
前置き:ネタバレ厳禁の「間違いない」エンタメに
結論から申し上げれば、本作はめちゃくちゃ面白い! 日本のサスペンス映画としても、乗り物パニック映画としても、これ以上の興奮はもう望めないと思うほど。後述するように賛否を呼ぶポイントはあるものの、それ以外の内容は誰にでも分かりやすく、予備知識もまったく必要としない、「徹頭徹尾面白い」「間違いない」エンターテインメントであるため、豪華キャスト陣のファンはもちろん、全ての世代におすすめできます。注意点は「ネタバレ厳禁」だということ。とあるサプライズも含めてエンタメになっており、それが「つい言ってしまいたくなる」「ネタバレを踏みやすい」作品にもなっていると思うのです。SNSなどでネタバレを見かけてしまう前に、早めに鑑賞することを強くおすすめします。
そして、本作は『劇場版 名探偵コナン』シリーズが好きな人にも大いに推薦します。コナン映画を必ず映画館で毎年見ているという人に、似た魅力のある作品として真っ先におすすめできるのです。
その理由も含めて、決定的なネタバレを伏せつつ作品の魅力を紹介しましょう。それでも、1975年版と変わったポイントなど一部内容には触れていますので、予備知識ゼロで見たいという人は、先に再生ボタンを押すことをおすすめします。
1:シンプルかつロジックのあるタイムリミットサスペンス!
本作のあらすじは、新幹線に時速が100kmを下回ると爆発する爆弾が仕掛けられたため、鉄道関係者たちが事態の解決に挑むというシンプルな内容。言うまでもなく新幹線は「速度を落とさずに走り続けなければならない」ため、運転手や総合司令所の人たちは次々と目前に迫る事態を解決しなければなりませんし、車掌や乗務員は爆弾の存在を知った乗客たちのパニックを抑えたり、適切な誘導をしたりしなければなりません。
「そんな方法があるのか」「危険も伴うがやるしかない」「時間との勝負」、それぞれがハラハラドキドキのタイムリミットサスペンスになっているので、退屈する隙はほぼないでしょう。

さらには、鉄道各部署の仕事内容、所作や言い回しに至るまでJR東日本の監修が入っているそうで、そのかいがあって「緊急時のプロフェッショナルの仕事」への尊さを学べることは、本作の大きな意義でしょう。
2:「犯人が明かされない」構成になっている
物語や設定は1975年版の『新幹線大爆破』を踏襲した、オマージュのような場面もいくつかあるものの、新たなアイデアや見せ場もたくさん盛り込まれており、「オリジナルの単なる焼き直し」にはなってはいないことも美点です。例えば、1975年版では高倉健演じる犯人が実質的な主人公であり、アメリカのドラマ『刑事コロンボ』シリーズのように「犯人が分かった状態で進行するサスペンス」が主軸になっていましたが、こちらは一転して「犯人の背景や正体が途中までは明かされないミステリー」へとシフトしている印象がありました。
この改変には賛否もありそうですが、「犯人はいったい何者なのか」「1000億円という無茶な要求をしているが真の目的は何か」といった、推理というよりも「予想をする」楽しみがプラスされていますし、鉄道人や乗客の描写に絞ったことで、乗り物パニック映画としての「純度」が高まっているので、個人的には支持したいところです。

そして、ネタバレになるので決して言ってはならないのは、今回の犯人の描写、およびクライマックスの展開です。ここもまた賛否も呼ぶ、人によっては「無茶」と思ってしまうところでしょうが、一定の説得力のある設定も持ち込まれていますし、ある種の大胆さは「ブレーキをかけずにやり切った」試みとして、こちらも称賛したいです。
3:樋口真嗣監督の良いところが発揮されている
本作の監督を務めるのは『ガメラ』シリーズの特技監督でも知られる樋口真嗣であり、今回の企画が走り出したのは、樋口監督が1975年版の映画の大ファンであり、その情熱があってこそだったそうです。ただ、樋口監督による特撮は強い支持を得る一方で、その監督作には厳しい評価が寄せられることも少なくありません。例えば、同じく名作の再映画化である2006年公開の『日本沈没』や2008年公開の『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』は恋愛要素および、その描き方がかなり不評でした。2015年に2部作で公開された実写映画版『進撃の巨人』は、原作漫画からの改変はもとより、登場人物が「大仰に叫んでしまう」演技演出も批判されていました。
しかし、今回の『新幹線大爆破』は樋口監督の良いところが最大限に発揮されています。何しろ、特撮はもちろんケレン味のある見せ方が、今回はタイムリミットのあるサスペンスと見事に合致しており、クライマックスでは美術やVFXのスタッフの尽力もあって、涙が出てくるほどの素晴らしい見せ方をしてくれるのですから。さらに、今回は恋愛要素はほぼ皆無であり、そのほかの描写もメインの物語に強く寄与しています。

一方で、樋口監督らしいクセの強いキャラクターやセリフ回しは健在で、ここは好みが分かれるところでしょう。特に、前述した要潤演じる元ニートの起業家のほか、尾野真千子演じる国会議員の言動は意図的にせよ極端ではあるので、必要以上に拒否反応を持つ人もいるかもしれません。
