アラサーが考える恋愛とお金 第33回

窪田正孝の“鍼治療”でも話題の「スピ界隈」。悩みを抱える人に「共感して信頼させる」巧妙な手口

芸能界には、高額で一見怪しい“スピリチュアルな世界”に関わって話題となった芸能人が数多い。富裕層や有名人ほどスピリチュアルにハマる人が多い印象だが、アラサー世代にもハマる人が多いという。過去に“スピ界隈に誘われた”という経験者に話を聞いた。

スピ
悩みを抱える世代に忍び寄る「スピ界隈」
8月14日、俳優の窪田正孝さんが更新したInstagramの投稿が話題を呼んでいる。窪田さんは「ルート治療、凄まじい」「魂の根幹までぶち抜いてくれる施術は生まれて初めてでした」などとつづり、鍼治療の施術を受けている自身の顔写真を公開。写真のインパクトと、施術費が「30分20万円」という高額なサービスだったことから、ファンからは「あんまりスピらないで」といった心配の声が寄せられた。

芸能界には、高額で一見怪しい“スピリチュアルな世界”に関わって話題となった人が数多い。富裕層や有名人ほどスピリチュアルにハマる人が多い印象だが、アラサー世代にもハマる人が多いようだ。一体なぜなのだろうか。

元恋人から「会いたい」。仕事の悩みを相談したら……

「大学時代の元カレから急に『会いたい』って連絡がきて、喫茶店で会ったんだけど、なんか変なセミナーに誘われたんだよね」

先日友人たちと食事をしていた時のこと。会社員のA子さん(31歳/フリーランス)がため息交じりにこう言った。A子さんは進学のために実家がある四国を離れて以来、都内で1人暮らしをしている。結婚はしておらず、恋人もいない。

A子さんは「元カレも独身だったからちょっと期待した(笑)」と話す。

元恋人はA子さんに会うなり、親身になって仕事の悩みを聞いてくれたという。しかしその後、突然人生観の話になった。

「『A子ならもっと幸せになれると思う』と話し始めて。私の仕事内容を聞かれて、女性誌でいろいろな女性の取材をしているライターだと話したら、『面白そうな人いるから紹介するよ! 取材もできるだろうし』と言われて、流れで会うことになったんです」

元恋人は「その人が近くにいるから」とすぐに女性を呼んだという。まるで事前に準備していたかのように……。

「その女性は、40代の経営者。『たまに雑誌とかのインタビューも受けているから、取材相手にもいいと思う』と元カレが言ったので、最初は信用してたんです」

元恋人の立ち合いのもと、A子さんは女性に会った。しかし一向に取材の話にはならず……。ものの数分で、“人生が変わる”という怪しい高額セミナーに勧誘された。A子さんは「これ、ちょっとヤバいやつ……?」と心の中で疑いながらも、「もしかしたら仕事の悩みが少し解消されるかも」と、多少期待しながら女性の話を聞いていたという。

勧誘されるのは、人生に悩んでいるとき

そもそもA子さんが元恋人から「会いたい」と言われたのは、InstagramのストーリーズのDM経由だった。A子さんは、日頃は自身が書いた記事などをInstagramに投稿していたが、その日は「仕事上の悩み」について、親しい人限定で投稿していた。すると突然「久々に会いたい」と元恋人から連絡が来たのだという。

A子さんのように、怪しいスピリチュアル系のセミナーや新興宗教に誘われた、または惹かれたという声は、アラサー世代の女性からよく耳にする。それは決まって“人生に悩んでいるとき”だ。

A子さんはさらに、「その後、その女性から無料の恋愛セミナーに誘われ、数回行くと『もっと学ぶためには数十万円する』と言われた」と、事の顛末(てんまつ)を打ち明けてくれた。

「実は、僕も発達障がいがある」そしてセミナーを勧誘され

また、過去に高額セミナーに誘われた経験がある広大さん(仮名/28歳)にも話を聞いてみた。広大さんは、仕事や恋愛が続かず、生きづらさを感じていた23歳の時、病院で自身に発達障がいがあることを告げられたという。

「自分に障がいがあること、また恋愛のコンプレックスがあることを数少ない友人の1人に打ち明けたんです。すると彼は『実は、僕も発達障がいがある』と打ち明けてくれて。すっかり彼を信用した僕は、彼の紹介する恋愛セミナーに入った」

セミナーは無料だったが、途中から「もっと学ぶためには数十万必要」だと言われ、広大さんはそれを断った。すると、次は同じ友人から「一緒にビジネスをしないか」と持ち掛けられた。

客観的には、この時点で「怪しいな」と思うはずだが、広大さんによれば「彼を信用しきっていて、将来にも不安があったので、彼の話にのってしまった」のだという。広大さんは彼に言われるがまま、保険に加入したり、貴金属を購入したりした。「結果的にリターンがある」と言われていたそうだが、気付いた頃には数百万円の借金を抱えていた。

「母親は僕の不審な行動に気が付き、すぐにビジネスをやめるように言いました。『それは詐欺よ』と。その時、すでに友人と連絡がつかなくなっていたんです。弁護士などの専門家に相談するも、証明する書類などがなかったため、泣き寝入りするしかなかった」と広大さんは話す。

「今なら神にすがりたくなる気持ちが分かります」

セミナー同様に、人生に悩み、新興宗教などに興味を持ってしまうアラサー世代も。

「これまで新興宗教にハマる人のニュースを見ても『なんでハマるんだろう』なんて思っていたけれど、今なら神にすがりたくなる気持ちが分かります」

こう話すのは由香さん(30歳/仮名)だ。

パートナーに浮気されていたことを知った由香さんは、心にぽっかりと穴が開いた状態だった。そんな時、今までは一切気にしていなかった街中の新興宗教の勧誘が目にとまるようになったという。彼女は自身の精神状態が危険な状態であると気付き、公的なカウンセリングを使って臨床心理士に話を聞いてもらったそうだが、「一歩間違えれば、新興宗教にハマるところだったかもしれない」と話す。

「いわゆる20代の若手と、中間管理職の40代の間に挟まれて、仕事の悩みが増える時期だった。周囲が結婚し始めて焦る気持ちもあって、人には話しづらい悩みを抱えていたんです」

冒頭のA子さんは、自身がセミナーに勧誘されたときの精神状態をこう話す。女性の話を聞きながら、一瞬「初回セミナーは安かったし、1回行ってみてもいいかな」と思ったそうだが、ふと “あること”に気付く。

「自称経営者の女性は、シャネルの時計を付けていて、いかにもお金を持っていそうな印象だったけど、着ていたTシャツをよく見たら、ユニクロでサイズの書かれたシールが貼られたままになっていました(笑)。靴も古く、汚れていた」

A子さんはその時、「正気を取り戻した」と話す。

仕事、恋愛、結婚と、アラサー世代の悩みは尽きない。そのすきを狙って近づいてくる友人や過去の恋人には注意したい。

※回答者のコメントは原文ママです

この記事の筆者:毒島 サチコ プロフィール
ライター・インタビュアー。緻密な当事者インタビューや体験談、その背景にひそむ社会問題などを切り口に、複数のWebメディアやファッション誌でコラム、リポート、インタビュー、エッセイ記事などを担当。
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