二重価格は差別につながりかねない
2023年3月には、「二重価格」の賛成派でルーブル美術館の値上げに反対する懇願書を提出したパリ市民の1人が、「私たちは既に税金を通して、間接的に施設へ貢献しているのですから」と、外国人旅行者と価格差を設けない同美術館を批判しました。しかしルーブル美術館側は、「2022年にはフランス人観光客の2人に1人以上が訪れている」と反論。払える人が払い、若者・失業者・障がい者とその付添人・教育者を無料にするという方針を変えずに、一斉の値上げに踏み切りました。
一方で、二重価格の導入が「差別につながる」という意見もあります。差別は確かに存在しますが、その差別に対して厳しい目が向けられるのもフランスの現実です。また、パリで暮らす外国人の数も非常に多いため、現状では旅行者なのか定住外国人なのか区別のつけようがありません。身分証の提示を義務付けた場合でも、不正が起こりやすいことが指摘されています。
文化的格差をどう埋めるか
フランス社会はこのように、不公平・不平等な物事に対してとても敏感に反応します。そのため、世界一の観光地として名をはせるパリであっても、本格的な「二重価格」の導入は難しいと言えるでしょう。現時点では、「26歳未満のEU市民は無料」とする待遇がメインのようです。つまり当面は、ルーブル美術館のように「払える人が払う」という形が取られるのだと思います。ただ、それによって国民の社会的・文化的格差がさらに広がる可能性も否めません。
幸いなことにフランスでは、一部の美術館や博物館の入場料が、毎月第一日曜日は無料に設定されています。これはフランス国民、定住外国人、旅行者に関わらず全ての人が利用できるものです。文化的格差を広げないためには、こうした文化イベントに自ら飛び込んでいく積極性、情報収集力が必要かもしれません。
この記事の筆者:大内 聖子 プロフィール
フランス在住のライター。日本で約10年間美容業界に携わり、インポートランジェリーブティックのバイヤーへ転身。パリ・コレクションへの出張を繰り返し、2018年5月にフランスへ移住。2019年からはフランス語、英語を生かした取材記事を多く手掛け、「パケトラ」「ELEMINIST」「キレイノート」など複数メディアで執筆を行う。