賛否両論の大河ドラマ『べらぼう』はヒットするのか? テンポ感のいいポップな脚本で若者ウケを狙う!?

今年の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』が放送を開始し、SNSでは賛否両論が巻き起こっています。この記事では、元テレビ局スタッフが『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』のどこが面白いのか、魅力を解説していきます。(サムネイル画像出典:番組公式Webサイトより)

見やすいテンポ感で描かれる新しい大河ドラマ

横浜さんと小芝さんの演技だけでも見る価値のある『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』ですが、作品の脚本とテンポ感が秀逸なのも魅力です。2024年に放送した『光る君へ』もかなりポップな大河ドラマでしたが、今作はさらに若者でも見やすい作品になっています。
 
まず、主人公の蔦重がどこまでもポジティブで明るくパワフル。遊廓・吉原が舞台ながら、陰鬱(いんうつ)とした雰囲気はなく、蔦重のキャラクターで作品をうまくまとめています。もちろん、働く女性たちの悲惨な境遇も描かれますが、可哀想なだけにならない脚本となり、視聴者は考えさせられながら蔦重の活躍を見られるようになっています。

また、大河ドラマの定番だった合戦や戦のシーンがないことで、ほかの作品より会話のやりとりに比重が置かれているのもポイント。テンポ感がよく視聴者を飽きさせず、第1回では吉原が火に包まれた明和の大火から始まり、蔦重の生い立ちや貧困にあえぐ女郎たちの悲哀、江戸時代の吉原の遊び方などを一気に紹介。かなり盛りだくさんな内容をテンポよく、1時間ほどの放送時間でストレスなく見せてくれました。

脚本は、『JIN-仁-』『義母と娘のブルース』(TBS系)などを手掛けた森下佳子さんが担当。魅力的な登場人物を描く脚本家で、これまで手掛けた作品は幅広い世代が見やすいように、コミカルな演出を取り入れているドラマや映画ばかりです。既に森下さんは、2017年に放送した『おんな城主 直虎』(NHK総合)で大河ドラマを経験済み。実績があることも踏まえ、『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』では実験的な取り組みを行っていると考えられます。

第1回では、綾瀬さん演じる九郎助稲荷が、スマホの地図アプリを使って吉原を解説する演出を挿入。熱心な大河ファンからは不評だったようですが、新たな視聴者を取り込める斬新な構成でした。今後、どんな見せ方で吉原の様子や蔦重の活躍を見せるかは不明ですが、森下さんとNHKは新しい大河ドラマを作り出そうとしているように思えます。

新しい大河ドラマになる可能性を秘めた『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』

大河ドラマといえば、これまでは戦国武将が中心で、予算をかけた合戦シーンを見るのが定番でした。ただ、そのベタな設定だけでは若い視聴者は離れる一方。そこで徐々に方針転換を図っているところです。

2022年に放送した『鎌倉殿の13人』は、三谷幸喜さんが脚本を務め会話劇も楽しめるものになり、若い世代から注目され配信でヒットを記録しました。その流れを受ける『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』は、『光る君へ』とあわせ2作続けて合戦や戦がメインでなく、伝統ある大河ドラマとしては挑戦的な取り組みです。その成果も出ていて、世帯視聴率は伸び悩んだものの、配信では初回放送がNHKプラス最多視聴数となる72万8000UB(ユニーク・ブラウザ)を記録。若い世代にもしっかりと届いたと考えられます。

また『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』は、偉人の活躍を見るというより、現代にも通じるストーリーを楽しむ作品です。貧困にあえぐ吉原の様子は現在の不況の世の中を現し、搾取される女性や若者も現代社会に通じる部分があります。うまく現代とリンクしながら蔦重たちの活躍を見る、これまでになかった新しい大河ドラマになる可能性が大です。数多く制作されてきた大河ドラマの中で、かなり異色の作品となる『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』。視聴すれば、大河ドラマの歴史が変わる目撃者になれるチャンスがあります。

そのうえで、初心者でも見やすい構成になっているので、「大河ドラマは長いし難しそうで見るのはつらい」と思っている人にこそ、見てほしい作品なのです。
 

この記事の筆者:ゆるま 小林
長年にわたってテレビ局でバラエティ番組、情報番組などを制作。その後、フリーランスの編集・ライターに転身。芸能情報に精通し、週刊誌、ネットニュースでテレビや芸能人に関するコラムなどを執筆。編集プロダクション「ゆるま」を立ち上げる。

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