海外から眺めてみたら! 不思議大国ジャパン 第30回

「妊婦が女性じゃないなんて」と猛反発も……ウィーンの新「優先席ピクトグラム」が大炎上した背景

オーストリアのウィーン公共交通機関が2024年11月、地下鉄の優先席ピクトグラムを変更したところ大論争に発展。ジェンダーニュートラルな新デザインに対して寄せられた賛否の声とは……?

先行するウィーンのLGBTQピクトグラム「カップル信号機」

レズビアンカップルの青信号(左)と赤信号(右)
レズビアンカップルの青信号(左)と赤信号(右)
ウィーンの代表的なピクトグラムとして想起するのが、2015年の「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」と「ライフ・ボール(命の舞踏会)」の2大イベントを機に誕生した、世界初の「カップル信号機」です。

これはレズビアン、ゲイ、ヘテロセクシュアル(異性愛者)の3種類のカップルがそれぞれ赤信号と青信号に描かれたもので、いずれもペアが仲良く手を繋いだり肩を組んだりしているのが印象的です。

この信号機の導入時には、オーストリア代表の「ひげ美女コンチータ」がユーロビジョン・ソング・コンテスト優勝者として世間を席巻していたことや、ライフ・ボールがHIV感染者およびエイズ患者を支援するヨーロッパ最大のチャリティイベントという背景とも相まって、LGBTQ機運がかつてないほど高まっており、「圧倒的に好意的な反響をもって迎え入れられた」と、当時のマリア・ヴァシラコウ副市長は述べています。
ユーロビジョンソングコンテストで優勝したオーストリア代表、コンチータ・ヴルスト氏。艶やかな女装とヒゲが彼のトレードマーク ©European Union 2014 - Source EP
ユーロビジョン・ソング・コンテストで優勝したオーストリア代表、コンチータ・ヴルスト氏。艶やかな女装とヒゲが彼のトレードマーク ©European Union 2014 - Source EP
それ以前でも、2007年導入のウィーン公共交通機関の優先席ピクトグラムには「幼児連れ女性」に代わり「幼児連れ男性」が新規採用されていましたし、オーストリア航空では20年以上も前から女性の客室乗務員にパンツの制服を用意するなど、その先進的なジェンダー平等性にはかねてより目を見張るものがありました。

そんな多様性にあふれていてリベラルだったはずのウィーンで、新しい優先席ピクトグラムはなぜ大炎上したのでしょうか。

行き過ぎたジェンダー論へのバックラッシュか?

もろもろの意見を吟味したところ、これまで常に進化を遂げてきたウィーンのジェンダー論が、どこまで走ってもゴールが見えないことから一般市民の「ジェンダー論疲れ」に繋がったこと、女性が自分たちの権利を侵されていると危機感を募らせていることなどが原因ではないかと感じています。

日本でも昨年からジェンダーフリーの公衆トイレや、トランスジェンダーの公衆浴場利用が大きなテーマになっていると聞きます。誰もが排除されていると感じない快適な社会づくりは、どこの国でも手探り状態にあるようです。
 

この記事の筆者:ライジンガー 真樹
元CAのスイス在住ライター。日本人にとっては不可思議に映る外国人の言動や、海外から見ると実は面白い国ニッポンにフォーカスしたカルチャーショック解説を中心に執筆。All About「オーストリア」ガイド。

 
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