AIに負けない子の育て方 第12回

「難関校だから」で選ぶと後悔…中学受験でやみくもに高偏差値校を目指すことの弊害

中学受験が過熱しています。しかし、少しでも偏差値の高い学校を目指した結果、親子関係が悪化したり、入学後にやる気を失うなどの弊害も生まれています。後悔しない中学受験にするために大切なことを、この道20年の教育ジャーナリストが解説します。

少しでも上に…と偏差値上位校を目指した末に起きた残念な結果
偏差値上位校を目指した末に起きた残念な結果とは

過熱する中学受験、その理由は?

中学受験が過熱している。そういう報道をよく耳にします。

確かに、過去9年間、首都圏の中学受験者数は過去最高を更新し続け、直近2023年の受験者数は少し減ったものの、受験率は逆に上昇しました。公立中高一貫校を入れると、首都圏の小学生のおよそ4.7人に1人が中学受験をしています。

首都圏に次いで中学受験が盛んな関西圏でも、少子化の影響で小学校卒業児童数は減少していますが、中学受験者実数は20年ぶりに2年連続の増加、中学受験率も過去3番目の高さになりました。

首都圏、関西圏共に、今後受験者数が大幅に増えていくことは考えにくいですが、関係者の間では、受験率は今後も高止まりするのではないかといわれています。
 
その理由は、公立中高一貫校もできたことから、子どもの進路選択の1つとして、中学受験が特殊なことではなくなってきた結果ともいえるでしょう。

加えて、今は夫婦ともに働いていて経済力があり、仕事をする中で、社会で求められる力の変化を実感している人も多くいます。そのため、コストはかかっても、子どもによりよい教育を与えたいと考える家庭が増えているのです。

「よい教育」の定義はさまざまですが、子どもの教育に関心が高い親たちにとって、中学受験は強力な選択肢であることに間違いありません。

ただ、「周りもするからうちもした方がいいのかな」と考えて、とりあえず塾に行き出す人は多いですが、そういう考えでこの道に参戦すると、後悔することも。なぜなら、知らない間に偏差値信仰に取り込まれ、受験塾のプログラムに翻弄されることになりかねないからです。

少しでも偏差値上位校を目指した末に起きた残念な結果

筆者はこれまで20年間にわたってこの世界を見てきました。そして、200校以上の学校を取材、2万人以上の受験生の親に会ってきました。

その中で、実際に、せっかく高偏差値の学校に入学できたのに、子どもが「いい学校」に入れたのだからもう勉強しなくてもいいでしょと、入学後学ぶ意欲をなくしてしまったケース、入学後も成績を上げるようとする親にコントロールされ続け、思春期になって親子関係が悪化したケース、膨大な量の宿題・課題に付いていけず不登校になってしまったケースなどを見てきました。
 
合格するまではなんとか頑張ろうと、志望校合格だけを目標に頑張った子ほど、受験勉強から解放されたときの反動は大きくなることがあります。
 
「中高一貫校に入りさえすれば、学校がケアしてくれて上に上がれるはず」と考えている人もいますが、学校の求める学力に達しないために、高校に上がれない子もいるのが現実です。何より、入学後に子どもが生き生きと学校生活を送れなければ、受験を頑張ってもなんの意味もありませんよね。
 
また、受験にチャレンジする中で、偏差値的価値観に染まると、子どもが本来持たなくてもいい劣等感を抱いて「自己肯定感」を下げてしまったり、反対に「おかしな優越感」を持ってしまったりすることがあります。

成績別クラス分けは、本来それぞれの子どもの力に合わせた指導をするために設けられているはずですが、上位クラスにいることがステータスになってしまい、下位クラスに落ちると自分は勉強ができないと思い込み、やる気を失うことも。

やる気をなくすくらいならまだいいですが、ストレスから弱いものいじめに走ったり、問題行動を起こす子もいます。
 
せっかく、子どもによい環境を与えようとトライした受験で、こんな結果になったら残念ですよね。そうなってしまう元凶の1つが偏差値信仰だと、筆者は考えています。
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