ヒナタカの雑食系映画論 第104回

ドラマ版『ブラック・ジャック』は困惑の実写化? “女性化”が「許せない」「納得」それぞれの理由

実写ドラマ版『ブラック・ジャック』(テレビ朝日系)は放送前のニュースはもちろん、本編を見た人からも賛否両論が噴出しました。ドクター・キリコの“女性化”を筆頭とした注目ポイントをまとめて解説しましょう。(サムネイル画像出典:テレビ朝日公式Webサイト)

琵琶丸はなぜミュージシャンに?

そんな風にドクター・キリコの改変で存分に賛否が分かれる実写ドラマ版『ブラックジャック』ですが、それ以上に“変”と思ってしまったのが、琵琶丸というキャラクター。原作では盲目の鍼師でしたが、今回はなぜか「ミュージシャン」という設定で、大胆すぎる改変がされているのです。彼が友人のために作った歌が、今回の実質的な主人公とその友人の心のよりどころになっているという方向性は分かりますし、演じた竹原ピストルの歌と存在感は魅力的でしたが、それにしたって妙な雰囲気に満ちていすぎていて困惑してしまったのです。

他にも、ブラック・ジャックが「(助けられなかった人の骨の前で)とどのつまり、私は神になりたい」と言うことも批判を浴びました。彼は原作の46話『ちぢむ!』で「神様とやら! あなたは残酷だぞ!」と、むしろ神が用意した運命(理不尽)に対して憤慨する立場だったのに、(たとえ冗談めかした言い方だとしても)その神になりたいと口にするのもまた、解釈違いだと怒る人がいるのももっともです。

他にも、荒唐無稽な設定や出来事に対して「まるで漫画だな」などといったメタフィクション的な言及も好き嫌いが分かれるかもしれません。個人的には「SNS全盛のご時世に闇医者なんて存在できないでしょ」的なツッコミや、原作者の手塚治虫が医者を志していた(医師免許を持っていた)事実への言及も面白いとは思ったのですが……。

やっぱり高橋一生のブラック・ジャックは良かった

そういった不満の一方で、高橋一生のブラック・ジャックの存在感や、ピノコ役の永尾柚乃の「ちゃんと見た目と口調が子ども(だからこそ実は18歳だというギャップが際立つ)」であるたたずまいなど、キャスト陣が称賛されているのも事実。個人的には、妻に対してクレイジーなまでの愛情を持つ宇野祥平が、同じく城定秀夫監督作『放課後アングラーライフ』に似たかわいらしさがあって大好きでした。

高橋一生のブラック・ジャックにしても、評判を呼んだ『岸辺露伴は動かない』(NHK)に似過ぎているという意見もありますが、「お前さん」という呼び方が板についていて、時おりアニメ版で声優を務めた大塚明夫の声質に近い印象さえ持ちました。また、ピノコに「先生だって見た目のことで嫌な思いしたことあるでしょ」と問われて、「いやぁ、良い思い出しかないなあ」とにこやかに笑って返す様などは大好きでした(原作の92話『友よいずこ』を読めばその良い思い出が何かが分かります)。「あの死神の薬が特効薬だったかもしれませんね」などと「すっとぼけた」言動も(理屈はむちゃくちゃですが)原作のブラック・ジャックらしくて良かったと思えるのです。

そんなわけで、やはり良いところも悪いところ……というより、やっぱり困惑するポイントが多くあった実写ドラマ版『ブラック・ジャック』でしたが、文句を含めて語ることもまた楽しいですし、その批判があってこそ、これからの漫画の実写映画化作品がよりよくなるきっかけになるとも思えます。今回は単発ドラマでしたが、第2弾や、今後の他の手塚治虫作品の実写化作品にも期待しています。
 
ブラック・ジャック 1 ブラック・ジャック (少年チャンピオン・コミックス)
ブラック・ジャック 1 ブラック・ジャック (少年チャンピオン・コミックス)
ブラック・ジャック
ブラック・ジャック

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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