どうする学校?どうなの保護者? 第22回

岡山県PTA連合会「解散」の必然。12年前、倉敷市はなぜ退会したのか?【独自取材】

2024年度末に解散することを公表した岡山県PTA連合会。会員団体(郡・市P)が減り、負担が重くなっていったことが原因のようですが、そもそもなぜ会員が減っていったのか? 2013年という早い段階で県Pを退会した倉敷市PTA連合会の当時の会長に話を聞きました。

2024年9月はじめ、岡山県PTA連合会(以下、岡山県P)が今年度末で解散すると公表し、大きなニュースになりました。筆者もこの件について発信してきましたが、おそらくまだ「釈然としない」という人もいるのではないでしょうか。
 
2019年に退会した玉野市Pの当時の会長や、現在の岡山県P会長に取材したところ、会員団体(郡や市のPTA連合会)がどんどん減っていくなか、大会の参加や開催といった負担が重くなり、退会や解散に追い込まれていった様子がうかがえました。しかし、「そもそもなぜ、そんなに会員団体が減っていったのか」というところはよく分かりません。

岡山県Pでは2009年、政令市となったことを理由に岡山市が退会し、2012年度末には2番目に大きな自治体である倉敷市も抜けています。近年は、政令市は県を抜けて日本PTA全国協議会(以下、日P)に直接加入するのが一般的なので、岡山市の退会は一見自然ですが、なぜ倉敷市まで退会したのでしょうか。
 
県Pを抜けた当時の倉敷市PTA連合会(以下、倉敷市P)会長・中村勇さん(現在は相談役)に連絡がついたため、どんな背景があったのか聞かせてもらいました。
倉敷市Pはなぜ岡山県Pを退会したのか
倉敷市Pはなぜ岡山県Pを退会したのか(画像出典:倉敷市PTA連合会 公式Webサイト

「チェックがなくやりたい放題」の運営に不信

中村さんが倉敷市Pの会長になったのは、2011年。岡山市は前々年度(2009年)に県Pを抜けており、このとき会員団体は全部で20ほどでした。なお、岡山市は政令市を抜けたのみで、その後現在に至るまで日Pには1度も入っていません。

2011年当時、倉敷市もすでに退会に向かいはじめていました。数年前から岡山県Pの運営に不満を持っており、改善を求めてきたのですが、なかなか変化が見られなかったからです。

以前の役員から引き継ぎで聞いた話では、県Pの会計に不明な点があり、「何に使ったお金か」「詳細な内容や数字を教えてほしい」など説明を求めても、「総会資料に書いてある通り」などといった誠意のない回答ばかりで、細かい説明がなかったそう。そのような経緯から、県Pと倉敷市Pの関係はすこぶる悪化していたのです。
 
中村さんはできるだけ客観的な情報を得ようと、岡山県や岡山市の教育委員会、岡山市Pの事務局などにも話を聞いてみましたが、「これはやはり、ちょっと県Pの分が悪い」という印象を受けたと言います。

当時、県Pの集まりはいつも「通りいっぺんの説明をしたあとは、退会した岡山市や、退会しようとする倉敷市への非難ばかりだった」と中村さんは振り返ります。なお県Pではこの頃、長く務める事務局長が、全てのことを取り仕切っていたようです。

結局、倉敷市は2012年度末に県Pを退会(都窪郡も同時退会)。この時点でもう、県Pに所属する郡・市の児童・生徒数は、県全体の3割を切っていたということです(約27%)。

「倉敷が県Pを退会した大元の理由は、『会の運営への不信感』ですね。何しろ情報を明かさないので、分からないことが多かった。会の運営が事務局任せで、チェックするところが何もない。だから、やりたい放題になっていた。そこが1番の原因かな、と思います」(中村さん)

他にも驚くような話はたくさんあったのですが、確認がとれなかった部分もあり、今回記事に書くのは控えておきます。

念のため添えておくと、その後岡山県Pでは会長が何度か入れ替わり、各種見直し・改善も進められたようですが、時すでに遅し、ということだったのかもしれません。

広域P連あるある? 日Pとの相似

「似たような話を、あっちのP連でもこっちのP連でも聞いたな……」というのが、今回の話を聞いた筆者の頭に浮かんだことでした。

もちろん全てのP連に該当するわけではないのですが、「会計に不明な点があり、詳細な説明を求めても対応がない」という点などは、まさに日Pでも起きてきたことです。

日Pでは2023年春、前年度に約5000万円の赤字が出たことが判明して騒動になりましたが、総会で説明は行われず、「徹底的に調べる」と宣言した当時の会長・金田淳氏は、まもなく理事会に解職されてしまいました。

【関連記事】
何やらキナ臭い「謎の5000万円の赤字」と「突然の会長の交代劇」 PTA全国組織で何が起きている?

その後、関東の7つの協議会(千葉県・神奈川県・栃木県・群馬県・千葉市・新潟市・茨城県)の代表者らが会計資料などの閲覧を求めてきましたが、日Pはそのたびに理由をつけてドタキャン・延期。複数の協議会が提出した意見書などに対しても、回答はありませんでした。

2024年に入ってから千葉市とさいたま市が日Pを退会しており、さらに千葉県などいくつかの協議会が退会を検討中、というのが2024年9月現在の状況です(東京都小学校PTA協議会/現・東京都PTA協議会は2022年度末に退会済み)。

ですから「会の運営への不信が退会を招いた」という中村さんの話には、筆者も納得です。日Pもこのままなら岡山県Pと同様の道を歩んで不思議はありません。

なお、日Pで2022年度の赤字に関わった元役員は2024年7月、業者に水増し請求させた背任の容疑で逮捕されました(事務局の幹部2名は懲戒解雇に)。同月、この元役員は、さいたま市PTA協議会での横領容疑でも逮捕されています。
 
今回の岡山県Pの解散は、ネットの反響を見る限り、かなり肯定的に受け止められているようです。会の運営の問題もありますが、それ以前に「そもそもこういった広域P連が、一般保護者や教職員から求められていなかった」ことも、改めて実感せざるを得ません。

※サムネイル画像出典:倉敷市PTA連合会 公式Webサイト


この記事の執筆者:大塚 玲子 プロフィール
ノンフィクションライター。主なテーマは「PTAなど保護者と学校の関係」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』『PTAでもPTAでなくてもいいんだけど、保護者と学校がこれから何をしたらいいか考えた』ほか。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。

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