「子どもと暮らす家」の賞味期限は意外と短かった。住宅会社も指摘してくれない家づくりの“盲点”

物価高騰により、子育て世代がなかなか家を購入できない時代。一方で、親世代は後継者のいない古い家をどうするかに悩んでいる。いずれ必ずやってくる相続問題。それらを円満に解決する方法を、ライフプランや相続関係に詳しい大阪の工務店『WAKUWAKUハウス』さんに話を伺った。

建て替え二世帯
子どもが巣立つのは意外と早く、夫婦2人、高齢になってから暮らす期間の方が圧倒的に長い。
「相続」というワードは、子育て世代にとってどこかまだ遠いものというイメージがあるかもしれない。親世代にとっても、「私たちはまだまだ元気!」「子どもにこんな話を持ちかけたら負担になってしまうのでは」と、話題に出さない、出せないケースが多い。

しかし今の時代、子世帯が家づくりを考え始めたら話し合う絶好のチャンスなのだ。

子育て世代、親世代の住宅事情

物価高騰により実質的な収入減少、そして資材や土地の高騰などで住宅の価格も上がっていくなか、子育てをしている世代にとって「持ち家」は手の届かないものになりつつある。今、少々無理をして購入したとしても、この先どうなるのか。子どもの教育費などもかさみ、さらに経済的に苦しい状況になるのでは……と想像すると、手が出せないのも無理はない。

一方で、親世代も住まいに対して不安や悩みを抱いている。子どもが巣立って夫婦だけの暮らしになり、ちょうど家のローンが払い終わったと思ったら、もうリフォームが必要な時期。リフォームにお金をかけてしまったら、老後が心配。どうせ継ぐ人もいないのだから家を売ってしまっても良いのかもしれないが、先祖代々受け継いできた土地を自分の代で絶やしてしまっていいのだろうか。

「こういった双方の悩みを円満に解決し、後々相続問題で困らないためにも、“家が欲しい”と思い始めた段階で親と話し合うことが大切です」と語るのは、WAKUWAKUハウス代表の松本さんだ。

「よくよく話してみると、子どもには話したことのない土地などの資産を持っていたというケースも稀にあります。親に万が一のことがあったり、病気などで動けなくなってしまってから話し合うのではできることに制限が出てきてしまいますし、きょうだい間で揉めることも少なくありません。せっかくの資産が負債になってしまうんです。親が元気なうちにどうするか、どうしたいかを本音で話し合っておくことがとても重要です」(松本さん)

親を味方につけることが賢い家づくりの常識に

家を建て替えたい親世帯。新築を建てたいけど建てられない子世帯。双方の希望をうまく歩み寄らせた結果、“建て替え二世帯”という結論に至ったご家族もいたそうだ。親が住んでいる実家の敷地をそのまま使うことで子世帯は土地代がかからず、親世帯は新しく不安のない家に住むことができる。二世帯住宅なので建築費用は少し高くなるが、親世帯は子どもや孫という後継者ができることに納得感を持ってくれるケースが多いそうだ。

「やはりそのような結論に至る方は普段から親子関係が良く、会話も多いので話し合いがスムーズな傾向にあります。どちらも本音で話すので後腐れがないですし、設計や打ち合わせも楽しく進むことが多いですね」と、WAKUWAKUハウスのファイナンシャルプランナー・横山さんは言う。

さらに横山さんはこのように続けた。

「そのような場合、親世帯と子世帯どちらにもライフプランニングをしてもらっています。ライフプランニングは保険に入るときや家を建てるときにしかしないことがほとんどで、50〜60代になってからする方は少ないんです。でも、老後が長い現代には必要なことだと思っています。子どもが巣立ったあとにどのような暮らしをするのか、それにはどのくらいのお金がかかるのかを改めて可視化して把握していただくことで、漠然とした不安もなくなります。これは仲の良い親子であってもなかなか聞きにくい、話しにくいことだったりするので、第三者である私が入ることでちょうど良いように感じています」

WAKUWAKUハウスさんでは、親世帯と子世帯、さらにはもう片方の親世帯のことも考慮しながら、話し合いの仲介に入ることが多いと言う。そこで大切なのは、親御さんの意見を尊重しながら味方につけること、なのだそう。

