ヒナタカの雑食系映画論 第140回

『クレイヴン・ザ・ハンター』が最も愛せる作品になった理由。一方で「これで最後でいいかも」と思うワケ

アンチヒーローの活躍を描くR15+指定映画『クレイヴン・ザ・ハンター』の魅力と、待ち受けていた切ない現実、だからこそ応援したい理由を解説しましょう。(※サムネイル画像出典:MARVEL and all related character names: (C) & TM 2024 MARVEL)

シリーズが「いったん終わり」になるかもしれない現実

主人公周りの心理描写が魅力的な『クレイヴン・ザ・ハンター』ですが、残念ながら「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(以下、SSU)」のスピンオフ作品は、本作をもっていったん終了になる、との報道がありました。打ち切りと断言されているわけではないものの、今後は『スパイダーマン』の映画に集中する、という方向性がうわさされているのです。

SSUではこれまで『ヴェノム』『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』『モービウス』『マダム・ウェブ』『ヴェノム:ザ・ラストダンス』『クレイヴン・ザ・ハンター』の計6作が作られ、世界設定を共有しつつ発展してきたシリーズです。問題は、このままでは「あの伏線って未回収のままなの?」と、シリーズを追いかけてきたファンがガッカリしてしまうことでしょう。

『モービウス』『ヴェノム:ザ・ラストダンス』は特に今後に向けた「クリフハンガー(引っ張り)」となる要素があったのですが、もしもSSUがこれ以上作られないのであれば、それぞれが中途半端に投げ出されたままで終わってしまう、スパイダーマンとの「合流」もなくなってしまうのですから。
 

SSUがひとまず終了するとささやかれた大きな理由は、やはり興行的・批評的に伸び悩んだ作品があったからでしょう。『ヴェノム』1作目は大ヒットしていますが、『モービウス』『マダム・ウェブ』は特に厳しい評価と低調な興行収入が注目され、悪い意味で話題になってしまったのです。

筆者個人としては、『ヴェノム』を筆頭にキャラクター同士の掛け合いは愛らしく、6作それぞれに憎めないキュートさがあり、特に今回の『クレイヴン・ザ・ハンター』での「共に毒親に育てられた兄弟の関係性」は大好きだったこともあり、より切なくなってしまいました。

「これで最後でいいかも」と思う理由も

とはいえ、結果的にはこの『クレイヴン・ザ・ハンター』が、(おそらくは)SSUの最後を飾る作品になってもいいのかもしれない、と思うところもあります。
クレイヴン
MARVEL and all related character names: (C) & TM 2024 MARVEL
その理由の1つが、「これで終わり」であることも納得できるラストになっていたこと。ネタバレになるので詳しくは書けませんが、続きがまだ作れる終わり方ではある一方で、前述した矛盾を抱えた主人公が迎える1本の映画の結末として、必然性があると思えたのです。それ以外に、次回作へのクリフハンガーと思える要素はほとんどありません。

今回の『クレイヴン・ザ・ハンター』に登場する「ライノ」というヴィラン(悪役)は、『アメイジング・スパイダーマン2』でわずかに登場していたものの、3作目が作られなかったため、実写映画では本格的な活躍がまだありませんでした。今回の恐るべき敵としての姿を見て「やっと」だと思うアメコミファンもいるでしょう。

とはいえ、SSU終了の報道直前に、チャンダー監督が「本作がうまくいけば、大人気の原作『Kraven's Last Hunt』を脚色した続編を作りたい」と希望を語っていた事実を踏まえれば、やはり切なくなってしまいます。今回でクレイヴン(セルゲイ)というキャラクターが大好きになったので、やっぱり彼のさらなる活躍も見たいのに……!

監督も認めたこれまでのSSUの不振、だからこそ……!

チャンダー監督は、SSUについて「多くのファンが特定の決断や結果に不満を抱いていた」「成功の度合いにはムラがあった」と、これまでの結果を認める発言をしています。

その上で「私たちの作品にチャンスを与えてほしいし、映画館に足を運んで、この作品を応援してほしい」と頼み込み、さらに目標として「独立した映画として守り抜き、ただひたすらよい物語を語ること」を掲げたことも語っています。
クレイヴン
MARVEL and all related character names: (C) & TM 2024 MARVEL
監督のその言葉に応えるべく、筆者個人は声を大にして言います。『クレイヴン・ザ・ハンター』はSSUの中でも最も好きになれたし、単独の映画作品としての完成度もなかなか高かったと。毒親に育てられた弟思いのお兄ちゃんの切ない物語も、ダークなユーモアもあるバイオレンスたっぷりのアクションも、本当に面白かったと……!

率最初に掲げた通り、残酷描写を除けばとても間口が広い作品でもあるので、多くの人に届くこと、ひいては長く愛される作品になることを期待しています。さればこそ、SSUの存続もあり得るのかもしれません。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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