ここがヘンだよ、ニッポン企業 第25回

使ってしまった残念ワード…資生堂の「人財変革」宣言にブラック臭が漂ってしまうワケ

国内事業で苦戦中の資生堂ジャパンが発表した新経営改革プランの柱の1つ、「人財変革」にモヤモヤとした気持ちを覚える人もいるのではないだろうか。その理由を解説しよう。

昭和なブラック企業が使う言葉、それが「人財」

経営者によっては好んでよく用いる言葉だが、実はネットやSNSでは「ブラック企業によく見られる特徴」として指摘されることが多い。そもそもこの言葉が生まれたのが、ワークライフバランスなんて概念が存在しない高度経済成長期のブラック社会ということもあって、「昭和を引きずるヤバい会社」を見抜くチェックポイントの1つとされているのだ。
 
もちろん、広い世の中だ。「人財」を用いているホワイト企業も山ほどある。しかし、報道対策アドバイザーとして、さまざまな企業経営者と話をする機会が多い立場で言わせていただくと、この指摘はそれほど的外れではない。
 
例えば昔、一部で「カリスマ経営者」としてもてはやされた社長のスピーチライターをしたことがある。彼はセミナーや会社説明会で好んで「人財」を使っていた。私も「人材」との違いについてずいぶんご高説を賜った。しかし、それからほどなくしてこの社長は、従業員に対して暴言を吐いていたことなどが明らかになり、低賃金労働も問題視されて「ブラック企業」としてネットでボロカスに叩かれた。
 
こういう「人財とかきれい事を言っておきながら実際は社員を大事にしていない経営者」は意外と少なくないのだ。

社員は自社ビルと同じ、会社の資産 

では、なぜそうなってしまうのか。彼らの考えや経営理念などをヒアリングしていくうちに私なりの結論に至った。それは彼らは何も間違ったことをしておらず、「人財」という言葉通りの振る舞いをしているだけということだ。
 
「人財」を掲げる経営者は「社員は会社の財産であり宝なので厚遇している」というようなことをおっしゃるので、社員を人として大事に扱っているような錯覚を受けるが、実はよくよく聞けば「社員=会社の資産」と考えている。
 
資産なので価値の最大化を目指していくために、手厚い福利厚生や教育研修制度を設けるのは当然だ。しかし一方で、経営が悪化したり、現場が思うような結果を出さなくなってしまうとバッサリとクビを切る。「会社の資産」なのだから投資に見合うリターンが得られず、所有しているメリットがなくなれば、不動産や自社ビルを売却するようにちゅうちょなく処分をするのは当たり前だろう。
 
つまり、「社員は人財」を掲げる経営者が社員を軽視するような傲慢(ごうまん)な振る舞いをしたり、ブラック企業的になってしまうのは、「社員は資産」という思いが強すぎるため、「自由意志をもつ1人の人間」として見ることができなかった結果、非人間的な扱いをしてしまうのだ。
 
こういう考え方は「人財」という言葉が誕生した高度経済成長期では当たり前だった。しかし、令和の時代にはフィットしない。それどころか多くの労働者のモチベーションを下げて、会社へのロイヤリティを大きく低下させてしまう。
 
「ミライシフトNIPPON 2025」とおっしゃるのなら、まずは「高度経済成長期の価値観」からシフトすることから始めたらいかがだろうか。
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この記事の筆者:窪田 順生
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経てノンフィクションライター。また、報道対策アドバイザーとしても、これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行っている。
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