行きたいのに、見たいのに……ファンを苦しめる厳しい現実
しかし、コロナ禍以降は小規模だったりラインアップも弱かったりするイベントでも2万円超えは常態化。VIP席や特典付きとなると3万円台も珍しくありません。加えて2日間開催でどちらも行くとなると倍に。初回先行抽選販売は「2日間セット券」のみという巧みな売り方もありまして、当選が確定すると手数料を含め4、5万円払うことになります。
矢野:先ほどのイベントリストを見ると「大阪」「福岡」開催も増えているんですね。どこに住んでいても遠征費がかかる可能性が出てきている。
ゆりこ:そうなんです。いまだに首都圏開催の催しは多いですが、K-POPについては関東在住だから交通費が安く済む、というわけでもなくなっている。私も居住地から離れたK-POPイベントに行く予定なのですが、航空券代とホテル代の高騰にクラっときました。日本中、また韓国や海外からK-POPファンが集まっているのも影響して値上がりしているのかもしれませんが……。悩んだ結果、久しぶりに女性専用カプセルホテルを予約してしまいました。寝るだけだからいいかって。それでも1万円したんですよ。平成を生きてきた身としてはビックリ。
矢野:正直、韓国に飛ぶほうが安くつく場合もあるかもしれませんね。ソウルもだいぶホテル代が高くなっていますが。
ゆりこ:十分あり得ます。海外から多くの観光客が来てくれているのはありがたいことだと思っているので、オーバーツーリズムのせいだけにしたくないのですが、円安や全ての物価高などあらゆる要因が反映された結果だと思っています。
矢野:チケット代も同じくですよね。韓国へ支払う権利料やギャランティ、渡航費、全て円安に影響されている。
ゆりこ:加えて日本の会場使用料も上がっています。コロナ禍でのマイナスを取り戻す意図もあるでしょうし、燃油や電気代の値上げなど企業側ではコントロールできない部分もあります。決してチケット代が、旅費がぼったくりだとは簡単に言えない。日本で働く人の所得だって比例して上がるべきところで、そうなっていないことが大問題。
矢野:K-POPに限った話ではないみたいです。最近会社の同僚たちとランチを食べながら「推し活費用」の話になったのですが、同じような話題になりました。みんな20代前半から半ば、追っているグループはSTARTO ENTERTAINMENT(旧ジャニーズ事務所)から坂道系、INIと幅広い。でも共通していたのが「推し活出費への悩み」、そして「ライブ遠征に行く範囲、マイルールを決めた」という結論でした。
ゆりこ:「飛行機で行く範囲や宿泊ありのライブは諦める」「グッズやCDは一定量だけ買う」とかそういう感じですか?
矢野:そうです。彼女たちも「ライブ代は先に支払っているのでライブ当日は実質無料」と豪語するような“オタク”で、中学時代からお年玉貯金を「推し活」につぎ込み、社会人になっても追い続けている筋金入り。それでも最近はお金にシビアにならざるを得ないと。同時に「無理をしてお金を使えば使うほどファンとして偉い」という変な風潮に疑問も抱くようになったそうです。
ゆりこ:リアルな意見だ。「ニッセイ基礎研究所」が今年6月に発表した“推し活”に関するレポートの中でも、約4割の人が「推し活による出費に負担を感じている」という結果が出ています。さらに半数以上の人が「生活費への影響がある」と答えているのです。
矢野:ファン仲間ができると、つい誰かに合わせてしまいがちですしね。マイルールを決めて時には「諦める」ことも必要なのかもしれません。
ゆりこ:完全に同意します。無理して課金していると離脱も早いし、燃え尽き症候群になりがちですからね。長年いろいろなファンを見ていて強く実感します。誰しも瞬間風速的に「いっちゃえ! 買っちゃえ!」モードな時期はありますが。
矢野:以前「マイルール」と「節約法」のお話をしましたが、改めて実践している節約法や新しいマイルールはありますか?
