「シンギュラリティ」という言葉をご存じでしょうか。AIや人工知能に関する少し専門的な言葉ですが、実は全ての人に深い関係がある事柄です。現在は第3次AIブームと呼ばれており、さまざまな技術が急速に進化しています。
今回は、シンギュラリティの言葉の意味や概念、AIの進化によって社会に起こる変化についてフリーアナウンサーの新保友映が解説します。
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<目次>
・シンギュラリティ(技術的特異点)の意味とは?
・シンギュラリティはいつ起こる? 「2045年問題」
・シンギュラリティが社会に与える影響
・シンギュラリティ肯定派の意見
・シンギュラリティ否定派の意見
・シンギュラリティとAIの歴史
・まとめ
シンギュラリティ(技術的特異点)の意味とは?
「シンギュラリティ」とは、英語の「singularity」のことで「特異点」と訳します。ごく簡単に言うと、人工知能(AI)が人間を超える可能性がある境目(転換点)を表しています。具体的にどの時点が転換点になるか、決まっているわけではありません。しかし、将来的に人工知能の思考がより高度になることはほぼ確実で、人間の知能を超えるAIが生まれる未来が来ると予測している概念のことを指しています。【例文】「シンギュラリティによって雇用が失われる可能性がある」
この例文を簡単な言葉にすると「人工知能の技術進化によって、仕事がなくなる」という意味合いになります。
シンギュラリティはいつ起こる? 「2045年問題」
人工知能分野の研究において権威を持つ、レイ・カーツワイル氏が提唱しているのが「2045年問題」です。人工知能は日々、学習を続けており「2045年にはAIが人間に追いつくかもしれない」という予測が立てられています。なお、この予測が立てられた背景には「ムーアの法則」と「収穫加速の法則」の2つが関係しているといわれています。・ムーアの法則
1965年に発表された「ムーアの法則」は、インテルの共同創業者であるゴードン・ムーア氏が提唱したものです。ムーアの法則では「半導体の性能が18カ月で2倍になる」とされています。半導体は人工知能に欠かせないものであり、性能の向上率はシンギュラリティに深く関わります。
・収穫加速の法則
「収穫加速の法則」とは、技術が指数関数的に増加することを表しています。指数関数的な増加とは、基準となる値に応じて飛躍的に成長することです。人工知能に関わるさまざまな技術も、かけ算的に進化していくことが考えられます。関わる技術の成長速度が速いほど、シンギュラリティの到達も現実的になるでしょう。
シンギュラリティが社会に与える影響
シンギュラリティが社会に与える影響について解説します。・【ビジネス】仕事が人工知能に代替。失業や新たな職業創出も
今後、多くの仕事に関わる技術は、AIやロボットでも実現可能になるでしょう。2025~2035年には日本の労働人口のうち約49%の人の仕事が、人工知能に代替されると予測されています。人工知能の発達によって人間の仕事がAIに奪われてしまうと、失業者が増えるおそれがあります。
参考:オックスフォード大学と野村総合研究所の共同研究
・【社会制度】ベーシックインカムの導入
シンギュラリティの影響によって、ベーシックインカムの導入がより現実的になるかもしれません。人工知能の発達で人間の仕事が奪われてしまうことは、格差社会に拍車をかけます。仕事を失ってしまい生活できなくなくなる人をフォローするため、給付金制度(ベーシックインカム)が整えられると予測されています。
・【人間の身体】脳や臓器を人工物で代替
人工知能分野の発展は、人間の身体をサポートする役目を担う可能性もあります。例えば、病気になってしまった脳や臓器を、人工物(機械)に置き換えるという治療が可能になるかもしれません。
シンギュラリティ肯定派の意見
シンギュラリティは現時点ではあくまで予測に基づいた概念であり、今後どのような経過をたどるのかは誰にも分かりません。ここでは、肯定派の意見を紹介します。・ヒューゴ デ ガリス氏
人工知能研究者であるヒューゴ・デ・ガリス氏は、論文で以下のように述べています。
「今世紀後半に人工知能は、人類の1兆倍の1兆倍の知能になる可能性がある。人工知性の開発に成功すれば、さらに、人類の1兆倍の1兆倍の1兆倍の能力を持つことになります」
・スティーブン ホーキング氏
物理学者のスティーブン・ホーキング氏は、以下のような意見を持っています。
「AI自身が、自分の能力で開発を続ければ、人間が追い越される」
「完全な人工知能の開発は、人類の終焉(しゅうえん)を意味する可能性がある」
・孫正義氏
ソフトバンクの創業者である、孫正義氏は以下のような意見を持っています。
「シンギュラリティは人類史上最大の『ビッグバン』と言える」
「AIの知能が人間を超えたとき、人間の50倍のIQになるかもしれない」
シンギュラリティ否定派の意見
多くの肯定派の意見があるなかで、シンギュラリティが到達しないと主張している有識者も存在します。・ジェリー カプラン氏
人工知能研究の権威である、大学教授のジェリー・カプラン氏は以下のような意見を持っています。
「人工知能が進化しても、人間とまったく同じ思考にすることはできない」
「AI自体は良い技術なので、脅えるのではなく、有効に活用する方法を考えたほうがよい」
シンギュラリティとAIの歴史
2045年に向けてさまざまな問題が提起されていますが、ここではこれまでのAIの歴史を振り返ってみましょう。・第1次AIブーム:1950~1970年代
AIという言葉が誕生したのは、1956年の「ダートマス会議」だといわれています。AIや人工知能、といった概念が知れ渡ったのがこの年代です。この時代のAIの特徴は以下です。
・知識の処理ができる
・決められたルールのなかで推論や探索ができる
・第2次AIブーム:1980年代
1970年頃に第1次AIブームが去ります。そして10年ほどが経過した1980年頃に、再びAIが注目を集めることになるのです。第2次AIブームでは、以下のような進化を遂げます。
・知識の活用ができる
・条件を与えることで専門家のような役割を担えるようになった
・医療・金融・会計など多種多様な分野に導入されるようになった
・第3次AIブーム:現代
2000年代以降から現在までが、第3次AIブームと呼ばれています。現代におけるAIの特徴は以下のとおりです。
・ビッグデータを用いた機械学習ができるようになった
・ディープラーニング(深層学習)が実用化された
ディープラーニングとは、人間の脳の神経回路を再現した多層化ネットワークのことです。
AI自身が各層にある大量の情報データを分析することで、判断や処理を行います。機械学習やディープラーニングは、シンギュラリティの到達に深く関係する技術だと言えるでしょう。
まとめ
日々何げなく使っている多くのシステムは、AIや人工知能の力を使っています。専門家以外の人にとってはやや複雑な内容も多いですが、AIとの共存はすでに避けられません。シンギュラリティの到来は目前だといわれているため、社会に起こる変化について、注意深く見守っていく必要があるでしょう。■執筆者プロフィール 新保 友映(しんぼ ともえ)
山口県岩国市出身。青山学院大学卒業後、2003年にアナウンサーとしてニッポン放送に入社。「オールナイトニッポンGOLD」のパーソナリティをはじめ、「ニッポン放送ショウアップナイター」やニュース情報番組、音楽番組など担当。2018年ニッポン放送退社後はフリーアナウンサーとして、ラジオにとどまらず、各種司会、トークショーMC、YouTube、Podcast、話し方講師など幅広く活動。科学でいじめのない世界をつくる「BE A HEROプロジェクト」特任研究員として、子どもたちの授業や大人向け講座の講師も担当している。