
『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』 3月14日(金)全国公開 配給:ツインエンジン、ギグリーボックス (C) ツインエンジン
どちらもアニメとしての表現そのものに大きな感動がありますし、物語では今の時代に大切なことを訴求しつつも、まるで「テレビゲームのような」特徴と面白さもあります。そして、どちらも「音響」に手が込んでおり、劇場で見てこその没入感もある作品なのです。それぞれの魅力と、知ってほしいポイントを解説しましょう。
『Flow』は「世界」の作り込みがスゴい「セリフなし」のロードムービー
ラトビアのギンツ・ジルバロディス監督による『Flow』は、簡単に言うと「猫と動物たちのロードムービー」で、その最大の特徴は「セリフなし」であること。劇中のキャラクターはみんな動物で、しゃべることはなく、説明らしい説明も一切ありません。すさまじいのは、同作における「世界」の作り込みです。世界が大洪水にのまれるという衝撃的な冒頭と、その災害から命からがら船に逃げ込む様子から目が離せず、洪水後の世界も「箱庭」のように感じつつも、まるでどこまでも続く世界のような「広がり」をも感じさせるのです。大胆かつ巧みなカメラワークも含めた「空間」の見せ方、「音」も含めたリアリズムと心地よさも相まって、開始1分で「あっ……これは、大傑作」と確信したほどでした。
旅の道中を映し出す風景も美しく、「荒廃」しているためにどこか寂しさもあり、時には漠然とした不安や恐怖も呼び起こします。「セリフなし」「説明なし」ながらも、つい見入ってしまう構成であるがゆえに、「なぜこのような世界になったのか」「すみかを離れた動物たちどこへ向かうのか」など、想像する楽しさがたっぷりあるのです。
『Flow』の猫は「嫌なヤツ」? 監督が考える動物たちの特徴
加えて動物たちの特徴と、旅を通じて協力する様、もっと言えば友情が芽生えているように思えるのもまた、面白いところ。プレス向け資料に書かれていた、ジルバロディス監督によるキャラクターたちの個性も興味深いので、引用してみましょう。・猫……初めのうち、猫はとても自立していて、他の動物と一緒にいたがりません。率直に言うと嫌なヤツのように振る舞ってほしかったのです。猫は時にとてもわがままで無礼な動物だからです。でもかわいいので許してしまいますけどね。
・犬……いつも誰かの後についていきます。でも最後には、より自立し、自分で決断するようになります。猫と正反対の旅をする犬のキャラクターでバランスを取りました。
・キツネザル……たくさんの物を集めていて、所属の欲求があることがわかります。鳥も、所属したい、群れに戻りたいと切望しています。
・カピバラ……物語の中であまり変化しないので、ちょっと異色です。この物語にカピバラを選んだのは、カピバラがあらゆる動物とうまく付き合い、ライオンやワニと一緒に穏やかに眠っている映像を見たからです。
こうした言葉から動物に対して、「擬人化」したような印象を持つかもしれませんが、実際の監督の意図はその逆。「動物たちが人間のように行動したり、人間のように考えたりする姿を見せたくなかった」のだそうです。

物語上で展開される「価値観も行動規範も異なる種族が連帯する」ことは、今の世界だととても尊くも大切なものにも思えます。
『Flow』の宮崎駿監督へのリスペクト、前作ではゲームの影響も
ジルバロディス監督は宮崎駿監督をリスペクトしており、「映画を作り始める時、物語の結末さえ決めておらず、創作していく過程でそれを見つける」ことに宮崎監督と自分との共通点も見つけたそうで、「過程はまったく同じではありませんが、脚本が完成した後も物語が発展し続けます」と語っています。
ちなみに、ジルバロディス監督の前作『Away』も、『未来少年コナン』や『母をたずねて三千里』などの日本のアニメ、さらには『ワンダと巨像』や『人喰いの大鷲トリコ』のゲーム作品に強い影響を受けたと監督自身が明言しており、実際の本編もオープンワールド(広い世界を地続きで移動していける)のゲームらしさを強く感じる内容でした。
今回の『Flow』での、水没した世界の光景はそれこそ『未来少年コナン』『ルパン三世 カリオストロの城』『天空の城ラピュタ』などの宮崎監督作にとても近いですし、個人的には水の表現や世界の広がりからゲーム『ゼルダの伝説』シリーズも連想しました。
また、絵画のような画が立体的に動き、さらに動物それぞれの「らしさ」をアニメで見られる喜びと面白さは世界中で絶賛され、アカデミー賞アニメーション映画賞にノミネートされています。これは、2月7日から公開されている『野生の島のロズ』とも親和性があるといえるでしょう。併せて見ると、アニメ映画の表現が「次」の時代へと移ったという実感がより得られるのかもしれません。
最後に、本作『Flow』を見るにあたっては注意点もあります。それは「水が押し寄せる」という、洪水や津波などの災害に遭うという日本人にとってはより恐怖を覚えるであろうシーンがあること。公式にも注意書きがされています。そのことを認識して、劇場に足を運んでほしいです。