食べ物に対するこだわりがみられる偏食の子どもたち
偏食とは、特定の食品ばかりを食べたがったり、嫌がったりすることをいいます。好き嫌いとの区別は難しいですが、その程度がひどい場合を「偏食」と呼ぶケースが多いようです。「現代は菓子やジュース類など子どもが好む食品にもさまざまな栄養が入っているため、成長に必要な栄養は偏食であっても何らかの形で摂取しているのではないかという研究データもあります。もちろん、偏食がひどくて何も食べられないような場合は、別の方法で栄養を摂取する必要があります」
過去には、全く食べない4~5歳の子どもに対し、鼻や口からチューブを挿入し、栄養剤などを注入する経管栄養という手段を取ったケースもあるそう。
「まずは、経口摂取を心がけることが大切です。そのためには、あまり味や香りが強くない食品や本人が好む味からスタートすることが望ましいです」
味覚過敏だけでなく、感覚の鈍さが偏食の原因になることも
偏食の原因はさまざまですが、「食べる不快感や味覚過敏が原因として考えられる」と河合先生は語ります。「例えば、味覚過敏の子どもは、コロッケなどの揚げ物でガラスを噛むような感覚を味わうといわれています。このように食感や味わいに違和感がある場合は、偏食に至るケースがあるでしょう。
また、注目されにくいですが、味覚鈍麻も偏食に至る場合があります。味覚や噛む感覚が鈍いため、食事が進まないんです。
以前、食べ物を口の奥へ指で押しつけるお子さんがいました。噛む感覚を強く感じるために押し込んでいたんです。その子はご飯をクリスピー状に薄くして、アツアツカリカリの状態にすると、指で押しつけずに食べられるようになりました」
このほか、口腔機能に問題があって食べられないケースも。
「いずれもまずは小児科で相談して、その子に合った治療法を探すのが適切でしょう」
乳幼児は、本能として匂いや味に対して敏感なケースが多く、好き嫌いが出るのは自然なこと。苦手な食品を無理に食べさせようとすると、偏食の傾向が強くなる可能性があるため注意が必要です。
偏食の子どもに親はどう向き合う?
偏食の子どもと接する際、親はどういった声がけをすればよいのでしょうか。河合先生はまず、「食べることは楽しいという雰囲気づくりが大切」と語ります。「場合によっては、食べることでどのような効果を発揮するのかを教えてあげるといいでしょう。例えば、サッカーが好きな子どもなら、『筋肉を作るのに大切な食べ物だよ。食べたら蹴る力がアップするよ』と伝えるんです。そうすると食べることに意義を感じ、少しずつ食べられるようになる可能性があります。子どもが食品に興味を持つ機会を作り、実際に口にするまでのスモールステップを踏むことが大切です」
また、学校生活では「偏食だと、給食の時間がつらいのでは」と想像しがちですが、河合先生は「友達が食べているのを見て、『食べてみようかな』と挑戦する心が育まれるよい機会」とポジティブに捉えています。
「昨今は、多様性が認められ、体の大きさによって必要なカロリーが違うという認識も広がってきました。学校給食では昔のように食べ終わるまで食事とにらめっこする時代は終わり、配膳後に自分で食べられる量を調整することも一般的になってきています。
だからこそ、偏食のお子さんや親が大切にすべきことは、ご飯を食べる・食べないよりも、その子自身の目標が設定され、少しでもそれを達成できているかどうかだと思います」
食事は、栄養を摂取するだけでなく、人間関係にも影響するもの。「食事中、子どもだけが何も食べられず、ピリピリとした緊張感が漂うよりも、家族でファミリーレストランなどに訪れて、少しでも食べられるものを増やしたほうが互いにリラックスして食事の時間を過ごしやすいのではないか」と河合先生は提案します。
「無理に食べる必要はないけれど、臨機応変に食べられるようになることを目標に据える。そうすることで、食べることに対する圧迫感も抑えられるでしょうし、何より楽しさをモチベーションにがんばれます。もちろん、栄養が足りないほどの偏食であれば、専門的な機関に通って、原因を探る必要があるでしょう。けれど、楽しく食べられて、成長しているのであれば、少し様子を見てもいいのではないでしょうか」
年齢を重ねるごとにどんどん変化する味覚。苦手さを感じる食品に対しても、さまざまなアプローチができそうです。
この記事の執筆者:結井 ゆき江
中学受験雑誌の編集者として勤務したのち、フリーランスの編集者・ライターとして独立。教育や生き方、地域情報などを中心に取材・執筆を行う。グレーゾーンの小学生をサポートした経験も。
中学受験雑誌の編集者として勤務したのち、フリーランスの編集者・ライターとして独立。教育や生き方、地域情報などを中心に取材・執筆を行う。グレーゾーンの小学生をサポートした経験も。