「探究学習」に学校現場は混乱…“問いが立てられない”子どもたちに欠けている学びの土台

小中高校で重視されている探究学習だが、新たな取り組みに対して混乱している先生も少なくないという。SELを軸にさまざまな学校を支援するrokuyou代表の下向依梨さんに、探究学習を支える学びの土台について聞いた。

探究学習の土台づくりに必要なこととは?

「探究学習の第一歩は、ノンジャッジメンタル(ジャッジせずに受け止める姿勢)です」と、下向さんは言う。

「ノンジャッジメンタルとは、自分の中で起きている考えや気持ちをそのまま受け止めることです。そこに、良し悪しはありません。例えば、怒りや悲しみはネガティブな感情ととらえられがちですが、本来、気持ちに対して良いも悪いもありません。どんなことが思い浮かんだとしても、ジャッジを下す必要はないのです」

ありのままに感情や気持ちを感じ取るには練習が必要だという。下向さんが学校現場を伴走支援する際の軸としているSELのワークとして一例を挙げてもらった。

「『0から10を数えて、何に気づいたかを話す』という、とても簡単なワークがあります。ただ数字をカウントしているとき、そこに集中しきっている人はほぼおらず、『なにを試されているんだろう?』『おなかすいたなぁ』などと同時に思っています。でも、いざ『どんなことを考えていましたか?』と尋ねると、『数に関係することを言わなくちゃ』という気持ちになる。つまり、ジャッジメントが働いて回答しようとするのです」

求められるのは学びの土台づくり

「探究学習は、自分自身の言語化されていないモヤモヤした感情に耳を澄ますことがスタートです。これは子どもたちができていればいいということではなく、先生にも不可欠。なぜならば、先生がノンジャッジメンタルを身につけていなければ、子どもの心から出てきた問いに対して『授業で扱いづらい』といったジャッジメントを挟んでしまうからです」

こうした考え方から、下向さんは生徒たち向けの授業設計だけでなく、教員研修でもSELを体感してもらう機会を必ず設けているという。子どもたちは自分の興味関心を受け入れられない経験をすると、表現することを諦めてしまいます。その結果、目指していた主体性や探究心が育まれず、『先生や親が求めることに合わせていけばいい』という姿勢になってしまいます」

rokuyouでは探究学習のスタート時に、自分の生きてきた過去を振り返りながら未来へつなげていく「人生の道」のワークや、チームで協力してどんなことでもいいので楽しいプロジェクトを成し遂げて自分と他者を信じる力を高めていく「ミッション フォー ファン」といったSELのワークに取り組む。

「学校や家庭で『こんなことを言ってはダメだ』『勉強っぽいことをしなければ注意をされる』と自分にジャッジメントを働かせてしまう子どもたちは少なくない。それを解きほぐし、ノンジャッジメンタルに自分の好きや興味関心に目を向けられるようにするために、私たちはさまざまな仕掛けを行っています」(下向さん)
【図】「人生の道」の大人から提示する見本
【図】「人生の道」の大人から提示する見本
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SELを導入した学校で起きる変化とは
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