なぜ「30歳までに結婚した方がいい」は撲滅しないのか。20代後半を襲う“良かれと思って”ハラスメント

アラサー世代を苦しめる「30歳までに結婚した方がいい」「30歳までには○○しなよ」などの言葉。それは、結婚や出産にまつわるものだけではない。相手からすれば“良かれと思って”発言した内容だとしても、モヤモヤしてしまうのは時代錯誤だからなのか。

「30歳までに」という言葉にまつわる価値観のズレ
「30歳までに」という言葉にまつわる価値観のズレ

「30歳までに結婚した方がいい」「30歳までには○○しなよ」

なにかにつけて、30歳という年齢は話題に上る。特に20代後半に差しかかった女性にとって「30歳までに」という言葉はプレッシャーに感じてしまうケースが多々あるようだ。いったいなぜなのだろうか。 

「30までには」と先手を打てば、それ以上詮索をされなくて済む

 「結婚は?」
 
20代後半に差しかかったタイミングで、この言葉をかけられたことのある女性も多いだろう。筆者も地元に帰ると、親や親戚からうんざりするほどかけられた。
 
その時、とっさに返していた言葉がある。「30までには」だ。
 
しかしそれが本心かと言えば、そうではなかった気がする。結婚願望がなかった時も「30までには」と言っていたし、今すぐ結婚したいと考えていた時も「30までには」と言っていた。
 
それは、なぜか。
 
「30歳までには結婚した方がいいよ」や「30歳までには子どもを産んだ方がいいよ」など、その手のアドバイスを受けてきた経験があるからだ。相手より先に「30までには」と先手を打っておけば、それ以上面倒な詮索をされなくて済む。
 
「30歳までに○○しなよ」の言葉を投げかけられるのは、結婚や出産だけではない。30歳という“年齢くくり”は、あらゆるところで女性たちを苦しめている。

20代と30代の間にある壁は、それよりも大人の世代が作ったもの

 「『視聴率を獲得するにはどうしたらいいか、若い女性社員の意見を取り入れたい』と、いきなり会社の上層部が言い始めて」
 
こう話すのは、Aさん(31歳女性)だ。彼女は、某映像会社に所属し、プロモーション業務に従事していた。
 
Aさんは以前、とある大型ドラマのプロモーションに関わった。そのドラマは、いわゆる歴史ものであり、40代以上の男性が視聴者のメインターゲットに設定されていた。

しかし、上層部の男性プロデューサーがターゲット外であるはずの女性社員に対して、突然こんなことを言い始めた。
 
「『このドラマは若い女性にも見てもらいたいから』と、私を含めた女性社員2、3人が指名され、予告編を見た感想をその場で言わされました」
 
絞り出すように、予告の感想、そしてこのドラマを若い女性に届けるために何が足りないか、ということをその場で話したAさんたち。男性は「うんうん」とうなずいてはいたものの、その場で発言した女性たちのアイデアが採用されることはなかったという。
 
しかし後日。味を占めたのか、次は「若い20代の女性社員たちにデジタルの宣伝を考えてもらいたい」という理由で、ドラマに関わっている20代の女性社員と上層部とのブレスト会議が開かれたのだ。
 
そこでAさんがモヤっとしたのは「会議中に何度も発せられる“20代女性社員”に対する“押しつけ”っぽい価値観」だった。
 
「言葉の節々に『若い女性はグロテスクなシーンは見たくないよね』とか『デートでも見られるようにラブシーンを取り入れた方がいいよね』など、20代女性をひとくくりにした発言が目立ちました」
 
31歳のAさんも会議に呼ばれたものの、「常に『今の20代はどうなの?』が主語で進行し、特に意見が出てもなんのアドバイスもない会議にモヤっとが止まらなかった」と語る。
 
「結局、その会議で出たデジタル戦略は、ふわっとしていましたし、その後どうなったかよく分かりません。あの会議は会社の上層部の“自己満足”だったと思います。それに、『20代の若い女性は~』と言われれば言われるほど、31歳の私は、もう“若い女性”じゃないんだ、対象外ってなんだか落ち込んでしまって」
 
Aさんの勤める会社の求人サイトには「20代の若い社員たちが活躍中!」の文字がある。
 
「30歳を超えて思うのは、“20代”と“30代”の間には大きな壁があるということ。だけど、その価値観を作り出しているのは、20代と30代の境目を生きる私たち当事者ではなく、ずっと大人の世代だと思う」

「29歳ハラスメント」に賛同の声も。“良かれと思って”発言のズレ

Aさんの言う「『若い=20代』という価値観を作り出したのは、当事者である私たちよりずっと大人の世代」という言葉は、冒頭で述べた結婚や出産にも当てはまる。
 
20代後半の女性たちに「30歳までに○○しなきゃ」といった言葉を投げかけるのは、主に親世代だ。それはイコール「若い女性の意見を」とAさんたちを招集した会社の上層部の男性と同世代でもある。

2022年、TBS NEWS DIGの公式YouTubeチャンネルが、「30歳までに○○しないと」など、20代後半に差しかかった女性たちが周りからの圧力を感じることがある現象を「29歳ハラスメント」と表現した。

この番組が放送されるやいなや、SNS上では「分かる」「ほぼ毎日のように結婚したい?と聞かれるのが辛いからほっといて 30歳までに結婚して子どもを作ることを強いられている」「なんでもハラスメント呼びするのは賛同しないが 29歳ハラスメントは分かる気する」など共感の声が相次いだ。

しかしこの「30歳までに」は、すでに崩壊しつつある。
 
厚生労働省の「人工動態統計」によると、男女ともに日本の初婚年齢は上昇を続け、2022年の初婚年齢は、男性31.1歳、女性29.7歳。親世代の生きた1960~1970年代と比較してみると、男女ともに4~5歳程度上昇し、未婚率も年々増加中だ。
 
アラサーの親世代にとって「20代で結婚する」というのは当然のことだったのかもしれない。そしてそれによって自分が幸せだった、という経験の上で、アドバイスをしている側面もある。
 
「20代女性の若い意見を」と言うAさんの上司の男性も、「30歳までに○○しないと」とアドバイスする親戚も、彼らの価値観の中で“良かれと思って”発言していることは間違いない。
 
しかし、その“良かれと思って”が、多様性の時代を生きる女性たちを苦しめていることを、頭の片隅に置いておいてほしいと思う。20代と30代の境目を生きる当事者(筆者)からのお願いだ。

※回答者のコメントは原文ママです

この記事の筆者:毒島 サチコ プロフィール
ライター・インタビュアー。緻密な当事者インタビューや体験談、その背景にひそむ社会問題などを切り口に、複数のWebメディアやファッション誌でコラム、リポート、インタビュー、エッセイ記事などを担当。
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