デートや婚活、結婚式……恋愛や結婚にはお金がかかる。特に現代社会においては、働き方や生き方の多様化が進み、恋愛とお金に対する価値観も変容している。本連載では、これからの「恋愛とお金」について、アラサーの恋愛ライター・毒島サチコが取材をもとに考察。第19回は「年収660万円の独身女性の本音」について紹介する(第18回はこちら)。
年収は660万円なのに貯金は50万円以下。一体なぜ?
「年収は660万円くらいで、貯金は50万円以下です」こう語るのは、チカさん(29歳/仮名/会社員)だ。
年収328万円――。これは国税庁が発表している「民間給与実態統計調査」による、20代後半女性(25~29歳)の全国平均年収である。平均年収を大きく上回るはずのチカさんだが、彼女の口からは「なかなか貯金は貯まらないですね」という言葉が。
一体なぜなのだろうか。
“仕事重視”の生活。食事はUber Eats、ボーナスはご褒美に
「手取りで言うと、520万円くらいです。節約しなくていい生活を送れているのはありがたいのですが、くたくたになるまで働いてます」そんなチカさんの月の出費を詳しく聞いてみると、以下のような内訳だ。
<月収(手取り)35万円>
・家賃(新築1LDK/大阪市内):12万3000円
・食費:5~10万円くらい(月による)
・光熱費・通信費:3万円
・娯楽・交際費:6万円
・美容代:3万円(ヘアカット・まつげエクステ)
・資格取得費:2万円
・交通費:なし
支出合計:約36万円
これとは別に、年間のボーナスが3カ月分ほどある。しかし彼女は「ボーナスはご褒美として、旅行や家族へのプレゼントに使う」と語る。話を聞く限り、ボーナスの余りが貯金になっているようだ。
チカさんは、職場近くの新築マンションに住んでいるため、基本は自転車移動。交通費はかかっていない。生活費の内訳の中でチカさんが「絶対削れない」のは、家賃、食費、美容代だという。
「満員電車に乗るストレスを回避し、始業ギリギリまで寝れるように、会社から近いマンションに住んでいます。セキュリティー面を考えて、市内の新築のオートロックのマンションです」
また、食費に関しては、よくデリバリーサービスを頼んでいる。
「食費がどうしてもかさんでしまうのは、仕事柄、帰宅が遅くなりがちだから。Uber Eatsをよく利用します。毎回コンビニだと味気ないので、仕事を頑張ったご褒美として、女性1人だと行きづらいお店のものを“ウーバーする”ことで、明日も頑張ろうって。コロナ禍で週2の在宅ワークになった時期にUber One(定額サービス)に入ったので、以前より頻繁に利用するようになりました」
チカさんの話を聞くと、まさに1人暮らしを謳歌(おうか)する“バリキャリ女性”といったイメージだ。
しかし彼女は、この生活スタイルのせいで、恋愛がうまくいかなくなった側面がある、と語る。
恋人には「自分で稼いだお金」なのに文句を言われ……
「27歳の時に、結婚を考えた彼がいました。両親にも彼を紹介して。でも結局、彼とはダメになったんです。理由は互いに“譲れなかったから”。同棲話が出た時に、私は自分の会社の近くから離れたくなくて。でも彼は今後の生活も考えてもう少し落ちついた場所に引っ越そうと。私のお金の使い方に関しても『もう少し考えた方がいい』と言われ、『なんで自分で稼いだお金なのにそんなこと言われなきゃいけないの?』と言い合いになったりして……」
当時チカさんが交際していた彼は、職場で知り合った2つ年上の男性だった。チカさんよりも高収入だったというが、2人の価値観は大きくずれていた。
「たぶん彼は、家庭的な女性が好きだったんだと思います。私と別れた後、すぐにどこかの地方局でフリーアナウンサーをしていた女性と結婚しました。結婚後、奥さんは仕事を辞めて、完全に家庭に入って。インスタで料理をアップしていますね。『結局顔かよ!』と突っ込んだけど、正直すごく悲しかった」
“不安定な職業の人”と付き合い、心配されるのは女性だけ?
チカさんはこの経験を経て、次に付き合う人は「私の仕事を応援してくれる人にしよう」と考えた。そこで出会ったのが、今も交際中のヨウジさん(26歳)だ。
「ヨウジは私よりも年下で、今は飲食店のコンサルをフリーでやっています。不安定な仕事ですが、私の部屋で半同棲生活を送りながら、家事も積極的にやってくれるので、助かっています」
しかし、ヨウジさんを友人や家族に紹介すると、微妙な反応が。
「『そんな不安定な職業の人と付き合って、今後結婚とか考えられる? 女性はこのまま自分がキャリアをずっと築けるかどうかも分からないし』と言われました。ごもっともですが、なんだかモヤっとしてしまって」
チカさんがモヤっとしたのは、元恋人が結婚したフリーアナウンサーが頭をよぎったからだった。
「元カレは、フリーアナウンサーの女性と結婚するとき、周りから私のように『そんな不安定な職業の人と付き合って大丈夫?』なんてことは言われなかったと思います。なぜ女性だからと言う理由で、私だけそんな風に言われないといけないのか。もちろん出産でのキャリア断絶などの可能性があるのは分かりますが……」
チカさんは今、悩んでいる。
「男性の年収に対するこだわりがなくても、自分と同じくらい稼いでいる男性と結婚したほうが、自分のためにも、周囲のためにもいいのだろうか」
女性は変わってきている。でも、男性は変わらない?
一周回って、現在は「元カレのような人」を結婚相手として考えた方がいいのでは……と考えはじめたチカさん。しかし、年収660万円のチカさんより稼いでいる同世代の男性は、果たしてどれくらいいるだろうか。さらにチカさんは自身の経験から「稼いでいる男性が選ぶ女性は、私のようなタイプではなく、元カレが結婚するようなタイプの女性だ」と肩を落とす。
確かに、筆者の経験値でも、女性向けメディアでは「高収入男性と結婚する方法」といった記事がよく読まれる。内容は、外見を磨くことや、家事能力を向上させることなどが重点的に書かれたものが多い。
一方、これだけ女性の社会進出が進んだ現在も、男性向けに「高収入女性と結婚する方法」という記事は目にしない。
「今まで結婚も仕事も全て手に入れてやろう! と思って頑張ってきた。でも現実は“何かを捨てないと何かは手に入らない”。貯金も結婚も、何かを“諦めた”先にあるものだと思いはじめています」
来年の4月で30歳を迎えるチカさん。30代を手前に、新たな思考を持ち始めている。
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この記事の筆者:毒島 サチコ プロフィール
ライター・インタビュアー。緻密な当事者インタビューや体験談、その背景にひそむ社会問題などを切り口に、複数のWebメディアやファッション誌でコラム、リポート、インタビュー、エッセイ記事などを担当。