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同作はアカデミー賞の音響賞と国際長編映画賞を受賞した実績があり、特異な設定も話題を呼んでいたとはいえ、本編は決して万人向けとはいえない、かなり実験的な作りのアート系の作品でした。しかも、過去の凄惨な出来事はもちろん、現在進行形で世界に起きている問題を「当事者の気持ちで味わえる」作品だったのです。
そして、『関心領域』を見て(いい意味も含めて)落ち込んでしまった人にもぜひおすすめしたい、ナチス・ドイツに関わる映画が6月21日より劇場公開中です。それは『ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命』。
アメリカの批評サービスRotten Tomatoesでは批評家支持率91%にオーディエンススコア95%、日本でも映画.comとFilmarksで4.0点と高い評価を得ている同作は、実に『関心領域』と「好対照」な内容だったのです。その理由を記していきましょう。
50年にもおよぶ「救えなかった命」の自責の念がつづられる
『ONE LIFE』は実話を元にした映画で、主人公のニコラス・ウィントンも実在の人物。第2次世界大戦直前の1938年からの出来事を、その50年後の1988年から「回想形式」で語ることが大きな特徴です。 その回想において、主人公は株の仲買人として働いていたごく普通の若者でした。しかし、ナチスから逃れてきた大勢のユダヤ人難民が、住まいも食料もない過酷な生活を送っていたことを目の当たりにして、「子どもたちだけでもイギリスに避難させられないか」と考え、チームを組んだ上で里親探しと資金集めに奔走するのです。史実として彼は669人もの子どもたちを救出しますが、最大規模となる250人の救出が予定されていた第9便の到着2日前に第2次世界大戦が勃発し、その列車が到着することはありませんでした。その「救えなかった命がある」という「自責の念」こそが本作では重要なのです。 劇中で描かれる時間の流れは、何しろ50年。もちろんこの映画を見ている我々は、目の前の苦しむ人々のために行動をし続けたニコラスが素晴らしい人物だと思えるでしょうし、彼自身もそれを誇りだと思っているのですが、一方で「助けられなかった子どももいたのだと50年も後悔をし続けていた」重みもまた伝わるでしょう。