PTAじゃなくてもいいですし、保護者団体がなくても特に問題ないケースもあるとは思うのですが、それでもまれに「何もないと、これは不利になってしまうのでは?」と感じさせられるケースもあります。
今回ちょうど、保護者団体の意味を考えさせられる話を聞いたので、紹介させてください。
登下校時の「通行制限の解除」を町内会が要望
東日本のとある町に暮らす絵美さん(仮名、30代)は、小学生の子を持つ母親です。2年ほど前、生まれ育ったこの町に、家族みんなで引っ越してきました。家の前の道路のスクールゾーンの制限が一部解除されるかもしれない、と知ったのは、2023年の春頃でした。近隣の町内会から「制限を解除してほしい」という要望が出ており、学校が近隣の保護者たちに対し、制限解除についてどう思うかアンケートをとったのです。
絵美さんは制限解除に反対でした。その道路は急に幅が狭くなる箇所や、見通しの悪い急坂、積雪の際にスリップしやすい箇所などがあるわりに高速で走る車が多く、決して安全とはいえません。そのため50年ほど前から、子どもたちの登下校の時間帯は一方通行に制限されてきました。ほかの保護者も危険を感じており、アンケートには全員が「反対」と回答したそう。
それでも、町内会の考えは変わりませんでした。間もなく絵美さんの家に回ってきた町内会の総会資料には、制限解除を要望する旨が書かれていました。「その道を通って登校する子どもが減ってきている」「住民は車を迂回(うかい)しなければならず、経済的・時間的損失が大きい」などが、主な理由です。
絵美さんは心配になりました。絵美さん自身も以前、この道で自転車に乗っていたときに自動車と接触し、打ち身を負った経験がありましたし、ほかにも事故の話は何度も耳にしていたからです。
周囲に話を聞いたところ、この辺りの町内会は10年以上前からスクールゾーンの制限解除を求めており、PTAや保護者、学校がずっと反対してきたことが分かりました。
絵美さんは町内会長のもとを直接訪れ、規制解除に反対である旨を伝えました。でも理解は得られず、また市長や教育委員会に相談しても「当事者同士で話し合って」と言われただけでした。
どうにかできないものか。知恵を絞った学校とPTA会長は、2024年春頃から、保護者による子どもの送迎を禁止しました。この小学校では以前から車で子どもを送る保護者が多く、私有地への駐停車や渋滞により、近隣住民を悩ませていたからです。
その後、朝の道路事情は改善しつつありますが、町内会はいまも制限解除を求めているとのこと。
最近は近所の人のなかにも制限の解除に反対し、絵美さんを応援する人が少しずつ増えているのだとか。今も絵美さんは、通行規制を維持するために奮闘中です。
学校でも保護者でもない「第三者」が現れたとき
学校の近隣に住む人にとって、道路の通行制限は不便なものでしょう。それでもやはり、子どもたちの安全のために、解除反対の声をあげることは、保護者の役割だと思います。互いに主張しあって、折り合える点を探す必要があるのではないでしょうか。
こういったとき、保護者ネットワークや保護者団体の存在は、やはりないよりあった方がいいと感じます。個人で声をあげるのも大事なことですが、今回のように相手が「町内会」という団体の場合、保護者も個人より団体になっていないと、言い分が十分に届かないかもしれません。
筆者は以前、通学路で子どもたちが亡くなる事故が起きた小学校のPTA会長に話を聞いたことがあります。その道路も以前からよく事故が起きていたのに、それでもやはり「不便だから」と制限に反対する住民はいたといいます。
今回のケースでも、もし保護者団体が何もなかったら、もう何年も前に制限は解除されていた可能性もあるのでは。
これまでのPTAでよく見られたように「必要な活動をしているんだから全員入るべき」という強制につながってしまうと困るのですが、それでもやはり、「子どもの権利を保護する者=保護者」の団体があった方がいい場面は考えられます。
昨今はPTAの解散も増えていますが、校区(近隣の町内会)によっては、なんらかの保護者組織の立ち上げを検討するのもいいのではないでしょうか。
この記事の執筆者:大塚 玲子 プロフィールノンフィクションライター。主なテーマは「PTAなど保護者と学校の関係」と「いろんな形の家族」。著書は『PTAでもPTAでなくてもいいんだけど、保護者と学校がこれから何をしたらいいか考えた』『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。