!

本作のあらすじは、新幹線に時速が100kmを下回ると爆発する爆弾が仕掛けられたため、鉄道関係者たちが事態の解決に挑むというシンプルな内容。言うまでもなく新幹線は「速度を落とさずに走り続けなければならない」ため、運転手や総合司令所の人たちは次々と目前に迫る事態を解決しなければなりませんし、車掌や乗務員は爆弾の存在を知った乗客たちのパニックを抑えたり、適切な誘導をしたりしなければなりません。
新幹線大爆破
『新幹線大爆破』2025年4月23日(水)よりNetflixにて世界独占配信
もちろん、鉄道人たちが最優先にするのは「乗客を救う」こと。「時速100km以上で走る新幹線からたくさんの乗客を無事に降ろす」なんて不可能に思えるところですが、劇中では明確なロジックに基づく作戦がスピーディーに語られ、そして実行に移されます。

「そんな方法があるのか」「危険も伴うがやるしかない」「時間との勝負」、それぞれがハラハラドキドキのタイムリミットサスペンスになっているので、退屈する隙はほぼないでしょう。
新幹線大爆破
『新幹線大爆破』2025年4月23日(水)よりNetflixにて世界独占配信
また、1975年版は国鉄の協力がなかなか得られなかったことがよく語られていますが、今回はJR東日本による「特別協力」があってこその、リアリズムやディテールにも注目です。劇中の「はやぶさ60号」は実際に運行されている列車ですし、特別ダイヤで専用の貸切臨時列車を7往復走らせての撮影も行われており、「本物」だからこその迫力もあります。

さらには、鉄道各部署の仕事内容、所作や言い回しに至るまでJR東日本の監修が入っているそうで、そのかいがあって「緊急時のプロフェッショナルの仕事」への尊さを学べることは、本作の大きな意義でしょう。

2:「犯人が明かされない」構成になっている

物語や設定は1975年版の『新幹線大爆破』を踏襲した、オマージュのような場面もいくつかあるものの、新たなアイデアや見せ場もたくさん盛り込まれており、「オリジナルの単なる焼き直し」にはなってはいないことも美点です。
 

例えば、1975年版では高倉健演じる犯人が実質的な主人公であり、アメリカのドラマ『刑事コロンボ』シリーズのように「犯人が分かった状態で進行するサスペンス」が主軸になっていましたが、こちらは一転して「犯人の背景や正体が途中までは明かされないミステリー」へとシフトしている印象がありました。

この改変には賛否もありそうですが、「犯人はいったい何者なのか」「1000億円という無茶な要求をしているが真の目的は何か」といった、推理というよりも「予想をする」楽しみがプラスされていますし、鉄道人や乗客の描写に絞ったことで、乗り物パニック映画としての「純度」が高まっているので、個人的には支持したいところです。
新幹線大爆破
『新幹線大爆破』2025年4月23日(水)よりNetflixにて世界独占配信
さらには、SNS時代ならではの要素も盛り込まれています。特に要潤演じる元ニートの起業家は大胆な言動をするインフルエンサーでもあり、彼はどちらかといえば「尊大でイヤなやつ」として描かれています。SNSでの扇動の危険性を示しつつも、決して十把一絡げにSNSやネットメディアが「悪」ともしていないバランスにもなっていました。

そして、ネタバレになるので決して言ってはならないのは、今回の犯人の描写、およびクライマックスの展開です。ここもまた賛否も呼ぶ、人によっては「無茶」と思ってしまうところでしょうが、一定の説得力のある設定も持ち込まれていますし、ある種の大胆さは「ブレーキをかけずにやり切った」試みとして、こちらも称賛したいです。

3:樋口真嗣監督の良いところが発揮されている

本作の監督を務めるのは『ガメラ』シリーズの特技監督でも知られる樋口真嗣であり、今回の企画が走り出したのは、樋口監督が1975年版の映画の大ファンであり、その情熱があってこそだったそうです。
 

ただ、樋口監督による特撮は強い支持を得る一方で、その監督作には厳しい評価が寄せられることも少なくありません。例えば、同じく名作の再映画化である2006年公開の『日本沈没』や2008年公開の『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』は恋愛要素および、その描き方がかなり不評でした。2015年に2部作で公開された実写映画版『進撃の巨人』は、原作漫画からの改変はもとより、登場人物が「大仰に叫んでしまう」演技演出も批判されていました。

しかし、今回の『新幹線大爆破』は樋口監督の良いところが最大限に発揮されています。何しろ、特撮はもちろんケレン味のある見せ方が、今回はタイムリミットのあるサスペンスと見事に合致しており、クライマックスでは美術やVFXのスタッフの尽力もあって、涙が出てくるほどの素晴らしい見せ方をしてくれるのですから。さらに、今回は恋愛要素はほぼ皆無であり、そのほかの描写もメインの物語に強く寄与しています。
新幹線大爆破
『新幹線大爆破』2025年4月23日(水)よりNetflixにて世界独占配信
さらに、物語を動かすのは2016年公開の『シン・ゴジラ』や2022年公開の『シン・ウルトラマン』にもあった「目の前の事態に立ち向かう人々」の心理であり、今回は樋口監督の過去のどの作品よりも「的が絞れている」、それを持って極限までにエンタメ性が高まっている、樋口監督の最高傑作とも思える内容に仕上がっていました。

一方で、樋口監督らしいクセの強いキャラクターやセリフ回しは健在で、ここは好みが分かれるところでしょう。特に、前述した要潤演じる元ニートの起業家のほか、尾野真千子演じる国会議員の言動は意図的にせよ極端ではあるので、必要以上に拒否反応を持つ人もいるかもしれません。
新幹線大爆破
『新幹線大爆破』2025年4月23日(水)よりNetflixにて世界独占配信
ただ、キャラクターそれぞれの言動が短絡的だったり「やりすぎ」なことは、物語上でも批判されている、ちゃんとした意義のあるものだったので、個人的にはおおむね受け入れることができました(それにしたって「スキャンダル」のとある言説は納得しにくかったのですが)。
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