厚生労働省が6月に発表した「人口動態統計」によると、2023年の合計特殊出生率は1.20で過去最低を更新。出生数や婚姻数も戦後最少となり、少子化が加速している。「私は子どもを産まない」と語るアラサー女性の本音を聞いた。
産んでも、自分と同じ教育を受けさせてあげることができない
「今は子どもを産むことは考えてない。自分が受けてきた教育を受けさせてあげられる自信がないし」こう語るのは、筆者の知人である奈津美さん(仮名/29歳/契約社員)だ。彼女は広告代理店に勤める契約社員で、いずれ結婚したいと思っている恋人もいる。しかし、子どもに関しては、今は考えられないという。
「私は来年、社員登用試験を受ける予定で、今は自分のことで精いっぱい。それに、子どもを育てるためのお金が3000~4000万円というのをネットで見て、彼と私の給料を合わせても払っていける自信がないし、今妊娠しても、契約社員は産休育休が取れないのでキャリアを完全に断絶してしまう。そんな状況で子を持つのは無責任かなって」
奈津美さんは金銭的な理由で、出産のハードルが高いと考えている。まさにニュースでよく目にする経済負担や働き方の問題から、結婚や出産をためらう声であるが、こんな本音も。
「今は出産を考えられないけれど、出産のタイムリミットとなる年齢になったとき、『子どもを産みたい』と思う可能性は少しはある。その時に後悔しないように正社員で安定した収入を得ておきたい」
奈津子さんは「子どもを持つ気がない」のはあくまで“現在の自分”であり、今後、自身の気持ちが変化する可能性を残している。
10代の頃から、子どもは産まないと決めている
一方で、アラサーにして「絶対に子どもは産まない」と決めていると強く語る女性も。「今32歳ですが、10代の頃から子どもは産まないと決めています」
こう語るのは、明子さん(仮名/32歳/会社員)だ。彼女は外資系の会社に長年勤めており、収入は安定している。現在パートナーはいないが「結婚はしても子どもは絶対に持たない」と語る。
「単純に自分のビジョンの中に『出産』がなかったんです。別に親と仲が悪いとか、子どもに対して嫌悪感があるとかではないです。ただ、小さいときから日本の社会は女性を酷使する社会だと思っていて。妊娠や出産をしたら、お酒も薬も飲めなくなるし、死ぬ思いで陣痛に耐えなきゃいけない。産んでからも育児の大半を担いながら、生活のために男性同等に働く。なんで女性だけこんな思いをしなきゃいけないんだって。私はそれを体験したくない、と思いました」
さらに、自身が新卒社員の時に感じた“違和感”についても語る。
「こう思うようになったのは、就活がきっかけなんです。男性の面接官がずらりと並んでいて、働き方について『女性が働きやすい職場』というのを押し出していた。それが全て“子どもを持つ”前提の産休や育休、さらには会社の働くママのロールモデルについてで。でも『産まない選択をした女性』の話は一切なかった。その会社は働く女性のロールモデルとして、子どもを産み、仕事をしながら家事育児をこなすイメージを作り上げていました。さらにそこに“父親”の姿はなかった。それにすごく嫌悪感を抱いたんです」
明子さんは、自身のビジョンが見えず、その会社に就職することはなかったという。
「キャリアは求めない」けど、仕事を中断することは考えられない
明子さんに今後のビジョンを聞いてみると「生活のために普通に働いて、普通に暮らしたい」と語る。「子を持たない独身女性=キャリア志向、みたいな世間のイメージがありますよね。それがより一層、子を持たない女性を苦しめているように思います。私は決してキャリア志向ではない。だけど、やりがいと生活のために働きたいと思っています」
さらに昨今の少子化対策について、こんな本音も。
「最近の報道を見ても、腹が立ちます。どうしたら『全ての働く女性』に産ませるかばかり考えているように見えるからです。産みたい女性が産めないのが問題であって、産みたくない女性まで対象にしないでほしい。それに妊娠・育児は女性1人ではできないですよね。男性はどこいった? って」
本当に必要なのは「男性が長期的に育児参画できる福利厚生」
「今は子どもを持ちたいと思わない」と考える奈津子さんと、「絶対子どもは持たない」と決めている明子さん。子どもに対する考え方は違えど、2人とも子どもを持つことに対して、キャリアの断絶への不安を挙げている。共働きが主流の現代女性にとって、仕事はライフスタイルの一部になっているが「子どもを持たない」と語る2人は決してキャリア志向ではない。“安定した生活のため”に働きたいと思っている。だからこそ、出産や育児により、長期的にキャリアを途絶えさせる事に対しての不安は大きいのだ。
現在の少子化対策は、長期的に休暇を与えるなど「女性が働かなくていい」制度を作ろうとしている。しかし社会には「働きたい、もしくは働かなければいけない」という状況の出産適齢期の女性たちが多いのだ。
明子さんは「女性に対しての福利厚生ではなくて、男性が長期的に育児に参加できるような福利厚生を打ち出すべき」だと語る。
小手先の「パパ育休」ではなく、男性が女性同様に育児に参画できる支援こそ、今後最も必要になってくるのかもしれない。