ここがヘンだよ、ニッポン企業 第28回

Mrs. GREEN APPLE『コロンブス』炎上騒動の背景にも…? トガッたクリエイター暴走リスクとは

なぜ、多くの人が携わっているにもかかわらず、Mrs. GREEN APPLEの新曲『コロンブス』のミュージックビデオは世に出てしまったのか。報道対策アドバイザーである筆者の経験に基づいて考えてみたい。(サムネイル画像出典:Mrs. GREEN APPLE公式Webサイト)

「裸の王様」が生まれるまで

聞けば、先ほどのクリエイターは有名な賞を数多く取っているような気鋭のクリエイターで、仕事をしてもらうだけでも話題になるような、その世界の「大物」なのだという。そんな人物のアイデアや企画にダメ出しをすると「あいつはセンスがない」と業界に悪評が立ってしまう。そのため、代理店はもちろん、クライアントの担当者でさえ萎縮して、意見を言うことができなかったようなのだ。
 
「私たちもちょっと今回の広告はリスクが高いかなという気はしていたんですが、なかなかうまく伝えられずで……いやあ、お願いして正解でした」
 
つまり、その時の筆者は「周囲が忖度(そんたく)する大物クリエイターにダメ出しをするセンスのない人」という役割を求められていたのである。
 
実はこれは広告だけではなく、テレビ、映画、音楽などあらゆるクリエイティブな現場で見られる現象だ。

基本的にこれらの世界の人たちは「世にウケるセンス」が大事だ。それは裏を返せば、「センスがない人」という悪評が立つと干されてしまうということでもある。そうならないために、「センスのある人」である時代の寵児(ちょうじ)のようなトガッたクリエイターに迎合する。その結果、そのクリエイターに誰ももの申すことができず、「裸の王様」が誕生することになる。

周囲は「静観」するしかない

ここまで言えばお分かりだろう。こうしたことが今回のミュージックビデオを誰も止められなかった背景にあるのではないかと筆者は考えている。
 
実はこの作品のディレクターは、Mrs. GREEN APPLEのボーカルとギターの大森元貴さん自身が務めている。
 
言うまでもなく、大森さんは数々のヒット曲をつくった「時代の寵児(ちょうじ)」であり、絵本なども手掛ける「センスの塊」だ。そんな今をときめくクリエイターが、コロンブスの扮装をして、類人猿に音楽を教えるようなコンセプトを「面白い」と判断して熱心に進めようとしている時、果たしてそれにダメ出しをできる人が、大森さんの周りにどれほどいただろうか。
 
いるわけがない。ユニバーサル・ミュージックでMrs. GREEN APPLEの担当をしている人や、日本コカ・コーラのキャンペーン担当者は、「センス」でメシを食っている人たちだ。もしそんなダメ出しをして、業界の人たちから「あの人はセンスがないね」と思われてしまったら、その後のキャリアに大きく傷がつく。
 
では、どうするかというと「静観」である。「なんかアブなそうだな」「ちょっとマズくないか?」と心の中で思いながらも、大森さんたちが進めていることをただ見守るのだ。だから、あのように誰が見てもアウトなミュージックビデオが世に出てしまったのではないだろうか。
 
「そんなバカバカしい理由で?」と驚く人もいるだろうが、実際に炎上企業の現場を見てみると、自己保身やメンツを守るなど、あきれるほどくだらない理由で「危機」というものは起きていることがほとんどなのだ。
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この記事の筆者:窪田 順生
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経てノンフィクションライター。また、報道対策アドバイザーとしても、これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行っている。
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