ピクトグラムのデザイン変更が国を揺るがす大論争に
話題の優先席ピクトグラムの新旧を比較してみると(いずれも左から)、2007年導入の旧ピクトグラムは、女性の胸の谷間まで描かれています。
①ステッキ・ハンドバッグ・眼鏡姿の老婦人(高齢者)
②視覚障害者の腕章・松葉づえ・眼鏡姿の女性(身体障害者・負傷者)
③幼児連れ・ヒゲ姿の男性(子連れ)
④スカート姿のおなかの大きな女性(妊婦)
対照的に、今回新たに採用されたピクトグラムでは老若男女の特徴を極力排除したジェンダー中立かつユニバーサルなデザインとなっていることがうかがえます。
①子どもを抱いた人間
②ステッキを持った人間
③おなかの大きな人間
④視覚障害者の腕章と杖を持った人間
ピクトグラムに寄せられた賛否のコメント
今回の変更に関しては、と肯定的な声が上がる一方で、人間味のあるデザインに慣れ親しんでいたウィーン市民の中には納得がいかない人も少なくない様子。「個性は不要、シンプルで分かりやすい」
「スタイルが時代と共に変化するのは普通」
「誰も排除されないよう、当たり障りのない表現になった」
など、画一的なデザインの限界に批判的な意見が多数寄せられたほか、「性別中立と言いながら、男性4人に見える」
「姿勢が良過ぎて老人に見えない」
「この標識は黒人向け? 白人は座れないのか」
というヨーロッパならではのユニークな発想も見られました。このほかにも、「操り人形師、羊飼いかハイカー、ビール腹のハゲおやじ、盲目のゴンドラ船頭(※1)の風刺画か?」
※1:操り人形劇は現在もオーストリアの子どもに人気、羊飼いとハイカーはアルプス国のオーストリアでよく見られる光景、国民1人当たりのビール消費量がヨーロッパ第2位(2021~2022年)、ゴンドラは隣国イタリア名物、という文化的背景から
など、ジェンダー論に無関心な層からの冷めた意見もあり、賛成派・反対派と共に三つどもえを成して、ここでは到底紹介しきれないほど白熱した議論となっていました。「グラフィックが簡易化されただけで、なぜこれほど怒る?」
「ジェンダー論争白熱し過ぎ」
「こんなことより戦争やインフレの心配をしたらどうだ」
「税金を投入してまで変更する意味が分からない」
ジェンダー中立の妊婦ピクトグラムはありか?
今回もっとも議論の対象となったのは、妊婦のピクトグラムでしょう。というのも、以前のピクトグラムには描写されていた「ボブヘア・胸のふくらみ・スカート」といった女性らしさが完全に消え去り、おなかが大きいだけの性別不明瞭なデザインとなったからです。これには、
と猛反発が巻き起こりました。「妊婦が女性として描かれないことに憤りを感じる」
「女性が社会から排除されていく新たな例」
「男性の姿が再び標準とみなされ、女性が再びそこに含まれるのは原点回帰」
さらにそれに対して、
と性の先入観に物申す声や、「胸のない妊婦だっている。妊娠中のトランスジェンダー男性(※2)とか」
「胸が大きいことが女性の定義? 小さな人は女性ではないの?」
「胸がないからと言って男性と決めつけるな。ペニスの膨らみも描写されていない」
「スカートが女性の特徴というなら、スコットランド人男性(※3)はどうなんだ」
※2:出生時は女性、性自認は男性の人
※3:スコットランド人男性はスカート状の民族衣装を着用
とジェンダー中立を擁護する意見、「乳房、長髪、スカートといった典型的な女性の要素が取り除かれ、余分な装飾のない、ジェンダーに適した一般形式になっただけ」
とジェンダー論自体への不快感といった反論も相次いでいました。「ジェンダー信奉者はトラブルを欲してやまない」