「港区女子」というビジネスキャリア 第4回

どうしたら「港区女子」になれるのか。港区に遠征してキャリアをつかむ女性、闇落ちする女性の「差」

港区女子とは、港区在住の女性のことではない。女性たちはどのようにして縁もゆかりもない港区に足を踏み入れ、港区女子になっていくのだろうか。これまでの取材を基にひもといていく。

どうしたら「港区女子」になれるのか
どうしたら「港区女子」になれるのか
港区女子が必ずしも「港区在住」かといえばそうではなく、自身の目的を達成するため、わざわざ遠征してくる女性がほとんどだ。

では、実際に港区女子になるにはどうすればいいのだろうか。

港区女子になる3つの方法

女性たちはどのようにして縁もゆかりもない港区に足を踏み入れ、港区女子になっていくのか。これまでの取材を整理すると、以下の3つのケースに分けられる。

■ケース1:地方から上京し、六本木や西麻布の高級ラウンジ嬢となる
港区の高級キャバクラや会員制ラウンジに勤め、そこに来る富裕層の男性=港区おじさんとの人脈を築いていくケースが多い。特に六本木や西麻布のラウンジは“素人っぽい女性”を採用するお店も多く、大学生や社会人になりたての女性が、「夜の世界とは別の夢をかなえるため」として働く場合が多い。深夜帯までの勤務となるため、実家から通っている女性は少なく、1人暮らしで制約が少ない女性が多い。港区のキャバクラやラウンジは採用難易度が高いため、若くて美しいことが条件となる。

■ケース2:大学生や社会人になり、港区女子からの紹介で港区を訪れる
SNSやメディアで「港区女子」が取り上げられるようになってからは、港区女子になりたい女性と港区の富裕層の男性との飲み会をセッティングするアテンダーのような役割の港区女子も登場し始める。その中でも有名なのが、X(旧Twitter)で4万4000人のフォロワーを持ち、“港区取締役”を自称するひとみん氏(@htm_192)だ。彼女は自身も港区女子であり、港区女子と富裕層の男性たちとのギャラ飲みをセッティングしている。ひとみん氏が公開している公式LINEには、毎日のように港区女子志望の女性からメッセージが届くという。

■ケース3:インスタグラマーやリアリティー番組の出演者となる
港区で行われるタワマンパーティーの参加者には、必ずと言っていいほど恋愛リアリティー番組の出演者やインスタグラマーが含まれる。彼女たちは同じ属性同士で友人関係を築き、その中の誰かがケース2で取り上げた港区女子であることが多い。「明日、パーティーがあるんだけど行かない?」と、誰かがグループLINEで呼びかけ、メンバーが芋づる式に港区に足を踏み入れることも多いという。会社員に比べて時間の制約が少ないことから、夜な夜な港区でのパーティーに対応できるのだ。

港区に集う理由は「キャリア>婚活」

ケース1~3で紹介した女性の共通点を分析すると、港区を目指す女性はあらゆる意味で“向上心の高い女性”であることが分かる。上京、リアリティー番組への出演、SNSでの人気を得たうえでさらに“高み”を目指す若い女性が多く、彼女たちは自身の夢をかなえるために港区に集い、最終的に自身で稼ぐことを目的としている人が多い。

前述のひとみん氏によると、港区女子は、富裕層の男性との恋愛や結婚を目的としているイメージがあるが、必ずしもそうではなく、あくまで自己実現のために港区を訪れるケースが多いようだ。

しかし現在では、港区女子という言葉だけが独り歩きし、パパ活をしてぜいたくな暮らしをしている女性や、富裕層の男性の愛人のような存在として捉えられることが多くなっている。また、当初は夢をかなえ、自身で稼ぐ港区女子を目指していたのに、いつの間にか男性に依存して生きている港区女子になってしまったケースも多い。

キャリアを築く港区女子と、闇落ちする港区女子

港区での人脈を駆使し、キャリアを築く港区女子。目的を見失って闇落ちし、男性に依存して生きる港区女子。その境目はどこにあるのだろうか。

昼は会社員、夜は港区でラウンジ嬢として働き、港区おじさんの援助を経て、自身のお店をオープンするという夢をかなえたミキコさん(仮名/30代)によると、ラウンジ嬢として勤務していた時には「援助してくれた男性と同伴やアフター、休日に会うこともあったが、付き合っていないし、体の関係もなかった」そうだ。

一方、大学進学とともに岡山県から上京し、人一倍東京に対する憧れがあったと話す女子大生のカナさん(仮名/当時22歳)は、港区のパーティーで17歳年上の港区在住の男性と恋に落ち、半同棲生活をしながらぜいたくな日々を送った末、最終的には彼の浮気が原因で別れ、港区を去っている。

2人はとても対照的である。ミキコさんは、具体的な夢を持って港区を訪れ、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として自立した生活を送っていた。一方のカナさんは、大学生として親の援助を受けながら、“憧れ”のみで港区に足を踏み入れ、苦い経験をして港区を去ったのである。

港区女子は、自立していることが大前提

総務省が1月に発表した「住民基本台帳人口移動報告」によると、2023年の東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)への転入超過数は、女性(6万8712人)が男性(5万7803人)を1万人以上も上回る結果に。また、東京圏へ転入してくる人々の中でも特に多い年代は、大学を卒業し、就職のタイミングを迎えた「20~24歳」だったという。

女性たちは「地元に仕事がない」「東京への憧れ」といった理由で東京を目指す。有名企業が集い、東京の象徴である東京タワーのある港区は彼女たちにとって“憧れの場所”なのだろう。

しかし、ただの“憧れ”だけで港区に足を踏み入れると、カナさんのように、港区におぼれ、最終的に自身を見失ってしまう危険がある。港区ドリームをかなえるためには、港区に根を張り、自身が自立していることが必須条件だといえそうだ。

この記事の筆者:毒島 サチコ プロフィール
ライター・インタビュアー。緻密な当事者インタビューや体験談、その背景にひそむ社会問題などを切り口に、複数のWebメディアやファッション誌でコラム、リポート、インタビュー、エッセイ記事などを担当。
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