「ママはオリエン聞いてあなたにピッタリの会社だと思ったわ、あそこに決めちゃいなさいよ」
そんな親子間の会話が当たり前の時代がやってきた。新卒採用市場で、内定者の保護者に企業側が確認の連絡を入れて承諾を得る「オヤカク」や、親を対象としたオリエンテーション「オヤオリ」が増えているというのだ。
売り手市場で増えた「オヤカク」実施企業
就職情報サイト「マイナビ」が2024年卒学生の保護者に調査をしたところ、なんと52.4%がオヤカクを受けたという。この背景には、少子化で人材獲得競争が激化して「売手市場」になっていることに加えて、就職や進路など何でも相談できる「仲の良い親子」が増えたこともあるそうだ。つまり、喉から手が出るほど、優秀な新卒がたくさん欲しい企業としては、彼らの会社選びの判断に強い影響を与える「親を味方につける」ということが大事になる。
という話を聞くと、「わが社も新卒採用を強化するため、保護者対策に力を入れるぞ」と思い立つ人事担当者も多いかもしれないが、企業危機管理の立場から言うと、これは全くおすすめできない。
仮にオヤカク、オヤオリによって就職希望者が増えるというメリットを享受しても、それをはるかに上回るさまざまな企業リスクが想定されるからだ。
仲良しだからこそ、何にでも口を出す親たち
その中でも最も可能性が高いと見られるのが、「毒ハラ」。つまり、「毒親によるハラスメント」だ。ご存じのない人のために説明をすると、「毒親」というのは、わが子を自分の所有物のように「支配」して、過干渉や過保護だけではなく、時に教育虐待や暴言、暴力、ネグレクトという子どもにとって「毒」をまき散らす親のこと。近年は「毒親と一緒にいて気が狂いそう」などと悩みをネットやSNSで発信する子どもが増えている。
「へえ、そんなヤバい親を持つと子どもは苦労するね」とどこか遠い世界のことのように感じるかもしれないが、実は「毒親」は思っていた以上に世にあふれている。
2022年にserendipityが3000人の父母に調査をしたところ、「もしかして自分は毒親なのかもしれない」との回答が3割近くあった。また、「子どものすることや交友関係、仕事などを把握・管理していたい」も1割ほどいる。自覚症状がある毒親だけでもこれだけいるということは、自覚症状のない毒親や「予備軍」も含めたらかなり存在しているということだ。
つまり、世間的には「何でも相談するほど仲が良い」という親子が、実のところは支配と従属の関係で「子どもの交友関係から仕事まで親が全て把握して、あれこれ口出しをしている」というパターンもかなり多いということだ。