ビジネスシーンで頻繁に使われている「イニシャルコスト」とは、簡単に言うと「新しいことを始める際にかかる費用」のことです。「ランニングコスト」との違いが分からないという人も少なくないようですが、言い間違えてしまうとまったく別の意味になるため注意が必要です。そこで本記事では、イニシャルコストとランニングコストの違いについて、現役フリーアナウンサーの酒井千佳が分かりやすく解説します。
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<目次>
・イニシャルコストの意味とは
・イニシャルコストとランニングコストの違いは?
・イニシャルコストの具体例
・ビジネスでイニシャルコストを抑えるメリットとデメリット
・イニシャルコストを抑える方法
・まとめ
イニシャルコストの意味とは
イニシャルコストは英語で表記すると「Initial cost」となります。「Initial」には「はじめの」「初期の」といった意味があり、「費用」という意味を持つ「cost」と組み合わせることで、「初期費用」や「導入費用」と訳されます。企業であれば、新しい事業を始めたり、新しいシステムを導入したりする場合、個人であれば、新しく習い事を始めたり、新築を建てたりする場合に、「はじめに一度だけ支払う費用」のことを指します。イニシャルコストとランニングコストの違いは?
イニシャルコストと似たことばに、「ランニングコスト」があります。ランニングコストは、英語で「Running cost」と表記されます。「running」には「走る」のほか、「運営する」「管理する」といった意味があり、「cost」と組み合わせることで、日本語では「運営費用」などと訳されています。つまり、運営や経営を行っていくうえで、継続的に必要となる費用のことで、例えば人件費やシステム利用料、光熱費、サブスクの契約料といった費用がランニングコストに含まれます。イニシャルコストの具体例
例えば、新しく事業を始めるとしましょう。まずはオフィスとなる物件を契約し、敷金と礼金を支払いますが、これがオフィスを構えるためのイニシャルコストとなります。そのほか、仕事を始めるための家具や機材の購入費用、ホームページの作成・立ち上げ費用といった大きなものから、仕事専用のスマホ購入費用、Wi-Fi設置費用、名刺作成費用といった細かいものまでさまざまなコストが発生しますが、それら全てがイニシャルコストに該当します。ビジネスでイニシャルコストを抑えるメリットとデメリット
ビジネスにおいて、何らかのアクションを起こす際にはイニシャルコストが欠かせません。しかし、場合によってはイニシャルコストを抑えなければならないケースもあります。こちらでは、イニシャルコストを抑えるメリットとデメリットについて、詳しく解説します。メリット
イニシャルコストを抑える最も大きなメリットは、利益を得るまでの期間を短縮できることです。基本的に、設備投資にお金をかけるほど、その分を回収するのに時間を要し、利益を出すまでに長い時間がかかってしまいます。例えば、初期費用100万円と500万円で比べると、前者の方がかなり早い段階で回収できることが分かるでしょう。あまりイニシャルコストをかけすぎると、事業を軌道に乗せることができず、やむなく撤退することになるケースも珍しくありません。また、実際に撤退せざるを得なくなった場合、イニシャルコストが少ない方が損失が少なく済みます。再スタートへの切り替えも、よりスピーディーに行えるでしょう。デメリット
イニシャルコストを抑えるデメリットは、その分ランニングコストが高騰する可能性が高いことです。一般的に、イニシャルコストとランニングコストは、片方を抑えると、もう片方がかさむという関係性にあります。つまり、イニシャルコストを抑えるほど、その後にかかるランニングコストが高くなるのです。例えば、初期費用の安いシステムを導入したものの、基本機能では満足できず毎月オプション料金が発生している、中古の空調設備を安く取り付けたものの、通常よりも電気代が高くつくといったケースです。新しく事業を始める際などは、トータルコストだけではなく、イニシャルコストとランニングコストのバランスを考えたうえで購入・導入を検討することを意識しましょう。
イニシャルコストを抑える方法
イニシャルコストを抑えるとランニングコストが上がることを先述しましたが、それでも新しいことを始める際にはできるだけ費用を抑えたいものです。こちらでは、イニシャルコストを教える方法を3つご紹介します。中古品を購入する
イニシャルコストを抑えるために最も手軽な手段が、中古品を購入することです。家電や通信機器などの場合、イニシャルコストを抑えると後々メンテナンスや修理などでランニングコストが高くなる可能性があります。一方で、例えば机や椅子といった家具類であれば、状態がよければ購入後も手をかけずに長く使うことが可能です。後悔しないためにも、中古品でも問題ないものかどうか、よく検討したうえで購入することが大切です。クラウドサービスを活用する
クラウドサービスを活用するというのも、イニシャルコストを抑える方法の1つです。従来はオンプレミスが一般的であったため、機器やパッケージの購入、サーバーの導入など環境整備に高額な費用がかかり、イニシャルコストが高くなるのが一般的でした。しかし、クラウドサービスであれば環境整備のためのイニシャルコストを大幅に抑えることができ、場合によってはイニシャルコストをほとんどかけずに運用を始めることも可能です。加えて、コストを抑えながら、常にアップデートされた最新技術や機能を利用できるというメリットもあります。サテライトオフィスの利用を検討する
イニシャルコストを抑えたいときは、サテライトオフィスの導入も検討してみましょう。サテライトオフィスは、本社とは別の場所に設置するオフィスのことで、必要最低限の設備で運用することから、イニシャルコストの削減につながります。サテライトオフィスには「専用型」と「共用型」の2タイプがあり、前者は自社専用として開設するオフィス、後者は複数の企業がシェアして使うオフィスです。後者の場合、賃料や環境整備にかかる費用が不要となり、よりイニシャルコストを抑える効果が期待できます。働き方改革とうたわれ、リモートワークやテレワークが増加する中、オフィス形態についても柔軟に検討していくことで、イニシャルコストだけでなくランニングコストまで削減できるでしょう。
まとめ
イニシャルコストとランニングコストの違いについて解説しました。イニシャルコストは新しく事業を始めるにあたって「はじめに一度だけ支払う費用」のことで、ランニングコストは、その後運営や経営を行っていくうえで「継続的に発生する費用」のことを指します。イニシャルコストを抑えると、早期に利益を得やすい、万が一撤退することになった場合に損失が小さいといったメリットがありますが、そればかり考えていると、後々ランニングコストが大きくなることがあるため、バランスを意識することが大切です。イニシャルコストはもちろん、トータルコストを抑えるためにも、クラウドサービスやサテライトオフィスの活用を検討してみましょう。■執筆者プロフィール 酒井 千佳(さかい ちか)
フリーキャスター、気象予報士、保育士。
京都大学 工学部建築学科卒業。北陸放送アナウンサー、テレビ大阪アナウンサーを経て2012年よりフリーキャスターに。NHK『おはよう日本』、フジテレビ『Live news it』、読売テレビ『ミヤネ屋』などで気象キャスターを務めた。現在は株式会社トウキト代表として陶芸の普及に努めているほか、2歳からの空の教室「そらり」を主宰、子どもの防災教育にも携わっている。