ゆりこ:よい節約法、あったら私も教えていただきたい(涙)。矢野さんの同僚と同じく「ライブ代は先に払っているからライブ当日は実質無料」と思えるタイプですが、それでもカード明細を見るたびに表情失います。せめてもの悪あがきが今回予約した「カプセルホテル」。最近ソウルコンから帰ってきた友達も「初めてソウルのカプセルホテルに泊まったんだけど案外大丈夫だった! もうこれからもカプセルでいいかも」と言っていました。ただし治安面をしっかり確認したり、女性の場合はなるべく専用フロアや専用施設を選ぶのを推奨します。
矢野:僕も“とっておきの節約法”を知りたいのですが、今のところうまくいきそうなのは「先取り貯金」です。基本中の基本ですが、収入の中から貯金するお金、固定費などを除いた“自由に使えるお金”を先取りしておいて、その中でやりくりする方法。お金はあればあるほど使ってしまうので、物理的に消費範囲を決めてしまえば、生活に支障のない範囲で無理なく推し活を楽しむことができます。ただ、予算オーバーするときも多々あります……。
ゆりこ:どこかにお勤めの人なら、あらかじめ給料日に自動的に定額が引き落とされ別口座に振り込まれる仕組みにするとかね。お金が手元にあると思わない、見ない作戦。そして節約テクとなると先ほど私の挙げたホテル代はあくまで一例で、何が譲れて何が譲れないのかを見極めて、譲れる部分を削るのが基本なんだと思います。
イベントによっては時々「先行早割」で販売されるケースも。その段階では全出演者が発表になっていないこともありますが、これぞというイベントはそこを狙って応募してみる。そして交通手段や宿泊先も先に早割で押さえておくのをおすすめします。キャンセル代無料のサービスも少なくないです。熟知されている人も多いかと思いますが。コロナ禍以前は交通機関やホテルの「直前割」をよく利用していましたが、最近はそもそも空席や空室を探すのが大変。利用日に近づくと値段も高騰する傾向にあります。
矢野:コロナ禍以降はライブの有料配信も増えました。現地で見るチケットよりは安いですし、何より交通費はかかりません。自宅などリラックスできる場所で、ゆったりのんびり視聴するのも楽しそう。現地で見るチケットと配信チケットをうまく使い分ければ、よりたくさんのイベントを楽しむこともできますね!
ゆりこ:あと個人的に最も重要だと思うのは……価値観が大幅にずれる仲間と推し活をしない、無理して合わせないことです。金銭感覚や大事にしているものは人それぞれ違います。あと推し活の“フェーズ”によってもお金のかけ方が違ってきますしね。同じグループのファンの中に、ちょっと無理してでも“今”たくさん見たい・買いたいモードの人と、ゆるく長く応援していきたいモードの人が混在しているのです。
矢野:どハマりしたばかりの「ガチ恋期」はなかなかお財布のコントロールが難しいかもしれないですね。
ゆりこ:そのフェーズの人はあえて止めないです。言われたって止められないこと、身をもって知っているから(笑)。でもそれとチケット代の高騰、推し活費用が膨れ上がっていくことへの是非は別問題ですよね。
矢野:その裏には業界側が困っている事情もあるのかなと予想します。いろいろ値上げした分、純粋に主催者や芸能事務所側が儲かっているようにも思えない。
ゆりこ:まさに、その話もしようと思っていたところでした。チケット代の高騰は回り回って業界側をも苦しめています。今年は日本で開催されるはずの大型イベントが急きょ中止になったり、空席が目立ってSNS上で話題になったりと課題が浮き彫りになりました。次回は近年K-POPの大型イベントが抱える問題と、その背景について取り上げたいと思います。
【ゆるっとトークをお届けしたのは……】
K-POPゆりこ:韓国芸能&カルチャーについて書いたり喋ったりする「韓国エンタメウォッチャー」。2000年代からK-POPを愛聴するM世代。編集者として働いた後、ソウル生活を経験。
編集担当・矢野:All Aboutでエンタメやビジネス記事を担当するZ世代の若手編集者。物心ついた頃からK-POPリスナーなONCE(TWICEファン)&MOA(TOMORROW X TOGETHERファン)。