厚生労働省が6月に発表した「人口動態統計」によると、1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す「合計特殊出生率」は1.2で過去最低。特に若い女性の一極集中が進む東京都は0.99と、1を割る数値になった。婚姻数も48万9281組と戦後初めて50万組を割り、「恋愛・結婚しない」「子どもを産まない」人たちが増加している。しかし、アラサー世代から聞こえてきたのは「しないのではなく、できない」の声だった。
アプローチしたいけれどできない。職場恋愛をためらう20代男性
「職場恋愛なんて絶対できません」こう話すのはリョウタさん(仮名/29歳/会社員)だ。IT関連の会社で働く彼は、会社の2つ年下の後輩女性が気になっているという。しかし、リョウタさんが彼女に対してアプローチをすることはない。
「職場に気になる女性がいても、よほど相手からの好意を感じない限りアプローチするのは厳しいです。2人でランチや食事に誘うのもハードルが高い。後輩だし、万が一相手が『断れなかった』と言ったらそれはセクハラになる」
リョウタさんの職場では4月になるとコンプライアンス研修があり、社員向けのアンケートなどが実施される。
「コンプラが厳しい会社なので、安易に女性社員を食事に誘うのも難しい。昔は職場恋愛が主流だった会社っぽいですけど、今の時代、職場恋愛はできないですね。公私混同はリスクがありすぎる」
リョウタさんは「男性が女性にアプローチしづらい時代になったと思う」と言う。恋人も欲しいし、いずれは結婚して子どもも欲しいと思っているリョウタさんだが、現在は仕事と家の往復の毎日を送っており、出会いは皆無。「アプリや街コンなどで相手を探すしかない」と話す。
「交際経験のない」若者が増えている一方で……
「交際経験はありませんが、男性経験はあります」こう話すのは、ヨリコさん(仮名/27歳/会社員)だ。彼女は27年間、恋人ができたことはないというが、肉体関係を持った男性は数十人いる。
「大学時代から今までマッチングアプリを使って恋活をしているのですが、出会った男性からホテルに誘われることが多く、そのまま関係を持ってしまうことも多くて。いわゆるワンナイトで経験人数が増えたんです」
アプリで出会った男性の中に「付き合いたい」と思う男性もいたという。しかし、交際には至らなかった。
「一度ホテルに行った男性とまた会いたいと思っても、断られてしまうケースが多くて。また会いたい男性に限って、たった1回きりで終わってしまうんです。アプリであとくされがないし、かっこいい人だったから選び放題だろうし……しょうがないのかもしれません」
ヨリコさんは決して自ら体の関係だけを求めたわけではなく、男性と真剣交際がしたいと思っている。しかし、男性からホテルに誘われると、なかなか断ることができない。
「中学時代、容姿のことで男子にからかわれたことがあって、すごくつらい思いをしました。高校に進学してから、はじめて仲良くなった男子ができて、私はその男子と付き合っているつもりでいたんですけど、相手から『俺は付き合っているつもりはない』と言われ……。さらに自分に自信が持てなくなりました。そのせいか、自己肯定感が低い。大人になってからも、体の関係であれ男性に誘われると『私を誘ってくれている!』みたいな気持ちで関係を持ってしまって。アラサーまで交際経験がないと、どうやって付き合うのか分からなくなっています」
ヨリコさんは「交際経験のない若者が増えている」といったニュースを目にするたびに、こんな感想を持つという。
「『男性経験はあるが、交際経験はない』という私みたいな人もいると思う。アプリを使えば簡単に男性に出会える。だけど、そこから付き合うのは難しい」
「しない」のではなく「できない」
今回話を聞いた2人のアラサー男女は、恋愛を自らの意思で「していない」のではなく、「できない」ことで悩んでいた。未婚化や少子化の最も大きな原因には、若者の低賃金の問題があると訴えられてきたが、それとは別に、そもそも“男女が交際しづらい”状況が生まれているのは確かだ。コンプライアンス意識の向上、男女の出会いの多様化が現代社会にポジティブな影響をもたらしていることは間違いないが、一方で、対人関係におけるコミュニケーションにも急激な変化をもたらし、その結果として恋愛や結婚に向けて「踏み出せない」と感じてしまう若者も多いのかもしれない。
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この記事の筆者:毒島 サチコ プロフィール
ライター・インタビュアー。緻密な当事者インタビューや体験談、その背景にひそむ社会問題などを切り口に、複数のWebメディアやファッション誌でコラム、リポート、インタビュー、エッセイ記事などを担当。