ヒナタカの雑食系映画論 第98回

「ドラマ好き」より「映画好き」の方が偉いの? 映画の2時間が耐えられない? 入社1年目社員の疑問

オールアバウト入社1年目の女性社員さんから、「映画好き」と「ドラマ好き」の違いを感じてしまうとの質問を受け、その理由について対談をしました。「ドラマよりも映画の方がハードルが高い?」「映画の2時間は耐えられない?」について話し合っています。

「映画ファンの態度」を改めた方がいいかも

ーーとはいえ、そうした趣味についてのギャップやズレを感じたとしても、結論としては「好きなら好きでいいじゃん」「他の人と比べなくていい、全然気にしなくていい」だとは思います。好きの程度の差は、確かに人それぞれあるのかもしれませんが、趣味にそんな優劣つけるもんじゃないですから。

それはそうですよね。

ーーそれでも、よくないのは一部の映画ファンの態度なのかもしれませんね。映画をこれから見ようとしている、または見た人へ「分かっていない」「その程度で映画が好きって言えるの?」「その映画が好きだなんてベタすぎない?」とか、見下したような態度を取るのであれば、それはその人がはっきりと間違っています。

せっかく、自分たちが好きな映画の世界に来てくれようとしているんだから……これから映画が好きになってくれる人に対して、排他的なことを言ってはいけないと思うんです。そうならないためには、同じ趣味に興味を持ってくれそうな相手に、ある意味でドライに接するくらいでちょうどいいというか、「期待しすぎない」感じの方がいいかもしれないですね。

『花束みたいな恋をした』から学べること

ーーオタクや趣味への向き合い方の例をあげるのであれば……『花束みたいな恋をした』という映画ってご覧になっていますか。

見ました!
 

ーーあの映画で「けっこうマニアックって言われるけどね、『ショーシャンクの空に』っていうのがめっちゃ泣ける」などと言う人に対して、菅田将暉が露骨にうんざりとするんですよね。また、彼はサブカルチャーのオタクだからこそ、有村架純と恋人になれたんですけど、その後には書店で自己啓発本を手に取っていて……この映画を見ているオタクである自分も、すごく悲しい気持ちになったんです。

分かります。

ーー「同じ趣味の本棚を見て意気投合してたじゃん! あの頃の君はどこ行ったの!」って。それはともかく、やはり個人の趣味や作品に対しての認識について嫌悪感を抱きすぎるのはよくないしですし、自分の趣味や好きなことへの思い入れについても過剰な考えになりすぎない方がいいと、学べる作品でもあると思うんです。

「2時間座って見るほどの映画ってなんだろう」という話題も

ーーあとは、映画の上映時間の2時間が耐えられないという人が、最近は増えてると聞きますね

私もけっこうそのタイプで、この前友達と「休みの日に映画でも見るか」と話していると、「2時間座って見るほどの映画ってなんだろう」という話題に発展したんです。「2時間見た結果、あんまり話が面白くなかったとしたら、もったいなく感じてしまうよね」「ドラマだったら、1話だけ見て、もう来週は見なくていいという選択もできるよね」と。

ーーそれはやはり「タイパ」を気にする若者ならではですね。でも、その気持ちも分からなくもないんです。単純な時間の長さももちろんですが、映画は演出や音響が映画館のスクリーンで鑑賞することを想定している一方、ドラマは(作品にもよりますが)集中力が切れないようにテンポ良く編集したり、キャッチーな演出をしていることもあります。映画館でならともかく、「家で映画を2時間も見られない」というのは、むしろ当たり前というか、「そういうふうに作っているものなんだから」とも思いますね。

家で見る、映画館で見る、という選択に関係なく、やっぱり自分も友達も、「2時間も座ったままで耐えられない」「2時間座って見るほどのものなのかな」という気持ちが先立ってしまうようで……。

ーーなるほど。個人的には、単純に時間の面を考えても、映画よりもドラマの方が見るハードルが高く感じたりするのですけどね。映画は2時間で終わるけれど、ドラマは十何話もかけていて、作品によっては何シーズンもあったりして、「全てを味わう」には映画の何倍も時間がかかるのですから。

また、映画は2時間でひとまず作品が完結するので、つまらなかったらつまらなかったで、その作品の評価や自分自身の中での咀嚼(そしゃく)ができますが、ドラマを途中でやめてしまうとそれもできません。それもまた人それぞれですし、やっぱり、そもそも映画とドラマで比べるものでもないのかもしれないですけどね。


それでも「2時間をかけて見た映画がつまらなかったらどうしよう」といった話は聞きますし、同意できるんです。

ーーうーん……では、漫画作品を持ち出して恐縮なのですが、『チェンソーマン』の5巻(第39話)では、マキマさんというキャラクターが「夜の十二時まで映画館で映画をハシゴして見まくることに付き合わせる」エピソードがあります。主人公のデンジはそれぞれの映画を微妙に感じて、「映画とかわかんないのかも」とこぼしたりもしますが、最後に見た、しかも世間では難解と評されている映画で大いに感動して「あのラスト絶対死ぬまで忘れないと思います」と口にしたりもするんです。
 
そして、マキマさんが「私も十本に一本くらいしか面白い映画には出会えないよ、でもその一本に人生を変えられた事があるんだ」と言っていたのが、映画ファンとしてすごくうれしかったです。

そこまで極端な割合ではなくていいのはもちろんですが、映画で2時間の時間をかけることも、つまらなく思ってしまうことも、それくらいは「普通」のことなんだと、ハードルを上げすぎなくていい、その上で一生大切にするほどの映画を見つけるくらいでいいと思うのですけどね。

【こちらもおすすめ:「倍速視聴とスキップ」「ながら見」をしてしまう理由は? 新卒社員の本音に、映画オタクが“ガチ回答”


この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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