シンガポールやアメリカで取り入れられる世界標準の学び
日本の子どもたちの自己肯定感の低さは耳にしたことがあるだろう。2019年(令和元年)の調査では、「自分自身に満足している」(「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」の合計)と答えた若者は約45%だった。アメリカ87.0%、フランス85.8%、ドイツ81.8%、イギリス80.1%、スウェーデン74.1%、韓国73.5%と比較して分かる通り、日本は突出して低い。
加えて、日本では、若者の最大の死因が自殺である。日本の自殺率は主要7カ国(G7)の中で最も高い状況にあり、毎年500人の小中高校生が自ら命を絶っている。世界を見渡すと、SELはこうした問題へのアプローチとしても活用されていると下向さんは語る。
「アメリカのサンディエゴでは若者の自殺が深刻な社会問題となっていました。この問題に対処するため、若者のメンタルヘルスを支える手段としてSELを採用。子どもたちが直面する精神的な問題を解決する助けとしています。SELには心のサポートも期待できます。この動きは、アメリカをはじめとする世界各国に広がりを見せています」
2015年にはシカゴの全ての学校で導入され、アメリカのスタンフォード大学が開校したオンラインハイスクールなどでも実施されている。近年、教育移住で注目を集めているシンガポールでは2010年に全校で必修科され、メキシコも同様の取り組みがなされているという。SELは世界各国で標準化されているアプローチなのだ。
そして世界から遅れること日本でも、SEL導入を進める自治体や学校が登場している。
「rokuyouが拠点を置く沖縄県の自治体や群馬県などでは、自治体単位で取り組みをスタートさせています。また、小中高校だけでなく、大学でも必修科目にSELの授業を加えて、学生の主体性を育むアプローチを行なっているところも出てきています」
さらには、SELは組織の関係性づくりや心理的安全性を育む目的で企業研修などに導入される例も増えているという。
SELは家庭でも実践可能
「SELの取り組みは学校だけで行えばいいということではありません」と下向さんは続ける。いくら学校でSELを重視し、「自分の感情に目を向けて、それを表現してごらん。そこにあなたの価値があるんだよ」と伝えても、家庭で子どもの気持ちにふたをするような接し方をしていては子どもは混乱してしまう。SELを実践するには多様なアプローチがあるが、ファーストステップとしては声の掛け方を変化させてみてはどうだろう。
「例えば、頭ごなしに注意をするのではなく、『どうしてそう思うの?』と尋ねます。あるいは、『自分の怒りのポイントはなんだと思う?』『今日の気持ちを天気に例えると何かな』など、自身の感情に目を向けさせる声掛けを意識することから取り組んでみてもいいでしょう」(下向さん)
さらに、何歳からでもスタートできるのがSELの特徴だ。3歳からでも、6歳からでも、思春期に突入しても、そして大人になってからでも取り組むことが可能だ。
「SELは必ずしも即効性があるアプローチではありません。じわじわと染み込んでいくことで次第に効果が表れます。まずはスタートラインに立ち、自分や子どもの感情を見つめる習慣化をしていくことが大切です」
忙しい毎日の中で、ほんの少しだけ自分の内側を見る時間を設けてみる。最初は無理のない範囲で行っていくことが、継続するポイントといえるだろう。
取材協力:「株式会社roku you 」代表取締役 下向 依梨
慶應義塾大学卒業後、2014年にペンシルベニア大学教育大学院へ。SEL(Social Emotional Learning)と出会い、学習科学・発達心理学の修士号を取得する。大学院卒業後は帰国し、東京のオルタナティブスクール(小学校)で算数・英語を中心とする教科を教えながら、探究学習のカリキュラムづくりと、SELベースのプログラムの開発に従事。2018年、教育企画・コンサルティング会社roku youを立ち上げ、現在は代表取締役を務める。
https://www.roku-you.co/
慶應義塾大学卒業後、2014年にペンシルベニア大学教育大学院へ。SEL(Social Emotional Learning)と出会い、学習科学・発達心理学の修士号を取得する。大学院卒業後は帰国し、東京のオルタナティブスクール(小学校)で算数・英語を中心とする教科を教えながら、探究学習のカリキュラムづくりと、SELベースのプログラムの開発に従事。2018年、教育企画・コンサルティング会社roku youを立ち上げ、現在は代表取締役を務める。
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この記事の執筆者:佐藤 智
教育ライター。株式会社レゾンクリエイト執行役員。出版社勤務を経て、ベネッセコーポレーションにて、学校情報を収集しながら教育情報誌の制作を行う。その後、独立。全国約1000人の教師に話を聞いた経験をもとに、現在、学校や教育現場の事情を分かりやすく伝える教育ライターとして活躍中。著書『SAPIXだから知っている頭のいい子が家でやっていること』など。
https://raisoncreate.co.jp/
教育ライター。株式会社レゾンクリエイト執行役員。出版社勤務を経て、ベネッセコーポレーションにて、学校情報を収集しながら教育情報誌の制作を行う。その後、独立。全国約1000人の教師に話を聞いた経験をもとに、現在、学校や教育現場の事情を分かりやすく伝える教育ライターとして活躍中。著書『SAPIXだから知っている頭のいい子が家でやっていること』など。
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