「港区女子」というビジネスキャリア 第2回

深刻な男女賃金格差から「港区活動」を“就職先”にする危険性。港区女子になれなかった女子大生の末路

SNSでたびたび炎上する港区女子たち。なぜ彼女たちは東京港区に集うのか。とある女子大生が港区女子になるまでを紹介する。

港区女子への志望動機には「深刻な男女賃金格差」も影響?
港区女子への志望動機には「深刻な男女賃金格差」も影響?

日本の男女間における賃金格差は、深刻である。厚生労働省が発表した「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、年齢階級別の賃金のピークは、男性が55~59歳で427万4000円、女性は50~54歳で285万9000円であり、男性に比べてその上昇率も低い。

さらに、経済協力開発機構(OECD)のデータによると、2022年の男女賃金格差はアメリカの17%、イギリスの14.5%と比較し、日本は21.3%。ほかの先進国と比較してもその差は大きく、さらに日本は、女性の正社員や管理職の割合が少ないこともたびたび問題視されている。

このような現状に触れる若い女性の中には、「自分自身で稼ぐ力を養うこと」ではなく、「若さを売りに養ってもらうこと」を目指してしまう人も多い。その1つの選択肢として「港区女子」が挙げられる。

「東京のおじさんすごい」“港区在住”に憧れた大学生

「私が港区で輝いていたのは、たったの半年間です。残ったのは、20代の貴重な時間を失った切なさと、狂ってしまった金銭感覚だけでした」

こう語るのは、カナさん(仮名/当時22歳)だ。彼女は大学進学とともに岡山県から上京し、人一倍東京に対する憧れがあった。

「高校生の時、テレビで『東京ラブストーリー』の再放送を見たんです。その時から『東京に行ったらこんな恋ができるんだ! 絶対上京したい!』って。女子校出身だったこともあり、大学に入るまで恋愛経験はありませんでした」

カナさんはトレンディドラマの影響で「東京での恋愛」に強い憧れがあった。しかし、なかなか恋愛対象になるような男性は現れず、大学2年生までは普通の大学生活を送っていた。彼女が突然港区に足を踏み入れたのは友人のこんな誘いがきっかけだった。

「かわいい友人に『三田でタワマンパーティーがあるんだけど行かない?』と誘われて」

誘われたのは、カナさんが大学3年生だった21歳のとき。興味本位でパーティーに参加したカナさんはきらびやかな空間に衝撃を受けたという。

「ゲストルームのようなタワマンの一室に、豪華な料理が並び、それを囲むようにしてシャンパングラスを持った男女がいました。女性の年齢は20~30代くらい。女性の中には、恋愛リアリティー番組の出演者など見たことのある顔もありました。男性は30代後半~50代くらいだったかな」

ここで港区の富裕層の男性、いわゆる“港区おじさん”の存在に初めて触れたカナさん。そこで17歳年上のトシヒデさん(仮名/当時39歳)と出会う。

「トシヒデは私を見るなり『かわいいね。付き合いたいわ』と言ってきて。その時は17歳年上の男性と恋愛なんてありえない!と思っていたのですが……」

当初、しぶしぶ連絡先を交換したというカナさん。トシヒデさんからの猛アプローチに耐えかねて、一度だけ食事をしたという。

「初めての食事で、絶対に大学生のアルバイト代ではいけないような高級レストランに連れて行ってもらったんです。その後も何度かデートをするようになって。銀座や六本木でのショッピングでは、高級バッグを買ってもらったりして。ある時彼に『付き合おう』と言われて、付き合うことにしました」

当初、「17歳年上の男性との恋愛なんてありえない」と思っていたカナさんだが、同性代の男性とは決して味わえないぜいたくな日々をくれるトシヒデさんにどんどん惹かれていった。

しかし、幸せな日々は続かなかった。

残ったのは、20代の貴重な時間を失った切なさと、狂ってしまった金銭感覚

「3カ月ほど付き合ったとき、トシヒデの浮気が分かったんです。その相手は、なんとタワマンパーティーに私を誘ってくれた友人でした」

カナさんは、友人にトシヒデさんと付き合っていることは伝えていなかったという。理由は「同世代に、金目当てで付き合っているヤバい女だと思われたくなかった」からだそうだ。

「ショックでした。この浮気をきっかけに、私はトシヒデの部屋にずっと入り浸るようになったんです。大学もさぼるようになって。その間、父から心配の電話が入りました。『野菜送ったけどずっと不在。どうした?』って。私、東京に何しに来たんだろう……ってその時思いましたね」

親からの連絡をきっかけに、カナさんはトシヒデさんと別れることを考えるようになった。

「父の話をして、トシヒデに『別れよう』って言ったんです。そしたらあっさり『分かった』と言われて。『え!? それだけ?』って思いました。少しは引き留めてくれるかもって期待してたんです。でも、引き留めてくれなかった」

こうして2人は別れることに。交際期間はたった半年だった。しかし、港区おじさんと半年間付き合った代償は大きかったという。

「残ったのは、20代の貴重な時間を失った切なさと、狂ってしまった金銭感覚だけでした。普通の感覚に戻るまでに時間がかかりました」

ちなみにトシヒデさんはその後、浮気相手だったカナさんの友人と付き合ったようだ。しかし、長続きせずに破局。現在カナさんの友人は、トシヒデさんよりさらに年上の別の男性と結婚し、夫の資金援助を経て、港区でネイルサロンを開業しているという。

富裕層男性を利用して“のし上がる”女性も

カナさんのように、半年で港区を去る女性もいる一方、港区で夢をつかむ女性もいる。

カナさんいわく、トシヒデさんの浮気相手だったカナさんの友人は、富裕層男性を利用して“のし上がる”タイプだったという。「友人は、私(カナさん)と違って決して恋愛に溺れるタイプではなく、自分ファーストだった」と語る。彼女は夢だったネイルサロン経営を20代でかなえている。

また、「昼は不動産営業、夜はラウンジで働き、自身の夢だったバーをオープンした」という30代の港区女子も。彼女は昼は会社員として働き、夜は港区のラウンジで働きながら、援助してくれるパトロンを見つけた。

港区おじさんと付き合っている自分に価値があると思った

カナさんは「六本木のタワマンに住んでる彼氏がいる自分にすごい価値があると思った」と当時を振り返る。

元来、港区女子とは、男性と同等に稼ぐ女性という意味合いもあった。しかしSNSの炎上などの影響で、現在は港区女子=富裕層の男性に依存して生きる女性のイメージが強くなっている。

カナさんもまた、港区女子を自称していたものの、“港区在住の女子”ではなく、港区在住の男性の部屋に入り浸るだけだった。世間をさわがせる多くの港区女子は、実際には港区在住ではなく、夜な夜な港区に集う女性であることが多い。

「港区で夢をかなえられるのは、ごくわずかの女性だと思います」

カナさんは大学時代をこう振り返る。上京してきた若い女性たちにとって、東京港区は憧れの場だ。そこで夢をつかむケースもあれば、港区におぼれ、貴重な若い時間を失ってしまうカナさんのようなケースも多い。港区女子でいられる時間はたった数年。その後彼女たちは何を思うのか。
 
この記事の筆者:毒島 サチコ プロフィール
ライター・インタビュアー。緻密な当事者インタビューや体験談、その背景にひそむ社会問題などを切り口に、複数のWebメディアやファッション誌でコラム、リポート、インタビュー、エッセイ記事などを担当。
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