露骨な「二重価格」に賛否の声
4月26日には約34年ぶりに円安水準が更新されるなど、猛烈な円安のあおりを受けて日本の一般庶民にはなかなか手が出ない価格帯の商品やサービスが急増していることから、「日本でもローカル価格とインバウンド価格を分けるべきだ」「いや、露骨な差別は避けた方がよい」などの議論が白熱しているようです。二重価格賛成派は、
「貧しい国では当たり前」
「需要供給の法則。自由主義の経済活動では当然のこと」
「これがOMOTENASHIってやつだね!」
「稼げるときに稼いでおかないと」
など、おおむね合理的・現実的な考えが多く、反対派は、
「火事場泥棒的な発想」
「国別料金なんてとんでもない! 日本人はそんなしょぼい商売をすべきでない」
「そんなことをしていると、いずれ衰退して国が潰れる」
「下品」
といった日本人の矜持(きょうじ)について述べた意見が多いように感じます。
海外で実施される住民ファースト制度
飲食店とは少し状況が違いますが、イギリスやアメリカの大学では居住者と外国人留学生とでは授業料が雲泥の差ですし、筆者がかつて住んでいたオーストリアでも、ウィーン在住者のみ市内の公共交通機関が年間365ユーロで乗り放題(実質1日1ユーロ)というシステムがありました。その他にもタイのワット・ポー(涅槃寺)では現地人の拝観料は無料ですし、エジプトの世界遺産として有名なギザの三大ピラミッドはアラブ人と観光客では入場料が違います。
他国では現地住民の優遇制度が実施されているのですから、こちらも2023年の「ジャパン・レール・パス」値上げのように外国人価格を適正に引き上げたり、外国人留学生よりも日本人学生の奨学金を手厚くするなど、妥当な自国民ファーストの措置やサービスであれば積極的に打ち出して良いと思います。
二重価格とぼったくりの難しい線引き
ただし、どこまでが妥当で適正な二重価格なのかは、線引きが難しい面もありそうです。というのも先日、個人的に少々思うことがありました。次回の帰国時に久しぶりの和食を堪能したく、京都のとある料亭に予約電話を入れたところ、
「お客様、失礼ですが海外からのお電話ですか?」
(なぜ分かったんだろう?)
「海外在住の方は、ネット予約のみ承っております。日本語ではなく、英語もしくは中国語サイトをご覧ください」
(日本人なのになぁ……)
「海外からのお客様はノーショウが多く、料理のお素材が無駄になったことが度々ございましたので、ご予約はネットからお願いします」
(日本人でも信用してもらえないのか……)
と返され、仕方なくWebサイトをのぞくと、日本語メニューには載っている最もお得なコースが英語サイトに記載すらなく、その他の懐石コースも1人あたり8000円もの予約料金が追加チャージされるとのこと。
なぜか中国語サイトよりもさらに割高の値段設定であることから、英語サイト閲覧者の方が中華系よりもぼったくり対象らしく、二重価格ならぬまさかの三重価格でした。
正真正銘の日本人が問答無用の外国人枠に
京都の典型的な塩対応の一例とも言えますし、料亭側の事情も斟酌(しんしゃく)できますが、正真正銘の日本人でも問答無用で外国人枠に放りこまれ、露骨なインバウンドプライスを突き付けられると、さすがにこちらも心中複雑。結果的に二重価格設定がなく、おもてなしの真心が感じられる他の料亭を予約することに。あからさまな二重価格を見て気分の良い人は珍しいでしょうし、日本にお金を運んできてくれる外国人客にそっぽを向かれては元も子もないので、インバウンドプライスや二重価格を設定するなら首尾よくやった方が良さそうですね。
この記事の筆者:ライジンガー 真樹
元CAのスイス在住ライター。日本人にとっては不可思議に映る外国人の言動や、海外から見ると実は面白い国ニッポンにフォーカスしたカルチャーショック解説を中心に執筆。All About「オーストリア」ガイド。