先生が先生を探して奔走!? 教頭の担任兼任で教員が足りている学校に
「1月から産休の予定なんだけれど、まだ代替の先生が見つかっていないみたいで……」これは12月に聞いた神奈川県のある先生の声だ。教育委員会も管理職も八方手を尽くして連絡をしているが、見つからないという。彼女自身も退職した同僚に連絡をしてみたものの、学校現場に戻る気はないということだった。この産休代替教員の不足は、全国的に起きている問題なのだろうか。
学校の働き方改革を支援する「先生の幸せ研究所」の澤田真由美さんはこう語る。
「全国的に危機的な状況です。教育委員会は、人材バンクや講師名簿を持っていて片っ端から電話をかけていますし、退職教員など名簿に載っていない人にも連絡をしています。他の自治体で講師をしている先生に電話をして、『何曜日が空いているんだったら、その日だけでも来てくださいませんか』と依頼しているケースもあります。学校での教員不足は教育委員会が手を抜いているといった、そういうレベルの話ではありません」
教育委員会経由では、代わりの先生が見つからないことも少なくないと聞く。その場合はどうしているのだろうか。
「先生たちも知り合いに連絡したり、SNSで募集をかけたりと人材探しに奔走しています。しかし、そんなことが先生の本来の仕事なのでしょうか。もし代替の先生が見つからなければ、教頭が担任を兼任し、自身の既存業務と担任業務をダブルで担うこともめずらしくありません」
しかも、「教頭が代替して、なんとかやりくりしながら、どうにかぎりぎりで保てている場合は『教員が足りている学校』にカウントされてしまうんです」と澤田さんは続ける。
調査では全国の公立学校の教員不足の実態として、2558人、1897校が欠員であるといわれている。しかし、実際はそれ以上に厳しい現実があるということだ。
過労死ラインで勤務する教員。ギリギリ状態で起きうるリスク
2023年4月、文部科学省から「令和4年度の教員勤務実態調査の集計結果」が発表された。前回調査と比較し、過労死ラインとされる月80時間超の残業に相当する「週60時間以上」の在校時間の教員の割合は、小学校で前回比約19ポイント減少し14.2%、中学校では約21ポイント減少の36.6%となった。
いまだこれだけの教員が過労死ラインで勤務している実態は憂慮すべきだが、学校における働き方改革の一定の効果は出てきているとはいえそうだ。
とはいえ、安心できる状況ではない。月の時間外在校時間は、小学校において約41時間、中学校では約58時間にのぼる。国が定める「月45時間以内」の上限を、中学校では上回る結果となっている。ちなみに、「教員給与特別措置法」(給特法)により、公立学校の教員には残業代が支払われないという定めもある。
加えて、2021年の学校教員統計調査では、精神疾患を理由に離職した公立小中高校の教員は953人と、過去最多となった。
「新型コロナウイルスが蔓延していたタイミングでは、ただでさえ教員不足だったところに、さらに追い討ちをかける厳しい状況が生まれていました」と澤田さんは言う。
「1人の担任の先生が、隣のクラスも、またその隣のクラスも見なければならない状態になっていると聞いたことがあります。ベテランの先生が『教員になって以降、最も大きな危機に直面しています』と語っていたのが印象的でした」
教員の人数がギリギリの状態にあれば、今後もこのようなリスクは起こりうる。
「人にもよりますが、教職と子育てを両立できずに辞めていく方もいます。また、せっかく教職に就いたのに1年未満で去っていく先生もいます。学校が魅力のある働きやすい場所にならない限り、この状況は打破できません」
子どもの自立が生む好循環な学級経営が教員の「働き方改革」につながる
教員採用試験の倍率は年々下がり、小学校に至っては2倍台が続いている。学校を魅力ある職場にしていくためには、どのような見直しが必要なのだろうか。「子どもたちを“自立”させていくということが、すごく重要なキーワードです。校内の信頼も得つつ超人的に校外でも活発に活動している先生がいらっしゃいますが、そうした方は自分が出張でいなくてもスムーズに回るように学級経営を上手になさっているんです。“あるべき教員像”に縛られていると、前例踏襲し続けてパンパンに膨れ上がった業務を手放せません。子どもが自立するための場が学校です。大人がいなくても自己決定してクラスを作っていけるような子どもたちに育てていくことが目標のはずです。そのためにも、大人がやり過ぎていることを上手に手放していくことが重要なのです」
「先生が手厚い指導をしていると、子どもはその隙間でしか主体性を発揮できません。そこで、これまで行ってきた指導を、段階的に手放していきます。例えば、プリントをたくさん作って頑張って教え込んでいたのを、子ども同士で学び合えるようにし、教員はファシリテートする役割に切り替える。
思い切って指導を最低限にすると、子どもたちが自己決定したり自己調整したりする余白が生まれます。子どもたちの自立を目的に指導を変革した結果、教員の働き方改革にもつながるのです。そうしたやり方に転換した先生たちは、『こんなに目を輝かせて学ぶ子どもたちの姿を見たら、もう前のような手取り足取りの指導には戻れない』とおっしゃいます」
子どもたちが自己決定するクラスになると、「先生に言われたようにやったのに違うじゃないですか」といった不満の声は出なくなる。子どもたちがクラスの文句を言わなくなれば、当然ながら保護者のお叱りも減っていく。好循環を生む鍵が、子どもたちが自立し自己決定する学級経営だといえる。
東京都と大阪府の小学校教員として勤務。教師として悩みぬいた自身の経験から、幸せな先生・大人を増やしたいと、2015年4月に独立し「先生の幸せ研究所」を設立。学校専門ワーク・ライフ・バランスコンサルタントとして、全国の学校や教育委員会で働き方改革と組織開発をサポートしている。著書『「幸せ先生」のダンドリ術』他。
https://www.imetore.com/
教育ライター。株式会社レゾンクリエイト執行役員。出版社勤務を経て、ベネッセコーポレーションにて、学校情報を収集しながら教育情報誌の制作を行う。その後、独立。全国約1000人の教師に話を聞いた経験をもとに、現在、学校や教育現場の事情をわかりやすく伝える教育ライターとして活躍中。著書『SAPIXだから知っている頭のいい子が家でやっていること』など。
https://raisoncreate.co.jp/