家族だからこそ話しにくいことは第三者に入ってもらい、改めてライフプランニングする。そして資産を持つ親を味方につけることで、新たな家づくりの道筋が見えてきそうだ。

子世帯に自信を持って引き継げる家を

家を建てたい子育て世代にとって、子どものために住まいを考えることは一般的だ。子どもがのびのび生活できるように、個室を持てるように、登下校しやすいように……親世代も同じようにさまざまなことを考えて住まいを持ったことだろう。しかし、子どもと一緒に暮らすのは大体成人するまでの15〜20年ほど。夫婦2人、高齢になってから暮らす期間の方が長くなるというのは少し考えれば分かることなのだが、そこには気付かない、住宅会社も指摘してくれないことがほとんどだった。

「子どもと暮らす15〜20年のことばかりに着目するのではなく、いなくなってからのことを考えて家づくりをすることも大切です。さらには、子世帯に相続することまで視野に入れて。だからこそ長く安心して住める家を建てなくてはいけないですし、子世帯に自信を持って引き継げる家をつくらなくてはいけないと思っています。丈夫でタイムレスな家をつくることで、子どもたちに相続しやすくなる。子どもたちだけでなく、次世代に活用してもらうチャンスが増えるのではないかと。この視点が親世代では抜け落ちていたことなので、これから家づくりをする子育て世代の方々が意識や視点を変えていくタイミングなのではないかと感じています」と、松本さんは言う。

「長く付き合えて面倒を見てもらえる工務店さんに出会えるかどうかも重要ですね。メンテナンスを怠るとどうしても傷んでしまうので、こまめにお願いできる関係性ができているかどうか。そういう会社に出会えるかどうかは、その後の暮らしに大きな影響を与えると思います」(松本さん) 

親と上手に相続について話し合うコツ

普段全くコミュニケーションを取らず、久しぶりの連絡は大体お願いごと、というのでは、やはり核心に触れる話はしにくいのが当然だ。こまめにコミュニケーションをとり、なおかつ親の意見を否定しないことが大切なのだそう。

「否定から入ってしまうと、もちろんこちらの意見も受け入れてもらえません。ひとまず親の意見は尊重してしっかり聞いてあげることで、こちらの意見も聞いてもらいやすくなります。時代が違うが故にどうしても分かり合えない部分も出てきてしまうかもしれませんが、親を敵に回してしまうと何のメリットもありません。しっかり味方につけて、親にとってメリットになることも提案してあげることで、双方が納得できる話し合いができます」(松本さん)

「子世帯が相続についてある程度知識を持ってから話し合うことも大切ですね。大変だとは思いますが、なかなかそこまで面倒を見てくれる住宅会社さんはないので……。もしくは、そのような話題を振った時に親身に答えたり調べたりしてくれる会社さんかどうか、というのもひとつの判断材料にしても良いかと思います」(横山さん)

早い段階で、親子で相続について前向きな話し合いをする。そして、相続関係の話題にも親身に対応してくれる会社を探す。それがうまくいくことで、誰も損をしない幸せな家づくりの可能性がグッと広がるのだ。
 
資産や相続のことを話すのは、単に家を建てたい人だけに必要なものではない。相続問題はいずれ必ずやってくるもの。それが、親が元気で家を建てる前に話し合えるか、親が弱って持ち家もある状態で急にやってくるか、どちらかだ。ここまで読んでいただいた読者さんなら、どちらが賢い選択かはもう理解できるだろう。
 
取材協力:WAKUWAKUハウス(株式会社 山喜)
大阪市住吉区の工務店。元々建築資材を扱う会社としてスタートし、さまざまな建築現場やリフォーム現場を見ていくなかで住宅業界の問題に直面。本当に長持ちして住む人の幸せが続く家づくりをしたいと、建築部門を立ち上げるに至る。ファイナンシャルプランナーや相続診断士の有資格者が在籍し、セミナーも多数開催している。
https://wakuwaku-house.com/
この記事の執筆者:岩﨑 未来
編集者・ライター。地方移住&大工の夫と自宅をリノベーションした経験から、ソーシャルメディアや住宅関係の執筆を多数手掛ける。3児の母。
https://brightwrite.biz/
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