パリの「観光地価格」は高すぎる。26歳以下の若者は優遇されるも、強気な「二重価格」に批判の声

現在、ヨーロッパ各地でオーバーツーリズムが問題視されています。その中でも、長年「世界一の観光地」として知られるフランス・パリでは、「観光客価格」と呼ばれる高めの価格設定が存在し、近年さらにその傾向が強まっています。

二重価格は差別につながりかねない

パリのカクテル
カフェのカクテル(キール・ロワイヤル)は1杯が17ユーロ(約2770円)
「二重価格」に関しては、パリ市民からも賛成と反対、2つの意見が上がっているようです。

2023年3月には、「二重価格」の賛成派でルーブル美術館の値上げに反対する懇願書を提出したパリ市民の1人が、「私たちは既に税金を通して、間接的に施設へ貢献しているのですから」と、外国人旅行者と価格差を設けない同美術館を批判しました。しかしルーブル美術館側は、「2022年にはフランス人観光客の2人に1人以上が訪れている」と反論。払える人が払い、若者・失業者・障がい者とその付添人・教育者を無料にするという方針を変えずに、一斉の値上げに踏み切りました。

一方で、二重価格の導入が「差別につながる」という意見もあります。差別は確かに存在しますが、その差別に対して厳しい目が向けられるのもフランスの現実です。また、パリで暮らす外国人の数も非常に多いため、現状では旅行者なのか定住外国人なのか区別のつけようがありません。身分証の提示を義務付けた場合でも、不正が起こりやすいことが指摘されています。

文化的格差をどう埋めるか

フランス社会はこのように、不公平・不平等な物事に対してとても敏感に反応します。そのため、世界一の観光地として名をはせるパリであっても、本格的な「二重価格」の導入は難しいと言えるでしょう。現時点では、「26歳未満のEU市民は無料」とする待遇がメインのようです。

つまり当面は、ルーブル美術館のように「払える人が払う」という形が取られるのだと思います。ただ、それによって国民の社会的・文化的格差がさらに広がる可能性も否めません。

幸いなことにフランスでは、一部の美術館や博物館の入場料が、毎月第一日曜日は無料に設定されています。これはフランス国民、定住外国人、旅行者に関わらず全ての人が利用できるものです。文化的格差を広げないためには、こうした文化イベントに自ら飛び込んでいく積極性、情報収集力が必要かもしれません。

この記事の筆者:大内 聖子 プロフィール
フランス在住のライター。日本で約10年間美容業界に携わり、インポートランジェリーブティックのバイヤーへ転身。パリ・コレクションへの出張を繰り返し、2018年5月にフランスへ移住。2019年からはフランス語、英語を生かした取材記事を多く手掛け、「パケトラ」「ELEMINIST」「キレイノート」など複数メディアで執筆を行う。
最初から読む
 
Lineで送る Facebookでシェア
はてなブックマークに追加

編集部が選ぶおすすめ記事

注目の連載

  • 恵比寿始発「鉄道雑学ニュース」

    【要注意】羽田に行くはずが品川へ!? 武蔵小杉と京急蒲田…首都圏2大“迷宮駅”の絶望トラップ

  • ヒナタカの雑食系映画論

    2025年の幕開けにぴったりな「1月3日公開の映画3選」をレビュー! 史上最大規模のSFインド映画がすごい

  • AIに負けない子の育て方

    首都圏の中学受験「今年も厳しい」 志願者数増の人気校に見る、“難関大進学”ではない納得のニーズ

  • 世界を知れば日本が見える

    昭恵夫人はなぜ「日米関係のエモい状況」を作れたのか。石破首相が直視すべき「実力不足」の現実