連載「鉄道雑学ニュース」
乗り物の域にとどまらず、見ても、撮っても、もちろん乗っても面白い鉄道の世界。知れば知るほど奥が深くて面白い鉄道に関する最新情報&雑学を、「All About」の鉄道ガイドで旅行作家の野田隆が自ら撮影した駅舎や車両画像とともに分かりやすく解説する。
レトロな小湊鐵道によく似合うレトロなキハ40形
小湊鐵道の始発駅はJR内房線に隣接する五井駅。この駅には総武線から直通する快速電車が停車するのでアクセスは良好。東京駅から乗り換えなしで67分と日帰りで訪れるには手頃な距離である。五井駅の内房線ホームから改札階に上がると、小湊鐵道への乗り換え口があり、簡易Suica改札機にSuicaをタッチして小湊鐵道専用の改札口に向かう。なお、小湊鐵道ではICカードは一切使えないので、紙のきっぷを購入する。今回は、終点の上総中野駅まで往復するので、おトクな1日フリー乗車券(大人1人2000円)を買い求めた。なお、キハ40形観光急行列車は全席指定なので、あらかじめ席を予約(1人600円)、データはスマートフォンに入っていて車内でアテンダントに予約画面を提示するだけ。発券は不要だ。
有人改札でフリー乗車券に入鋏(にゅうきょう)印を押してもらいホームへ。エレベータもエスカレータもないので階段を降りていく。ホーム脇には車両基地(五井機関区)が広がっているが、小湊鐵道は非電化で架線が張られていないので、見上げると遮るものがなく空が広々としている。
車両基地では、かつて只見線(JR東日本)で活躍していた時の塗装(窓下が緑系ツートン)のままのキハ40形がアイドリングしていた。予約した時点ではガラガラだったので、この日は単行(1両のみ)での運転なのかな? と思っていたら、その陰から朱色一色(通称タラコ色)に塗られたキハ40形2両編成が「さと山」のヘッドマークをりりしく掲げて姿を現した。いったん、北の方に延びている引き上げ線に進み、まもなく方向転換してホームに横付けとなった。 車内は、国鉄からJRにかけて働いていた時のままの姿だ。ドア付近が窓を背にしたロングシートになっている以外は、4人向かい合わせのクロスシートで、旅気分が味わえる。従来、小湊鐵道で走っている車両(キハ200形)はオールロングシートで旅情を味わうには不向きだっただけに、これはうれしい。
もっとも、トイレは閉鎖されている。小湊鐵道の車両基地には汚物処理装置が完備されていないためだ。トイレに関しては、駅施設をご利用くださいとの注意書きがある。
あらかじめ、予約しておいた席につく。予約サイトでは、窓側、通路側のみならず、進行方向、進行方向とは逆向きなど細かく指定できるようシートマップが図示され、間違えることのないよう列車の進行方向まで明示されているのは親切だ。早々と予約した人が少なかったせいか、余裕で進行方向窓側を指定できた。発車時刻が近づいてきたものの、2人連れ以外は、ボックス席が相席になることはなく、私のボックスも独占状態だった。学校が春休みに入る前の平日だったせいだろう。ちなみに、4月に入ると、平日でもすでに満席の日があるようだ。
キハ40形観光急行列車の旅
定時に発車。旧国鉄時代のディーゼルカーではおなじみだった「アルプスの牧場」のメロディーが流れる。JR内房線と分かれ、大きく左にカーブし、住宅街を抜けるとあっという間に車窓には田園風景が広がる。東京駅から1時間ほどで、このようなのどかな風景に出会えるとは奇跡のようだ。
車内では各駅の駅名の由来や沿線の見どころなど丁寧な放送による案内があるものの、エンジン音がことのほか大きく聴きづらい。とはいえ、五井駅まで乗ってきたJR内房線とは打って変わってがたんごとんという昔懐かしい走行音や程よい揺れがノスタルジックな昭和の「汽車旅」の雰囲気を醸し出し心地よい。
急行列車とはいうものの、通過駅ではドアは開かないけれどいったん停車し、ゆっくりと動き出す。信号システムや踏切などの保安装置によるものだろうが、特に急ぐ旅ではないので気になることはない。
6つの駅を通過して最初の停車駅・上総牛久に到着。列車ダイヤを見ると、各駅停車の所要時間とほぼ同じだった。ここで30分停車。時間がたっぷりあるので、ほとんどの乗客はホームに降りて列車の外観を撮影したり、駅前を散策したりと思い思いの自由時間を過ごす。車内のトイレが使えないので、駅のトイレで用を足す人も少なからずいる。 ちょっと退屈しかけた頃に、構内にある踏切の警報音がなる。五井行きの上り列車が到着。向こうもキハ40形の2両編成だった。同じ車両に急行料金なしで乗れると知るとちょっと悔しいが、かなり混んでいて窮屈そうだし、長い停車時間もないので、単なる移動手段になっている。ゆったりと列車旅が楽しめるので、まあいいかなと思う。同じキハ40形でも塗装が異なるのが興味深い。 30分もの停車時間が終わり運転再開。発車に先立ち、駅員がタブレットキャリアを運転士に渡す。この先は運転本数も少なくなるほどの過疎地域でもあり、運転方式も自動閉塞ではなく、昔ながらのシステムが生きている。それに反比例するかのように車窓は鄙(ひな)びて見ごたえがある。