相手から何らかの手助けを受けたり、気遣いの言葉をもらったりしたときに、「おかげさまで」というフレーズを添えて感謝を伝えたことがあるかもしれません。シーンを問わず、コミュニケーションの場ではしばしば耳にする言葉ですが、目上の人に使える正しい敬語なのでしょうか。今回は、「おかげさまで」の意味や正しい使い方、ビジネスで使える言い換え表現について、現役フリーアナウンサーの酒井千佳が解説します。
<目次>
・そもそも「おかげさまで」の意味
・「おかげさまで」は上司・目上の人に使ってもOK
・「おかげさまで」の正しい使い方と例文
・ビジネスで使える「おかげさまで」の言い換え表現
・「おかげさまで」を使うときの注意点
・まとめ
そもそも「おかげさまで」の意味
「おかげさまで」は、相手から受けた厚意や親切に対して、感謝の気持ちを表す言葉です。「おかげ」という言葉に「さま」をつけ、より丁寧な表現にしたものです。語源となった「おかげ」には、以下のような意味があります。【「おかげ」の意味】
(1)神仏の助け、加護。
(2)人から受けた恩恵、力添え。あるいは、ある人や物事によってもたらされた結果、影響。
「おかげさまで」は上司・目上の人に使ってもOK
「おかげさまで」には丁寧なニュアンスが込められているため、上司や目上の相手へ用いることは適切だと言えます。また、特定の個人に対する感謝を述べるときだけでなく、取引先や顧客など、相手を問わず幅広く用いることができます。
「おかげさまで」の正しい使い方と例文
「おかげさまで」は、仕事上の細かなアドバイスから、大きなプロジェクトのサポートまで、規模の大小や協力の程度にかかわらず、さまざまなシーンで使われます。感謝を伝えるときの定型表現という側面もありますので、その「協力」の内容が明確になっていなくても問題なく使用できます。
ここからは、「おかげさまで」の2つの使い方を、例文を交えてご紹介します。
・直接的に感謝を伝える場合
もっとも使用されるシーンが多いのは、「相手から直接的に支援や協力を受けた」ことへの感謝を伝える場面です。自分の実力や頑張りだけで得られた成果ではなく、上司や同僚をはじめとした関係者のサポートがあってこそ達成できたものだ、ということを強調できるでしょう。
【例文】「おかげさまで、プロジェクトは予定通り進んでおります」
「おかげさまで、新規の契約をとることができました」
「おかげさまで、無事試験をパスしました」
・間接的に感謝を伝える場合
もう1つの使い方は、「内容は必ずしも明確ではないものの、問題解決や目標達成のために相手から協力や応援を受けた」ことへの感謝を伝える場合です。特定の個人に対してだけでなく、関係する全ての人に対し、幅広く謝意を示すときにも使うことができます。
また、仕事に関する話題に限らず、近況や体調を聞かれたときなどにも、「お気遣いいただきありがとうございます」というニュアンスで「おかげさまで」を添えることがあります。
【例文】「おかげさまで、セミナーは大盛況のうちに終了しました」
「おかげさまで、当館はオープン20周年を迎えることができました」
「おかげさまで、快方に向かっておりまもなく退院する予定です」
ビジネスで使える「おかげさまで」の言い換え表現
ビジネスにおいて、お世話になった相手へ感謝を伝えるべきシーンは少なくありません。続いては、「おかげさまで」に近い意味を持つフレーズや言い換え表現をご紹介します。・お力添えがあってこそ
「お力添えがあってこそ」は、「助力」や「援助」を意味する「力添え」から派生した表現で、「相手がサポートや支援をしてくれたからこそ」というニュアンスがあります。「◯◯様のお力添えがあってこそ、△△できました」と、感謝を述べるべき相手と、それによって成し得た結果を明確にして使うことが一般的です。
・おかげをもちまして
「おかげをもちまして」は、「おかげさまで」をより丁寧にした言い回しで、ほぼ同じ意味で用いることができます。ただし、「もちまして」は、「おかげさまで」の「で」に相当する助詞で、元の表現は「以て(もって)」です。本来は、「以て」を「もちまして」とすることはできないため、厳密には誤った言い回しですが、「おかげをもちまして」も広く使われています。フォーマルな場では、「おかげをもちまして」ではなく「おかげさまをもって」とするほうが望ましいでしょう。
・ありがたいことに
「ありがたいことに」は、間接的な関わりへの感謝を示す「おかげさまで」の言い換えに適した表現です。例えば、「ありがたいことに、多くのお客さまから好評の声をいただいています」のように、良好な結果が得られたことや、恵まれた環境にあることについて、広く感謝を述べたいときに使えるでしょう。
・ご支援
「ご支援」は、「支え助けること」を表す「支援」に尊敬の意味を持たせた言葉です。直接的、間接的な関与を問わず、何らかのサポートを受けたことへの謝意を伝えることができます。また、「皆さまのご支援のおかげで、クラウドファンディングの目標金額を達成できました」など、物品や金銭を受け取ったことに対しても使われます。
・お引き立て
「お引き立て」は、「特別に目をかけ、ひいきにする」ことを表します。なじみの顧客や、長く付き合いのある取引先へのあいさつに用いる感謝のフレーズです。ビジネス文書では、「平素は格別のお引き立てを賜り、誠にありがとうございます」というあいさつがよく使われます。間接的な感謝を伝える「おかげさまで」に近いニュアンスがあるでしょう。
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「おかげさまで」を使うときの注意点
最後に、「おかげさまで」を使う際の注意点を押さえておきましょう。・文頭で用いる
「おかげさまで」は、必ず文章のはじめに用います。「先輩のアドバイスのおかげさまで」のような言い回しは誤りです。この場合は、「先輩のアドバイスのおかげで」とし、「さま」は省略しましょう。
・ポジティブな内容にのみ使用する
「おかげさまで」は、「相手の力添えがあったことで、良い結果を得られた」という文脈で用います。感謝を伝えるフレーズですので、原則としてネガティブな内容に使うことはありません。ただし、「おかげさまで残業だったよ」のように、皮肉やいやみを伝えるためにあえて用いる場合もあります。
ちょっとした愚痴として、友人などの第三者に対して使う分には問題ないかもしれませんが、直接本人へ伝えてしまうと「あなたのせいで残業させられた」という意味で解釈される可能性があります。相手が不快な思いをしたり、傷ついたりしてしまう可能性がありますので、マイナスの意味で使わないよう注意しましょう。
まとめ
「おかげさまで」は、お世話になった相手への感謝を伝えるフレーズで、目上の人にも問題なく使うことができます。「おかげさまで」の一言を添えることで、相手によい印象を持ってもらうことができれば、コミュニケーションの円滑化や良好な人間関係の構築にもつながるでしょう。■執筆者プロフィール 酒井 千佳(さかい ちか)
フリーキャスター、気象予報士、保育士。
京都大学 工学部建築学科卒業。北陸放送アナウンサー、テレビ大阪アナウンサーを経て2012年よりフリーキャスターに。NHK「おはよう日本」、フジテレビ「Live news it」、読売テレビ「ミヤネ屋」などで気象キャスターを務めた。現在は株式会社トウキト代表として陶芸の普及に努めているほか、2歳からの空の教室「そらり」を主宰、子どもの防災教育にも携わっている。